2021年のキーワード 「社会の分断」が描かれた小説4作 (2/3ページ)

新刊JP

■落日の大帝国が生んだ分断『わたしの名は赤』

表紙

オルハン・パムク『わたしの名は赤』もまたオスマン帝国に生じた社会の分断を題材にしている。「初期は強すぎて手がつけられず、末期は弱いのに大きすぎて潰すに潰せず」と言われるオスマン帝国に弱体化の兆しが見え始めた頃の1591年のイスタンブールでは、異国文化が花盛りであり、そこには伝統的なイスラームを重んじる人々との心理的な軋轢が生まれていた。

かすかにだが確実に存在していた社会の分断に至る最初の亀裂。その亀裂はイスタンブールの細密画師の殺害事件となって表面化する。

■クーデターは成功しても失敗しても混乱が待っている

表紙

クーデターを書いた小説についても触れておきたい。現代のクーデターは、今回アメリカで起きたような「大衆を動員する」形よりも、2016年のトルコ(未遂)しかり、2020年のマリ(政権転覆)しかり、軍が権力者から寝返る形で企図されることが多い。

クーデターは失敗しても成功しても、その後に起こるのは混乱である。アレホ・カルペンティエル『失われた足跡』の主人公は、原住民の楽器の蒐集のために訪れた南米の都市でクーデター(革命)に遭遇。滞在中のホテルに缶詰めとなってしまうが、困ったのはホテルの従業員らが自身もクーデターに参加するために仕事を放棄して出て行ってしまうこと。

客人ばかりが残されたホテルなど不便なものでしかない。

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