敵がいてこそ仕事はできる!幕末〜明治時代を駆け抜けた勝海舟の痛快な格言
物心ついた時から、今日に至るまで、ずっと言われ続けてきたことがあります。
「みんな仲良くしましょう」
小さな頃は「はーい!」と元気よくお返事してはみたものの、いざ大人になってみれば、それが理想論に過ぎないことは誰もが痛感したことでしょう。
全員と仲良くできない以上、誰かが敵に回ることを想定して、誰かを味方につけないと生きにくくなってしまいます。
そこで「みんな仲良くしましょう」という理想論は「なるべく多くの味方を作れ≒できるだけ敵は作るな」という現実的なメッセージに解釈されていくのですが、そういう小賢(こざか)しい処世術を否定する偏屈者は、いつの時代にもいるものです。
今回紹介するのは、江戸幕末から明治時代にかけて活躍した勝海舟(かつ かいしゅう。文政6・1823年生~明治32・1899年没)の名言。彼の痛快な精神が、現代社会の清涼剤になればと思います。
みんな敵だと開き直れば、思いっきり仕事ができる!ナニ、誰を味方にしようなどといふから、間違ふのだ。みンな、敵がいゝ。敵が無いと、事が出来ぬ。
※「海舟座談」より。
例えば何か政治や事業など進めようという時、周囲の利害関係者に根回しをして「なるべくみんなが納得できる(少なくとも不満が出にくい)落としどころ」を探っていくという流れが一般的かと思います。
確かになるべく多くの味方を作り、敵を作らないためには必須のプロセスですが、それでは既得権益を脅かし、天下の公平性を追求するような変革は行えず、結局はなし崩しの現状維持を続けていくことになります。
政治にせよ事業にせよ、社会をよりよく変えていくことを目的とするのであれば、必ず誰かに「痛み」を求め、その既得権益を削って公益に還元する必要があり、痛みを受けた者はほぼ間違いなく「敵」となってしまうでしょう。
その時「敵を作りたくないから」と変革の手を止めてしまうか、あるいはこの仕事に政治生命を賭けるか……海舟は迷わず「やっちまえよ」と背中を押します。
みんなの顔色をうかがって、予定調和で物事がそれなり上手く進んだように見えても、それはあなたの仕事ではなく、誰がやっても同じなりゆきの結果に過ぎません。
それよりもむしろ、自分が是と確信したなら、万難を排して変革を断行してこそ政治家じゃないか。ただ有権者の人気取りに終始して、ロクに自分の理念も政策もない昨今の議員たちを予見しているようですね。
かつて敵だった仲間たちと(勝は右から三番目)。みんな思い切りぶつかり合って、新たな日本を切り拓いてきた。Wikipediaより。
また、周囲がなまじ味方と思えば遠慮や忖度が出て、存分に腕が振るえないこともありますが、最初から「みんな敵だ」と開き直っていれば、まさに「当たるを幸い」思い切り仕事が出来るというもの。
つまらぬヤツなど味方には要らぬ、天下公益に供せんとする我が志を理解できる者こそ、我が真の友である……この自由闊達なスケールは、現代の私たちも少し見習いたいところです。
※参考文献:
斎藤孝『幕末維新志士たちの名言』日経文芸文庫、2014年2月
巌本善治 編『新訂 海舟座談』岩波文庫、1983年2月
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