輪廻転生は東洋と西洋でそれぞれどのように捉えられているか

心に残る家族葬

輪廻転生は東洋と西洋でそれぞれどのように捉えられているか

日本は仏教国と言われ特定の信仰のない人に聞けば自分は仏教徒だと答える人が多い。輪廻転生の思想も仏教伝来のものであることは間違いない。しかし近年の西洋文化の導入により転生観にも変化が生じ現代に至っている。

■ポジティブ化した輪廻転生

輪廻転生、生まれ変わりの思想を科学的根拠云々とは関係なく、なんとなしにでも信じている人は少なくないのではないか。現代日本において転生、生まれ変わりには「次に生まれる時は一緒になりたい」「この子はあの子が帰ってきてくれた」などのロマンチックな響きがあり、死んで終わりではなく次につながるストーリーを想起する希望的観測が含まれているように思える。一方で1980年代、「ムー」「トワイライトゾーン」といったオカルト雑誌の文通欄に、前世で戦士だったという人が同志を集うというような投稿が激増し社会問題となった。輪廻転生をテーマにした漫画がヒットしたことが要因とされている。遥か彼方の昔、共に戦った同志との再会という設定は、なんともファンタジー心をくすぐる。誇大妄想、現実逃避…様々な負の問題を孕んでいるはいるが、彼ら彼女らが輪廻転生観に何らかの希望を託していたことは確かである。いずれにおいても生まれ変わり、輪廻転生の思想にはポジティブなニュアンスが感じられる。またチベット仏教のダライ・ラマをはじめ転生の実例とされる例は多く研究者もいることで、少なくとも天国や地獄よりは現代人に受け入れられやすいようである。

■苦の原因としての輪廻転生

仏教の輪廻は元々ヒンドゥー教の流れを汲むもので希望どころか苦しみの象徴であった。仏教は生きることは苦しみであるとする。なぜ人は苦しむのか。それは私たちは前世の業(カルマ)を背負って生まれてくるからである。煩悩や悩み、苦しみを背負ったまま死に、それを負債として持ったまま生まれ変わった姿が今の私たちだ。これが業である。今生はその業を消化するためにあるのだが、さらに業を積んでしまい延々と輪廻転生する者がほとんどである。この苦の連鎖から抜け出すことを解脱といい、ブッダは解脱をするための法を説いた。他方、仏教は「無我」を説き、この世界のすべては実体の無い「空」であるとする。我も世界の実体もが無いのに何がどう輪廻するのかという疑問が生じ、現代に至るまで無我説と輪廻説の論争は絶えることがない。それでもブッダが輪廻を説いたこと、生まれ変わることこそが苦の原因であると説いたこと自体は事実である。その転生観にポジティブもロマンチシズムもまったく存在しない。

■霊的進化論としての輪廻転生

西洋にも輪廻転生観は存在する。古代ギリシャの大数学者にして哲学者ピタゴラス(582〜496)と、彼の組織した教団が輪廻転生を説いたことはよく知られている。その後、転生を否定するキリスト教が西洋世界を支配した。キリスト教の教義は人間は死後、最後の審判で裁きを受けその結果、天国なり地獄へ行くことになっている。中世にキリスト教の一派、カタリ派が輪廻転生を説いたとされるが異端として迫害された。またキリスト教の地下水脈のように受け継がれてきたグノーシス派も転生の教えを含んでいる。
近代に入り輪廻を魂の成長と見る霊的進化論の流れが誕生する。ヘレン・P・ブラヴァツキー(1831〜91)の創始した神智学。神智学から分かれより思想を深めていったルドルフ・シュタイナー(1861〜1925)の人智学などの近代西洋神秘思想では、人間の魂は転生を繰り返しながら霊的に進化していくと説いた。さらに人間の霊的進化は宇宙の進化とも対応しているとするなどの壮大な思想が展開された。これは仏教が説く苦としての輪廻転生とは真逆の、上昇する未来へのストーリーである。霊的進化としての輪廻転生観に進化論の影響が強いのは当然だが、進化論からして宿敵であるはずのキリスト教がその背景にあったと思われる。キリスト教の教義は天にまします絶対的存在「神」を仰ぎ、魂の天国行きをを目指す上昇の思想である。西洋思想はこの上昇の思想が根底にあり、輪廻転生の意味も仏教的な延々と巡り巡る円環の思想とは違う魂の進化論として確立していったのである。

仏教国であり、本来儚さを好む日本人は円環する輪廻転生観を受け入れていたはずだが、現代の生まれ変わりに対するロマンチシズムは西洋的な上昇思想の影響によるものだと思われる。


■真理はひとつ?

東西の輪廻転生観の違いを概観したが、突き詰めれば仏教の解脱も西洋の霊的進化と同じ意味に思える。霊的進化論における魂の成長も様々な試練を超えた上のものである。試練とは苦しいものだ。つまり苦の円環からの解脱と決定的に異なるものではない。佐野洋子の絵本「100万回生きたねこ」( 講談社、1977)は、長い転生の末にやっと死ぬことができて終わる。この結末は現世では死かもしれないが、円環する転生からの解脱に成功したとも、進化する転生のゴールに到達したともとれる。結局真理は同じということではないだろうか(注)。

西洋自然科学の唯物論が我々から奪った死後生のストーリーを、西洋神秘思想の影響によってポジティブ化された輪廻転生観が提供しているのは興味深い現象である。

注:なお、霊的進化論についてはその危険性も指摘されている。大田俊寛氏「現代オカルトの根源」ちくま新書(2013)など。

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