過去を消した女たち 第16回 美鈴(36) 働かない男に代わり出会い系で客を探していた (2/2ページ)
一緒に暮らして、彼の嫌な面がたくさん見えてしまったんです。子どもにも厳しくて、しつけだと言って毎日怒鳴っていました。上の子は4歳の時にオムツを外したのですが、たまたまオネショをしてしまったことがあり、ひどく怒られたことがあっんです。それ以来、長男は夜だけでなく、昼間もオムツが外せなくなってしまいました」
パートナーの男性は、家庭内暴力ばかりでなく、仕事もしなくなっていった。
「私と出会った頃は、トランペットの演奏者として、有名歌手のバックで演奏していたこともあったんです。実際、彼が映っているDVDを見せてもらったこともあったので、かなり稼いだ時代もあったようです。でも、詳しいことは分かりませんが、だんだん仕事が減って、子どもが3歳の頃には無収入になっていました。生活が出来ないから何度も働いてとお願いしたんです。でも、元ミュージシャンというプライドからなのか、アルバイトすらしてくれませんでした。いつまたオファーが来るかもしれないと言い、毎日、公園でトランペットの練習をする以外、何もしていませんでした」
いつ来るか分からないステージのために練習するより、その日の生活が何より重要だった。おそらく、パートナーの男性も、そのことに気づいていただろう。だが、男のプライドにより、一家の生活はさらに困窮の度合いを深めていった。
「食費を工面するだけでも精一杯、自分のことは二の次でした。化粧品を買うこともできないので、ドラッグストアの試供品で化粧をしたこともありました」
美鈴は、自分の手で一家を支えることを決意した。それは体を売ることだった。
「子どもが小さかったので、水商売をするのは無理。昼間に出会い系で相手を探しました。そんなことはやりたくなかったけれど、子どもたちを育てるためには仕方ありませんでした」
売春は美鈴にとって、かなりの苦痛を伴う仕事だった。半年ほどで、精神的にも限界に至ったという。
「怖い目にあったりとかはなかったんですけど、やはり、体を売ることへの抵抗感が消えなかったんです。それでストレスが溜まり、些細なことで私まで子どもを怒るようになったり、それまで以上に家庭の中がギスギスしてしまいました。ある日、ふと思ったんです。彼と一緒にいるからいけないんだ。この人と離れて暮らそうと」
2人の子どもを連れて、美鈴は実家へと帰った。
「最初から、そうしていればよかったのかもしれませんが、家族4人で暮らすことが子どもにとって大事なことだと信じていたので、頑張っていたんです」
帰るべき場所があり、美鈴は売春から足を洗うことができた。これからも、もう二度とあんなことはしたくないという。
新たにはじまった生活の中で、売春していた過去を、彼女は親にも、子どもにも、誰にも話していない。ただ、消すことのできない傷として、心には永遠に残り続けていくのだ。