史実だけ見てもわからない 直木賞作家・朝井まかてが語る「幕末という時代」 (2/3ページ)
それが長年引き継がれて、彼女のイメージを歪めてきました。
――『グッドバイ』では、彼女の男性関係についてはほとんど触れられていませんね。
朝井:資料を読んでいると、男性とは縁のない人だったように感じたんです。恋愛沙汰があった方が小説としてはドラマチックになるのかもしれませんが、彼女の人生を見ていると、どうも恋愛している暇がない(笑)。長次郎に寄せた想いはまったく別物で、あの想いにこそお慶らしさがあると私は思っています。タイトルにも深くつながっている部分です。
――彼女の周辺の人物も、それぞれに個性があってすばらしかったです。彼らについても史実に基づいて書いているのでしょうか?
朝井:そこはフィクションの部分が大きいのですが、史実と組み合わせて造形した人物も多いです。
たとえば大浦屋の奉公人として登場する友助は実際にいた人物で、奉公人という立場にもかかわらず、大浦家の墓所に葬られていて、過去帳にも名前が載っています。作中で書いた彼の人生については創作ですが、お慶にとって何か強い思い入れがあった人なんだろうなという考えが土台にあります。
――セリフなどから垣間見えるオルトやグラバー、テキストルといった当時日本にやってきていた外国人たちの思惑が生々しかったです。なぜ日本に目をつけたのかについても、それぞれに事情と狙いがあってすごくリアルに感じられました。
朝井:それこそが大浦慶を主人公に選んだ目的の一つだったので、そう言っていただけるとすごくうれしいです。当たり前のことですが彼らの日本観もさまざまで、グラバーのように自分が破産しても日本に尽くしてくれた人もいれば、そうでない人もいます。
――日本や日本人を下に見ていた人もいたようですね。
朝井:そう。明治に入ってからも、不平等条約が続いていた間は不心得な外国人も多くて。船の雑役婦や港の人足として日本人を雇いながら報酬を払わなかったりといったことも、頻発していたようです。