天下人もクジラもみんな好物!昔から親しまれている「蕎麦ジョーク」を集めてみました!

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天下人もクジラもみんな好物!昔から親しまれている「蕎麦ジョーク」を集めてみました!

皆さん、蕎麦(そば)はお好きですか?筆者は大好きです。

蕎麦が大好きな筆者(イメージ)。葛飾北斎「無芸大食(北斎漫画)」江戸時代

昔から日本人の食生活になじみの深い蕎麦ですが、同時にジョークのネタとしても親しまれてきました。そこで今回は、蕎麦にまつわる古典的ジョークをいくつか紹介したいと思います。

秀吉と蕎麦掻

今は昔、時の天下人・豊臣秀吉(とよとみ ひでよし)が家来たちと一緒に夜食の蕎麦掻(そばがき。蕎麦粉を熱湯で練ったもの)を食べていると、長岡玄旨(ながおか げんじ。細川幽斎)がよい香りに釣られてやって来ました。

「おぉ、玄旨か。そなたも皆と蕎麦を食え。美味ゃあでよ」

と蕎麦掻の椀を差し出されました。すると玄旨は即興で、こんな和歌を詠んだそうです。

「薄墨に 作りし眉の そばかほを よくよく見れば 帝なりけり」

※江戸初期の笑話集『きのふはけふの物語』より。

歌の才能でも知られた長岡玄旨こと細川幽斎。Wikipediaより。

薄墨(うすずみ)とは黛(まゆずみ。眉を描く墨)の薄いものですが、女房詞(にょうぼうことば。女性たちの間で流行った隠語)で「蕎麦掻」を意味しています。灰色のぼったりとした形状が、眉を連想させたのでしょう。

そばかほ(側顔)とはそのまま横顔の意味で、これは「蕎麦or蕎麦掻」との掛詞(かけことば)です。

そして帝(みかど)とは天皇陛下の事ですが、女房詞では「蕎麦」を意味します。蕎麦の実には角(かど)のような突起が三つあるため、「三角⇒帝」と掛けたのです。

つまり、この和歌は「薄墨で眉を描いた横顔をよく見たら、何と帝でいらっしゃいましたか」という意味になりますが、ここで帝と言っているのは外ならぬ最高権力者である秀吉を指しています。

帝と見間違えるほどに素晴らしい方……ずいぶんご大層なおべんちゃらもあったものだ、と周囲の者たちはその図太さに呆れるやら感心するやら……とまぁ、そんなお話。

「もり蕎麦はごめんだ」

さて次は、江戸後期の笑話集『松魚風月(かつをふうげつ)』から、こんなジョーク。

ある時、鯨(くじら)が久しぶりに江戸湾・品川まで遊びに来ました。鯨は魚たちの大親分であることから、みんなこぞって大歓迎です。

「此所へよくこそ、親分は来たりしぞ。なんぞ馳走をせん、のぞみ給へ」

【意訳】これは親分、ようこそおいで下さいました。これよりお食事をご用意致しますゆえ、何なりとお申しつけ下さいませ……。

すると鯨は鷹揚に答えて言います。

「いやいやみちみち(道々)も、鰯(いわし)をまんと食べて来たりしゆゑ、外のものはのぞみなきゆゑ、蕎麦にてもふるまはれ(振る舞われ)よ」

御馳走なら品川にやって来る道中、ごまんと鰯を食べて来たので、今はサッパリした蕎麦が食べたい……鯨がそんなリクエストを出します。

「お安い御用でございます(蕎麦はなによりやすき事)」とさっそく厨房へ走ろうとする魚たちを呼び止めて、鯨は念を押しました。

鯨は「もり」が大嫌い。作者不詳「古座浦捕鯨絵巻」江戸時代。

「そうだ、くれぐれも『もり』はいかんぞ。もう『もり』はこりごりだ……(コレかならず、もりはごめんだ)」

これは「もり蕎麦」と、捕鯨に使う漁具の銛(もり)をかけたジョークですが、品川に鯨がやって来たという設定は寛政十1798年5月1日、鯨が品川沖の浅瀬に座礁したエピソードに由来しています。

「此日品川沖より鯨上る。長九間壱尺。高一丈余ありとぞ」

『続徳川実紀』

体長約16.5m、体高約3.03mという巨躯は、おそらく鰯を主食とするナガスクジラであろうと推測されていますが、もしかしたら鯨の親分が「まんと食べて来たりし」鰯が、解体した胃袋の中から出てきたのかも知れませんね。

やっぱり 〆は「かけ蕎麦」で

さて、天下人も鯨も大好き?な蕎麦ですが、最後は最もシンプルな「かけ蕎麦」にまつわるジョークをまとめていくつか。

葛飾北斎「蕎麦売り(北斎漫画)」。

【一】
出前の注文を受けた蕎麦屋の小僧が、岡持ちを担いで全力疾走で配達したところ、当然どんぶりはひっくり返って蕎麦もぐちゃぐちゃ。お客さんはカンカンに怒りました。
「何だって、そんな乱暴に持って来やがるんだ」
「だって、注文が『かけ(駆け)蕎麦』だったから」

【二】
これに懲りた小僧、今度は出前の注文を受けてゆっくりゆっくり歩いて運んだところ、あまりに遅すぎて蕎麦がでろでろにのびてしまいました。やはりお客さんは怒ります。
「何だって、そんなにチンタラ持って来やがるんだ」
「……掛け(ツケの支払い)が延びたら喜んでくれるかと思って」

【三】
今度は早すぎず遅すぎず、きちんと出前した小僧。食べ終わった丼と代金を回収に行ったら、丼の中にカネがありません。
「お客さん、こういうのは空いた丼に蕎麦のお代を入れておくもんですよ」
「いやいや、俺が食ったの蕎麦は『掛け(ツケ)』だから、支払いは晦日(みそか。月末)に頼むよ」

……おあとがよろしいようで。

※参考文献:
鈴木健一『風流 江戸の蕎麦 食う、描く、詠む』中公新書、2010年9月25日

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