元大関・豪栄道インタビュー「最後の土俵で思ったこと」

日刊大衆

元大関・豪栄道インタビュー「最後の土俵で思ったこと」

 新型コロナウイルスの影響で、無観客開催という異例の形で、3月8日から始まった大相撲春場所。その土俵上に、大阪府寝屋川市出身の“ご当所力士”、豪栄道の姿はない。

 カド番で臨んだ1月の初場所12日目の朝乃山戦に敗れ、無念の負け越し。大関を33場所務めた和製大物力士は、潔く引退を決めた。年寄武隈を襲名した親方に、初場所を振り返ってもらうとともに、力士人生、春場所の見どころを直撃!

ーー親方、改めまして15年間の土俵生活、お疲れさまでした。引退された今は、どんな心境ですか?

武隈親方(以下、武) まだ実感が湧かないというか、部屋(境川部屋)では若い力士に稽古をつけたりしているから、生活そのものがそう変わったわけじゃないんですよね。ただ、問題は服。これまでは着物に雪駄でしょう。首が太いから、ワイシャツの首回りがキツイし、革靴とかもはき慣れてないから、ビーサンでごまかしたり……(笑)。ホラ、今日もこんな感じ(スーツの足元はビーチサンダル)。

ーー(笑)。食べる量も減りましたか?

武 それがそうでもなくて……。現役時代にお世話になった方々に、引退のあいさつに行っているんですが、その席で食べたり、飲んだり……。食べる量を急に減らすこともできないのに、運動量のほうは減っているから、全然痩せない。たぶん現役時から5キロくらいしか減っていないんじゃないかと思います。

ーー親方は33場所で大関を務めました。初場所で負け越した(5勝10敗)ことで、陥落が決まりましたが、大関復帰の道もあったと思います。

武 それは皆さんに言われます。「春場所で10勝すれば、大関に戻れるんだから……」って。でも、自分は3年くらい前から、「大関から落ちたら引退しよう」と心に決めていたんです。2016年に優勝して、よりそういう心構えになりました。自分の中で一つのけじめみたいな感じですね。近しい人には、その話はしていました。大関陥落が決まり今場所で最後なんだと思ったときに、今まで応援してくれていた人たちに対して、しっかりとした相撲を取らなければ失礼だと思い、残り3日の土俵に上がったんです。

 春場所については、「大関から落ちたら引退」と決めているのに、“春場所で復帰を目指す”と、自分の意志を曲げてしまったら、この先の人生に甘えが出てしまうようにも思えたんです。それで、きっぱり初場所で引退しようと決めたんです。ただ、自分勝手なワガママで引退してしまい、申し訳ないという気持ちは今もあります。

■最後の取り組みについて

ーー現役最後となった初場所千秋楽は、若手・阿武咲との対戦。国技館には、豪栄道コールが響いていましたね。

武 東京でのコールって珍しいんです。この一番で引退することは自分だけで決めていたことだったので、なんでコールが起こったのかは分からなかったんですけどね。それまでは土俵上で感傷的になることもなかったのに、このときの豪栄道コールは心にめちゃくちゃ響いて、涙が流れそうになりました。今思えば、相撲を取る前にそんな心境になること自体、勝負師としては終わっていたんでしょうね。阿武咲との取り組みにしても、自分の一番得意だった形で組めたのに、柔道の一本負けのような下手投げでやられてしまいましたからね。

 勝負の世界は単純です。勝てないということは実力がないということ。弱くなったから負け越して、弱くなったから引退した。それだけだと思います。

ーー親方のそうした勝負師としての思いも、多くの人に応援されてきた部分だと思います。15年の現役生活の中で、記憶に残っている取り組みはありますか。

武 自分の中でターニングポイントになったと思うのは、12年春場所。このとき自分は前頭6枚目だったんですが、千秋楽に大関・鶴竜関と対戦して、いい相撲で勝ったんです。これがすごく自信になって、次の場所で関脇に上がって、そこからも長かったんですが(笑)、関脇から落ちることはなかったんですよ。

ーー大関昇進となったのは14年でしたね。

武 14年も記憶に残っていますね。春場所12勝、夏場所8勝で、次の名古屋場所で13勝を挙げれば、大関昇進という状況だったんです。それなのに、前半戦で2敗してしまって……。そんな中、迎えた11日目の横綱・白鵬戦。なかなか勝てなかった横綱に勝ったことで、自信になりましたね。そして13日目から3連勝して、なんとか大関に昇進することができたんです。

ーー大関昇進の口上「謹んでお受けいたします。これからも大和魂を貫いて参ります」は、印象的でした。

武 大和魂という言葉の解釈はいろいろあると思うんですが、自分はヤセ我慢を含めた我慢強さだと思っているんです。力士なんだから、痛いところもあるし、悔しくて泣きたいときもたくさんある。でも、そういう部分を表に出さない。言い訳をしない。そうした力士でありたいと思ったんです。

ーーそして大関昇進後、3度目のカド番で迎えた16年秋場所、全勝優勝という大輪の花を咲かせます。

武 大関昇進以来、毎場所優勝を狙っていましたけど、まさか全勝できるとは……。13日目、日馬富士関に勝って13戦全勝になって、翌日にも優勝が決まる、という状況になったときは、さすがに一睡もできなかった。自分は緊張するタイプじゃないと思っていたのに、意外と“緊張しい”なんだなって思いましたね。

 現在発売中の『週刊大衆』3月23日号では、初場所で幕尻優勝を果たした徳勝龍のインタビューも掲載している。

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