春は出逢いと別れの季節…『古今和歌集』より、行動を起こす決意を詠んだ源寵の和歌を紹介

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春は出逢いと別れの季節…『古今和歌集』より、行動を起こす決意を詠んだ源寵の和歌を紹介

春は出会いと別れの季節。多くの方が期待と不安を胸に、新たな節目を迎えたことでしょう。

そんな思いは平安時代の貴族たちも同じだったようで、今回は『古今和歌集』より、源寵(みなもとの うつく)の詠んだ短歌を紹介。

果たして彼女は、どんな節目を迎えたのでしょうか。

「もう行ってしまいますからね!」常陸国へ旅立つ

朝なけに 見べき君とし たのまねば
思ひたちぬる 草枕なり

※『古今和歌集』巻八より

【意訳】いつ会えるか分からないあなたをたのみにするのはもうやめます。
あなたへの思いを断ち切るため、私は常陸国(現:茨城県)へ旅立つことにしました。

……これは藤原公利(ふじわらの きみとし)へ当てた別れの歌で「君とし」が公利にかかっています。

また「思『ひたち』ぬる」が常陸にかかって行き先を暗示。ということは、もしかしたら

「本当にいいんですか?私は常陸へ行ってしまうんですからね!」

「引き止めるなら、これが最後のチャンスなんですからね?」

などの駆け引きが含まれているのかも知れません。

常陸国へ旅立つ一行。源寵も一緒に?(イメージ)

(未練がないなら追って来られても困るだけなので、行先は教えない方が得策)

あるいは本当に常陸へ行くあてが出来た、例えば常陸の国司(常陸介)と関係を持ち、現地へついて行った可能性も考えられます。

果たして実際はどっちだったのでしょうね。

源寵のプロフィール

そんな寵は源精(くわし)の娘で、第52代・嵯峨天皇から見て曾孫に当たります。

【略系図】嵯峨天皇-源定(さだむ)-源精-寵

また兄弟(同母かは不明)に源浮(うかぶ/うく)がおり、代々一文字名なのが面白いですね。

寵という文字には「うつくしむ=大切に慈しむ」「恵む」などの意味があり、例えば寵愛という言葉は「愛情を恵む」「大切に愛する」という意味に。

この「うつくしむ」は「美しい(大切にしたい要素を備えている)」の語源でもあり、父・精がよほど彼女の誕生を喜び、愛情を注いだかが偲ばれます。

ちなみに『古今和歌集』にはもう二首ばかり、寵の詠んだ和歌が収録されているので、そちらも紹介しましょう。

しののめの 別れを惜しみ 我ぞまづ
鳥より先に なきはじめつる

※『古今和歌集』巻十三より

【意訳】夜明けの別れを惜しみ、一番鶏が啼くより先に、私が泣いてしまいました。

東雲(しののめ)は文字通り東の空に浮かぶ雲、それが見えるということはもう夜明け。夜中に通って来てくれた夫がもうすぐ帰ってしまう……鶏の鳴き声がその合図でした。

夜明けを惜しみ、別れを嘆く(イメージ)

「また今夜」彼はそうお決まりを言うでしょうが、その言葉を信じて待ち続けた結果が冒頭の公利です。

山がつの かきほにはへる あをつづら
人はくれども ことづてもなし

※『古今和歌集』巻十四より

【意訳】山奥のわび住い。その生垣に青いつる草がのびているので、たぐり寄せたものの、言づての一つもありません。

山賤(やまがつ)は山中に住む樵(きこり)や狩人など、身分の低い者を指します。転じて「山奥にポツンと住んでいるような侘しい暮らし」を意味しているのでしょう。

想い人を待ちわびていたら、いつの間にか垣穂(かきほ。生垣)に青葛(あをつづら。つる草)がのびていたので、みっともないから引っこ抜こうとたぐり寄せます。

その様子を「人はくれども(つる草をたぐっても)」=「人(使いの者)は来れども」にかけ、彼からのメッセージはないかと期待しても、お決まりのあいさつばかりで何もありません。

なんだ……彼女の落胆ぶりが目に浮かぶようです。

終わりに

以上『古今和歌集』より源寵の和歌三首を見てきました。

鬱々としていた源寵(イメージ)

待ちわびて、やっと出会えたと思ったらすぐに別れてまた待ちわびて(男性陣からすると、その重さがちょっと敬遠されたのかも)……そしてついに「待ってばかりじゃダメだ」とばかり冒頭の決意に至ったのかも知れません。

(それぞれの歌が詠まれた時系列は不明なので、あくまでも推測ですが)

♪泣いてばかりいたって幸せは来ないから
重いコート脱いで出かけませんか……♪

※キャンディーズ「春一番」より

せっかく春が来たのですから、心機一転(恋愛だけでなく、仕事や趣味なども)出逢いを求めていきたいものです。

※参考文献:

佐藤謙三ら訳『読み下し 日本三大実録 下巻』戎光祥出版、2009年9月 高田祐彦訳注『新版古今和歌集 現代語訳付き』角川ソフィア文庫、2009年6月 山下道代『古今集人物人事考』風間書房、2000年8月

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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