「志村ファミリーの母」川上麻衣子が語る「素顔の志村けん」

日刊大衆

志村けん
志村けん

 みんな大好き志村けん氏。今回、本誌では「女性」という観点から氏を検証。といっても、下衆雑誌と一線を画す我々、スキャンダルな下半身ネタには目もくれず、「ネタにおける女性の役割」にのみ着目。そこから見えてきたものとは?

 一時期、同じマンションに居住するなど、飲み友達であり、仕事仲間であった川上さん。いわゆる志村ファミリーと呼ばれるようになるホームコメディは『志村X』からだったが、そこで志村の妻役を務めたのが彼女。そんな川上さんが語る、志村けん。

――最初に志村さんと会ったのは可愛かずみさんの紹介とのことですが。

 かずみちゃんも私も犬が好きで、志村さんがゴールデンレトリーバーの仔犬を連れてきたことから仲良くなったんです。当時、志村さんは自分の番組以外に出ていなくて時間的に余裕があったんですけど、芸能界の友達が少なかったから3人でよく飲んでいましたね。

――『志村X』はどういう形でオファーがきたんですか?

 志村さんから「ドラマ寄りのコントで、どこかアドリブにも見えるような番組をやりたくて。女優さんを起用したいので一緒にやりませんか」という話があったんです。私自身も喜劇はやりたかったですし、普通のコントだと自信がなかったけど、台本があるドラマ仕立てのコントならと喜んで引き受けさせていただきました。

――志村さんからどんな演出がありましたか?

 本番の2日くらい前にフジテレビの会議室に集まって、志村さんがアイデアを出してネタを作っていくんですけど、本番では特に演出はないんです。後半のコントに参加するようになると、設定を与えられて「麻衣子の好きなようにやりな」と言われて、志村さんが笑って喜んでくれたらOKという感じでした。「自分自身が笑っちゃいけない」という鉄則だけはありました。

――川上さんがひとりで話し続けるようなコントもありましたよね。

 志村さんがそのパターンを気に入ってくれたんです。コントをやったおかげで、周りから 「笑っていい人なんだ」と見られるようになって、女優業をやるうえでラクになりましたね。

――演者としての志村さんにはどんな印象がありますか?

 最高の役者さんだと思います。コントも根本は「お芝居」で、志村さんは普通の役者のもっと先まで考えて「笑い」を作っている印象があるんです。ただ、あの頃の志村さんは芸人が俳優をやることをよしとしないところがあって。「普段笑わせている人がシリアスな顔をすれば存在感が出るのは当たり前だからずるい」という考え方だったんです。

――藤山寛美への尊敬の念が強かったと聞いてます。

 私が住んでいたマンションに志村さんがセカンドハウスとして部屋を借りていた時期があって。仲間たちとその部屋で映像作品を見せ合うんですけど、志村さんは寛美さんの作品を薦めることが多かったんです。舞台『志村魂』は、寛美さんの笑わせながらホロッとさせるような悲喜劇を目指していたんだろうなと思います。

――志村さんのコントには切なさを感じさせる作品も多かったです。

 志村さんのコントの根底には人の寂しさや孤独がありますよね。

■プライベートと仕事は?

――プライベートと仕事で志村さんは違いましたか?

 そんなこともなくて、やりやすかったです。飲み友達だったので、志村さんが黙っている時間も怖くなかったんですけど、その雰囲気が得意じゃない人には厳しい現場だったのかもしれません。収録中のアドリブも一緒に飲んでいる時の会話の延長でした。

――川上さんから見て、優香さんのコメディ演技はどうでした?

 娘役として新人の優香さんが入ってこられたんですけど、最初から勘がよかったです。いつも自然体だったので、現場にもすぐに馴染んでいましたね。

――志村さんから優香さんに厳しく指導することはありましたか?

 優香さんに限らず厳しく言うことはなかったですね。たまに男性の役者さんに「いまのは嘘っぽいよね」とドキッとするようなことはおっしゃってました。小手先で笑いをとるようなことが嫌いだったんでしょうね。

――例えば「酔っぱらう」にしても、その奥にある心情を表現しようとしていたそうですが。

 酔っぱらって転ぶという典型的なお芝居にしても、「『そこまで飲んでしまう理由はなんだったのか』という背景を考えながら演じないと笑いにつながらない」という話をされたことはよく覚えてます。一緒に飲んでいると、お芝居について饒舌に語ってくれるんです。

――志村さんはファミリーを作っていましたが、その関係性が笑いの重要な要素になっていたと思います。

 そうですね。当時はプライベートでも気が合う人じゃないと、一緒に仕事をしない方でしたから。初対面でスッと入れるようなタイプではなかったと思います。

――『志村X』以降の番組では、基本的に前半は家族コントが恒例となっていました。そこにこだわりは感じましたか?

 自分の家庭を持たなかったからこそ、家庭に対する憧れがあったと思うんです。その反面、孤独じゃなきゃいられなかった。ものすごく寂しがり屋だけど、ひとりでいたいという矛盾した感情を抱えていたんだと思います。

――川上さんはビートたけしさんとも仕事をされていますが、2人に共通する部分を感じますか?

 シャイで人の目をグッと見てしゃべることができないところとか、すごく似ていると思います。たけしさんは『その男、凶暴につき』の時、対面していながらスタッフの方を通して演出されましたから。ある日、麻布のバーに行ったら志村さんがいたのでご挨拶したら、隣にいるのがたけしさんで驚きました。2人で小さな鍋のチーズフォンデュをつまみに飲んでいたことが記憶に残ってます。

――志村さんは亡くなりましたが、昨年放送された朝ドラ『エール』に出演され、山田洋次監督の『キネマの神様』も控えていました。

 もっと志村さんの違う顔を見ることができたと思いますし、私もドラマや映画で共演したかったです。ただ、まだ志村さんがいなくなったことを実感できていない自分もいます。

PROFILE 川上麻衣子 かわかみまいこ。1966年、スウェーデン生まれ。1980年、NHK人間模様『絆』で、デビュー。『3年B組金八先生』(80年)や『その男凶暴につき』(89年)など多数の作品に出演。近年はガラス工芸デザイナーとしても活動。東京の谷中にてスウェーデン雑貨「SWEDEN GRACE」経営。

(EX大衆2021年4月号「志村けんと女性たち」川上麻衣子)文●大貫真之介

「「志村ファミリーの母」川上麻衣子が語る「素顔の志村けん」」のページです。デイリーニュースオンラインは、川上麻衣子ドリフターズ志村けん優香ビートたけしエンタメなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る