ストレスは遺伝する。マウスの父親は精子を介して子孫にストレス反応を伝えていることが判明


ストレスは遺伝する。正確に言えばストレスを受けた経験は遺伝するようだ。だからあなたがストレスを感じてイライラしがちなのは、もしかしたら親の経験によるものなのかもしれない。
DNAはその塩基配列が変わらなくても、環境の影響によって発現の仕方が変わることがある。こうした変化を研究する分野のことを「エピジェネティクス(後成的遺伝学)」という。
新しいエピジェネティクス研究によると、マウスはストレスのせいで起きた遺伝情報の変化を子孫に伝えているのだそうだ。
・マウスのストレスが遺伝する要因を調査
すでにマウスの精子がストレスの影響を受けることは知られていた。またマウスが環境のせいで増大したストレスへの感受性を子供に伝えていることも明らかになっていた。
ただし、親と子でストレス耐性が似てくる原因が、精子自体にあるのか、それともほかの要因(たとえば親からの学習など)があるのかはっきりしていなかった。
『The Journal of Neuroscience』(6月8日付)に掲載された研究では、この点を解明するべくマウスで実験が行われた。はたしてマウスの精子は、ストレスの強さを直接子供に伝えているのだろうか?

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・ストレスに弱いマウスと強いマウスの遺伝子変化
米マウントサイナイ医科大学の研究グループは、まずマウス(もちろんオス)の精子のRNAを解析し、それからストレスを受ける状況で10日間飼育した。具体的には人見知りしそうなマウスを攻撃的なマウスと一緒に飼育するのだ。
そしてこのときの反応とストレスレベルの評価に基づいて、マウスをストレスに弱いグループと強いグループにわける。その上で再度精子のRNAを解析し、飼育の前後で変化がなかったどうか確かめた。
その結果わかったのは、ストレスに弱いグループでは1460個の遺伝子が変化していた一方、強いグループでは62個だけだったということだ。
そうした変化を伝えられた子供は、やはりストレスに対して大きな反応を示すことも確認された。

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・精子自体にストレス反応を直接伝える機能があることを確認
研究グループのアシュレー・カニンガム氏によると、強いストレスにさらされていたオスと”自然”に交尾したマウスは、そのことを察知してよりいっそう妊娠や出産に気を使うようになるのだという。
そこで試しにストレスに弱いオスの精子を使い人工授精で妊娠させてみたところ、それでもやはりメスは同じように気を使うようになることが確認されたそうだ。
つまり精子自体にストレス反応を直接伝える機能があるということだ。

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・人間の気分障がいも親の経験に関係している可能性
ところで人間の気分障がいもまた、家族の既往歴や遺伝が関係していることが知られている。一方、ストレスのような外部環境から受ける刺激もまた親から子へと受け継がれ、気分障害の引き金になっているのかどうかは定かではない。
しかしカニンガム氏によれば、今回の結果は親の経験も関係していることを示唆しているのだという。
気分障害は非常に複雑な症状で、ある人にはよく効く治療が別の人にはまるで効かないといったこともよくある。
この病気を引き起こすさまざまな要因が解明されれば、より効果的な治療や予防法を考案できるかもしれないとのことだ。
References:Top image:photo by Pixabay /Can you inherit stress? Sperm study reveals link to mood / Mice Fathers Pass Down Stress Responses to Offspring
via Sperm - Neuroscience News/ written by hiroching / edited by parumo