誰もが知る名作が勢ぞろい 読書が楽しくなるなぞりがきが登場! (2/3ページ)

さて、『こころ』も漱石が朝日新聞に連載していた作品だ。
主人公の「私」と謎めいた「先生」との交流を描いた小説で、『なぞりがき 日本の名作』に載っている個所は、「先生」が自分の過去を暴こうと試みた「私」に対して、信頼に足る人物かを問う重苦しくも印象的なシーン。
なぞっていると、高校時代に現代文の教科書を忘れたペナルティとして全文丸写しした記憶が生々しくよみがえる。当時は早く終わらせたいばかりにひたすら書き殴っていたが、ゆっくりていねいに書くと、この場面からは人と人の魂が触れあうような神聖な雰囲気を感じとることができる。
もう一人、日本の作家の代表格が宮沢賢治だ。『銀河鉄道の夜』『雨ニモマケズ』『風の又三郎』などが知られているが、ここでは『注文の多い料理店』の一場面をなぞってみた。

『注文の多い料理店』は、実は『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』という正式タイトルらしい。「イーハトヴ」というのは賢治が心の中に抱いていた架空の理想郷の名前。生前の賢治はこの理想郷を実現するための活動もしていたのだとか。
狩猟の途中で道に迷い「山猫軒」なる西洋料理店に行き着いた若い紳士二人が体験した災難をコミカルかつ不気味なタッチで書いたこの作品。「なぞりがき」になっているのは紳士二人が 「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」 という、これから待ち受ける恐ろしい事態の「フラグ」に気づかないどころか、「道に迷って腹をすかせたところにレストランがあって渡りに船じゃん、ラッキー!」とばかりに大喜びする場面である。