気分だけでも春を感じて。詠み継がれる日本の心「桜」がテーマの和歌おすすめ8首を紹介

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気分だけでも春を感じて。詠み継がれる日本の心「桜」がテーマの和歌おすすめ8首を紹介

新型コロナウィルスの感染を防止するため、不要不急の外出自粛が各地で要請されています。

そうなると、この時期のお楽しみである花見も当然自粛しなくてはなりませんが、気分だけでも春を感じようと「桜」に関するおすすめ和歌を8首ばかり集めてみました。

少しでも気晴らしのお役に立ちましたら幸いです。

儚いからこそ、美しい。

あしびきの 山桜花(やまさくらばな) 日並(なら)べて かく咲きたらば いと恋ひめやも

※『万葉集』より、山部赤人(やまべの あかひと。生年不詳~天平八736年?没)

【意訳】山を彩る桜の花が、いつまでもこんなに咲き誇っていたら、こんなにも恋しいものだろうか(=桜の花は、散るからこそ美しく、心惹かれるのだ)

「あしびきの」は山にかかる枕詞(まくらことば。定型フレーズ)で、足を引いて(引きずって)登る山の険しさから、強調を意味するとも言われます。

儚いからこそ、美しい。桜が日本人の美意識に根ざしていることがよく解る一首です。

晶子も愛した?祇園の夜桜。

清水(きよみず)へ 祇園(ぎおん)をよぎる 桜月夜(さくらづきよ) こよひ逢ふ人 みな美しき

※『みだれ髪』より、与謝野晶子(よさの あきこ。明治十一1878年生~昭和十七1942年没)

【意訳】清水寺に参詣するため、桜の花が咲き誇る祇園の街を通り抜ける月の夜は、逢う人がみんな美しく見える(ほどウキウキしている)。

よっぽど清水寺への参詣(たぶんデート)が楽しみなのでしょう。普段は正直どうでもいい通行人ですら美しく見えるほど、美しい月と桜の夜道を出かけていく姿が偲ばれます。

どんな桜も、あなた(大伴家持)には敵(かな)わない。

桜花(さくらばな) 今ぞ盛りと 人は言へど 吾(あれ)は寂(さぶ)しも 君としあらねば

※『万葉集』より、大伴池主(おおともの いけぬし。生年不詳~天平勝宝九757年没)

【意訳】桜の花が満開だとみんな喜んでいるが、あなたと一緒でない私には、ただ寂しいだけだ。

この「君」とは、彼の想い人であった大伴家持(おおともの やかもち)と言われており、他にも「春の花を一緒に手折って、あなたの髪に飾りたいものだ」という和歌も残しています。

悪くないシチュエーション。

願はくは 花の下(した)にて 春死なん そのきさらき(如月)の もちつき(望月)のころ

※『山家集』より、西行法師(元永元1118年生~文治六1190年没)

【意訳】出来ることなら、人生の最期は旧暦2月の十五夜、満開の桜の下で迎えたいもんだ。

桜にまつわる和歌と言えば、こちらが定番。死という人生で最も寂しい瞬間こそ、最も華やかに迎えたいもの。結局、みんな独りなのですから。

同じ桜を愛でた君は、もういない。

花の色は 昔ながらに 見し人の 心のみこそ うつろひにけれ

※『後撰和歌集』より、元良親王(もとよししんのう。寛平二890年生~天慶六943年没)

【意訳】桜の美しさは昔からずっと変わらない。変わるのは、それを見る人の心だ。

かつては同じ花を見て、その美しさを共に愛でたあなたの心は、すっかり変わって遠く離れてしまった、そんな情景が思い起こされる一首です。

しかし、別れがあれば出会いもあるもの。元気出していきましょう。

武士も桜も、散ればこそ華。

深山木(みやまぎ)の その梢(こずゑ)とも 見えざりし 桜は花に あらはれにけり

※『詞花和歌集』より、源頼政(みなもとの よりまさ。長治元1104年生~治承四1180年没)

【意訳】山深い木々の中、その梢に花が咲いたので、ようやくその樹が桜だと見分けられた。

桜は咲かねばそれと判らぬ……武士は戦わねばそれと判らぬ……穏健で争いを好まず、限界まで平和主義を貫いた彼が、最後の最後で「武士の意地」を示した人生を表しているようです。

桜も武士も、散り際こそが美しい……彼の志は、後に武士の世を築く礎となりました。

山峡(やまかひ)に 咲ける桜を ただ一目 君に見せてば 何をか思はむ

※『万葉集』より、大伴池主(おおともの いけぬし。生年不詳~天平勝宝九757年没)

【意訳】山の中に咲いているあの桜を、一目でいいんだ。あなたに見せることが出来たなら、もう何も思い残すことはありません。

あなた、とはやはり大伴家持。よっぽど彼の事を愛していたのでしょうね。後に橘奈良麻呂(たちばなの ならまろ)の乱に加担した罪で獄死した池主は、最期まで自分の事よりも彼の幸せを案じ続けたことでしょう。

桜さえ存在しなければ、こうまで春に心惑わされはすまいものを……。

世の中に たへて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし

※『古今和歌集』より、在原業平(ありわらの なりひら。天長二825年生~元慶四880年没)

【意訳】もし、この世から桜がなくなってしまったら、春はもっと穏やかな季節になるだろうね。

美しく咲いて心を浮き立たせ、儚く散っては心を惑わせる。古来日本人の心情を大きく揺さぶり続けた桜の花さえなくなれば、春はどれだけ平和な季節に……そして味気なくなることでしょうか。

何があろうと、今年も春がやって来る。これまでも、これからも。詠み継がれる桜の花は、日本人の美意識に強く訴え続けます。

※参考文献:
佐竹昭広ら校注『万葉集』岩波書店、2013年1月16日
久保田淳『久保田淳著作選集 1 西行』岩波書店、2004年4月6日
与謝野晶子『みだれ髪』新潮文庫、2000年1月1日
松田武夫校訂『後撰和歌集』岩波文庫、1945年2月15日
川村晃生ら『金葉和歌集 詞花和歌集』岩波書店、1989年9月20日
佐伯梅友校註『古今和歌集』岩波文庫、1981年1月16日

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