野村克也「プロ野球界への遺言」 (3/5ページ)
表では冷静だったミスターですが、陰では“野村に負けると腹が立つ”と感情的になっていたそうです」(球界関係者)
だが、この挑発は、野村監督流の“戦術”だった。〈ヤクルトは巨人よりも人気がなく、戦力も劣っていた。しかし、頭脳を最大限に働かせれば、弱者でも強者を倒すことができる。(中略)長嶋を怒らせることによって冷静さを失わせ、采配でミスを誘うべく、情報戦を仕掛けたのである〉
一方、打撃記録で切磋琢磨したのが王氏だった。〈王に対しては、同じホームランバッターとして強く意識していた。王は俺の価値を下げた男。もし王がいなければ、本塁打と打点の通算記録は、今でも俺がトップだったんだから〉
まだ交流戦のない時代、王氏とはリーグが違うため、日本シリーズ以外で対戦することはない。しかし野村さんは、公式戦ではないオープン戦やオールスター戦でも、王氏を抑えるべく、捕手として全力を尽くした。〈王の分析は嫌というほどやった。実際、王はオールスター戦で二十数打席ノーヒットだったことがあって、そのときのパ・リーグのキャッチャーは俺なんだよ〉
ただし、これにも、ちゃんと意図があった。「打撃記録でことごとく上を行く王さんを見かねて、“こうやって抑えるんだ”とセ・リーグのバッテリーに見本を示したかったようです。でも“全然参考にしてくれなかった”とボヤいていましたね。確かに、セの他球団がノムさんの王対策を学んでいれば、記録はもっと拮抗していたかもしれません」(ベテラン記者)
「ONがひまわりなら、俺は月見草」という名言からも分かる通り、ONに闘志をむき出しにした野村さん。しかし、その反面、同じ野球人として、実は誰より2人を尊敬していた。
〈現役時代の長嶋は、まさに“真のプロフェッショナル”だった。(中略)本当に“ミスタープロ野球”の名にふさわしい存在〉〈王が努力する姿には度肝を抜かれた。たとえ同じ回数の素振りをしていたとしても、その集中力や迫力は王の足元にも及ばない〉
■戦友としての意識へ
「2018年に長嶋さんが倒れた後、野村さんから“長嶋は大丈夫なのか?”と逆取材されたことがありました。容態を気にかけていたようです。