【お寺の雑学】門前によくあるアノ石碑「禁葷酒」いったい何を禁じてるの?

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【お寺の雑学】門前によくあるアノ石碑「禁葷酒」いったい何を禁じてるの?

お寺に行くと、門前にこんな石碑を見かけることはないでしょうか。

禁葷酒

「禁葷酒」と刻まれた石碑。鎌倉・龍寶寺山門にて。

他にも「葷酒禁入山門」「不許葷酒入門」などのバリエーションがあり、禁という文字から何かを禁じているのは分かりますね。

しかし葷って何でしょうか。軍に草かんむり……あまり見慣れない漢字ですが、どういう意味なのでしょうか?

精がつくけど煩悩のもとになるもの

草かんむりに軍……この漢字は葷(くん)と読み、辛味や臭気など刺激の強い野菜を指します。

特に大蒜(ニンニク)・(ニラ)・(ネギ)・辣韮(ラッキョウ)・野蒜(ノビル)の5種類を五葷(ごくん)または五辛(ごしん)と呼ばれました。

五葷の一つ・ニンニク

つまり冒頭の石碑は「酒やネギ、ニンニク類の持ち込みを禁止する」という意味になります。
僧侶の酒がダメというのはよく聞きますが、ネギやニンニク類はなぜダメなのでしょうか。

これらの野菜は精がつくことで知られ、具合の悪い時など食事に採り入れて体力を回復させた方も少なくないでしょう。

しかし精がつくということは、一方で性欲や攻撃性が高まるなどの副作用もあります。

仏道においてそうした煩悩は修行の妨げとなるため、酒と同じく持ち込みが禁じられたのでした。

それでも食べたい?そんなあなたは……

……とは言うものの、禁じられるとそれが欲しくなってしまうのが人間の性(さが)。

酒を般若湯(はんにゃとう。知恵の薬湯)などと称して飲んでいたように、五葷についても、あの手この手で持ち込もうとする手合いもいたのでしょうか。

「山門に入るを許さずというなら、裏の塀から持ち込もうか」

「いや、ここは法然(ほうねん)上人の『百四十五箇条問答』を引き合いにだそう」

法然上人(画像:Wikipedia)

一、にら、葱(き)、ひる、ししをくいて、香(こう)失せせ候わずとも、つねに念仏は申し候(そうらう)べきやらん。
答(こたう)。念仏はなににもさわらぬ事にて候。

※法然上人『百四十五箇条問答』より

【意訳】

問:ニラやネギ、ノビルや肉(しし)を食って、その口臭が失せない状態であっても、念仏を唱えることに意味はあるでしょうか。

答:はい。念仏にはいかなるものにも妨げられない功徳があります。

……酒をかっ喰らい、肉やネギをむさぼり喰らったその口であっても、ただ南無阿弥陀仏とさえ唱えれば救われる……そういう大らかさが浄土宗の人気を支えたのでしょう。

ちなみに龍寶寺は曹洞宗(禅宗)。

しかし「禁葷酒」とあるのはたいてい他宗の寺院。修行の邪魔にならぬよう、生臭物の持ち込みなどは控えるようにしたいですね。

※参考文献:

石上善應 訳『一百四十五箇条問答 法然が教えるはじめての仏教』ちくま学芸文庫、2017年7月 吉村昇洋『精進料理考』春秋社、2019年8月

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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