過去を消した女たち 第15回 マルタ(40) 娼婦だった過去を現在の夫は知っているのか? (1/2ページ)
「あまり話したくないことですけど、貧乏から抜け出すには仕方なかったの」
来日して20年になるコロンビア人のマルタ(40歳)は、かつて横浜にあった巨大な売春街、黄金町で体を売っていた。
黄金町には狭い路地に500軒といわれるちょんの間が建ち並んでいただけでなく、それ以上の立ちんぼたちの姿もあった。私が取材した2000年代初頭、立ちんぼの多くは、タイ人とコロンビア人だった。常時、10人ほどのコロンビア人がおり、その中にマルタの姿もあったのだ。
マルタが来日したきっかけは、コロンビアのアルメニアという街に暮らしている子どもの養育費と家族の生活費を稼ぐためだった。
「お父さんは体が弱くて仕事が満足にできない分、お母さんがレストランで働いたりして頑張ってくれていました。けど、食べていくだけで精一杯、洋服を買ったりするお金はなかった。そんな苦しい生活から抜け出したかった。あと、高校の時に付き合っていたボーイフレンドとの間に子どもができて、その面倒も見なければならなかったの」
コロンビアでは、いい仕事を見つけるには大学を卒業する必要があるという。当然ながらマルタの家に、それだけの経済的余裕はなく、高校卒業とともに現金を稼ぐ必要に迫られていた。
「家の近くに、日本から帰って、大きな家を建てた女性がいたの。それを見て、日本に行ったらあんな家が建てられて、今までと違った生活ができるんだと思った。仕事の内容は、詳しく知らなかったけれど、日本に行かせてあげるというおばさんに連絡を取って、高校を卒業してから1年後に日本に向かったの」
彼女が言うおばさんとは、昔ながらの言葉で言えば、女衒である。マルタを商品として日本に送り込み、いくばくかの金を得ている女性だ。ただ、マルタにとって日本に行かせてくれるのであれば、誰であれ気にもしなかった。
「日本での仕事は、来日のための諸費用として背負わされた500万円の借金を返すための売春だった。最初は、何でそんなことをしなきゃいけないのと思った。だって、おばさんはレストランでウエートレスをするだけだと言っていたから、それを信じていたの。日本に来たばかりで何にも分からないし、逃げる場所もない。家族のためだと思って頑張るしかなかった。