「鎌倉殿の13人」これは謀反か敵討ちか…第23回放送「狩りと獲物」振り返り

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「鎌倉殿の13人」これは謀反か敵討ちか…第23回放送「狩りと獲物」振り返り

「これは敵討ちを装った謀反ではなく、謀反を装った敵討ちなのです」

曽我兄弟の討ち入りを美談に仕立て上げることにより、鎌倉殿への不満を見事に封殺した北条義時(演:小栗旬)。

歌川国芳「曽我物語」より曽我兄弟

よく考えたもんだと感心し、助けられた感謝の反面、義理の甥さえ冷徹に切り捨てた義時に面食らう北条時政(演:坂東彌十郎)。

一方、源頼朝(演:大泉洋)が襲撃されたとの急報に接した鎌倉では、それぞれの野心が鎌首をもたげます。

このままでは鎌倉が滅ぶ……比企能員(演:佐藤二朗)に推されて後継者に名乗りを上げた源範頼(演:迫田孝也)は、無事に帰還した頼朝から謀反を疑われることに。

さて、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第23回放送は「狩りと獲物」。獲物とは獣だけでなく、曽我兄弟にとっては頼朝のことも指していたようです。

富士の巻狩りと曽我兄弟の仇討ちが1回に凝縮された濃厚な展開となりました。それではさっそく、今回も振り返っていきましょう。

『吾妻鏡』ではちゃんと鹿を射止めている万寿

……富士野御狩之間。將軍家督若君始令射鹿給……

※『吾妻鏡』建久4年(1193年)5月16日条

【意訳】富士野の狩りにおいて、頼朝の家督を継がれる若君(万寿)が初めて鹿を射止められたもうた。

大河ドラマでは周囲の御家人たちからアレコレ言われ、挙句は梶原景時(演:中村獅童)に毒餌まで勧められた万寿。3日目には八百長で動かぬ鹿を用意して、それさえも外すという悔しい演出がされていました。

成長著しい金剛(演:坂口健太郎)が自力で鹿を射止めたのと対照的に描き出したい意図が見てとれますが、史実の万寿はちゃんと狩りの初日で鹿を射止めています。

巻狩りの様子(イメージ)

劇中にあった矢口の祭りとは武士の子が初めて射止めた獲物を山の神に供えることで、一人前の武士と認めていただく儀式でした。

でも、劇中の万寿は自力で射止めていません。だから山の神もお認めにはなっておらず、それが将来の悲劇につながっていく……という伏線を張ったのでしょう。

確かに頼家は暴君として悪名高いですが、だからと言って実際に持ち備えていた長所まで隠してしまうのはいかがなものでしょうか。

かつて石橋山の合戦で敵を次々と射止めた頼朝の才能を受け継ぎ、また頼朝襲撃の報せを受けた時にも的確な対処を指示していた万寿。

狩りが上手くいかなくても不貞腐れることなく努力を続け、いつかきっと弓の名手になると意気込む万寿。同い年だったころの我が身を振り返れば、これだけでも凄い資質だと感心してしまいます。

成長著しい金剛ともども、将来が楽しみですね。

矢口の祭りについて

ちなみに劇中でも描写されていた矢口の祭り。『吾妻鏡』ではこのような段取りで進められました。

少し長くなりますが、こういう文化習俗に興味があるので、特に紹介させていただきます。

……於其所被祭山神矢口等。江間殿令献餠給。此餠三色也。折敷一枚九置之。以黒色餠三置左方。以赤色三置中。以白色三居右方。其長八寸。廣三寸。厚一寸也。以上三枚折敷。如此被調進之。狩野介進勢子餠。將軍家并若公敷御行騰於篠上令座給。上総介。江間殿。三浦介以下多以參候。此中令獲鹿給之時。候而在御眼路之輩中。可然射手三人被召出之。賜矢口餠。所謂一口工藤庄司景光。二口愛甲三郎季隆。三口曾我太郎祐信等也。梶原源太左衛門尉景季。工藤左衛門尉祐經。海野小太郎幸氏爲餠陪膳。持參御前。相並而置之。先景光依召參進。蹲居取白餠置中。取赤置右方。其後三色。各一取重之〔黒上。赤中。白下〕置于座左臥木之上。是供山神云々。次又如先三色重之。三口食之〔始中。次左廉。次右廉〕發矢叫聲。太微音也。次召季隆。作法同于景光。但餠置樣。任本躰不改之。次召出祐信。仰云。一二口撰殊射手賜之。三口事可爲何樣哉者。祐信不能申是非。則食三口。其所作如以前式。於三口者。將軍可被聞召之趣。一旦定答申歟。就其礼有興之樣。可有御計之旨。依思食儲。被仰含之處。無左右令自由之條。頗無念之由被仰云々。次三人皆賜鞍馬。御直垂等。三人又献馬。弓。野矢。行騰。沓等於若公。次列座衆預盃酒。悉乘醉云々。次召蹈馬勢子輩。各賜十字。被勵列卒云々。

※『吾妻鏡』建久4年(1193年)5月16日条

【意訳】万寿が鹿を射止めた場所で矢口の祭りが行われました。義時が三色(黒・赤・白)の餅をお供えします。
一枚の折敷(おしき。器)に黒餅3つ、赤餅3つ、白餅3つが左から並べられ、餅の大きさは長さ8寸×幅3寸×厚さ1寸(約24センチ×約9センチ×約3センチ)。この折敷が三枚供えられました。
狩野介宗茂(かのうのすけ むねもち)は勢子(せこ。獣を茂みなどから追い立てる役目の者)の分の餅を供えます。
頼朝と万寿は笹に行縢(むかばき。下半身を保護する毛革)を敷いて座り、傍らには足利上総介義兼(あしかが かずさのすけよしかね)・義時・三浦介義澄(演:佐藤B作)が控えていました。
お供えした矢口の祝い餅はこの日特に猟果のよかった御家人に与えられ、一番手には工藤庄司景光(くどう しょうじかげみつ)、二番手は愛甲三郎季隆(あいこう さぶろうすえたか)、三番手は曽我太郎助信(そが たろうすけのぶ。曽我兄弟の継父)が選ばれます。
祝い餅の授与係は梶原源太景季(演:柾木玲弥)・工藤左衛門尉祐経(演:坪倉由幸)・海野小太郎幸氏(演:加部亜門)が務めます。
最初に呼ばれた景光は前に進み出て蹲踞(そんきょ。力士が取組前にとるポーズ)をとり、白い餅をとって真ん中におき、その右側に赤餅、左側に黒餅を並べたあと、これらを(上から黒・赤・白の順に)重ねてそばに転がっている倒木の上に置きました。
これはいただいた祝い餅を山の神様に奉げるポーズであり、再び餅をまとめて手にとり、三回かじります。
一口目は真ん中、二口目は左側、三口目は右側をかじってから、矢叫び(やたけび)の声を上げました。しかし餅をかじって喉が渇いてしまったのか、とても小さな声でした。
愛甲季隆、曽我助信もこれに続きますが、景光の見様見真似だったせいか作法に抜けがあり、頼朝は少し残念に思ったとか。
とは言えハレの矢口祝いですから、三名に対して鞍を置いた馬と頼朝が着ていた直垂(ひたたれ)を与えました。三名はお返しとして馬と弓矢、行縢や沓(くつ)などを万寿に献上します。
そしてみんなに酒と饅頭が振る舞われ、楽しく過ごしたのでした。

……劇中でも餅が上から黒・赤・白で重ねられ、万寿が真ん中・左・右の順でかじっていましたね。

騎乗の者たちが腰に巻いている鹿革が行縢。座る時はこれを地面に敷く。

ただ、出来れば矢口の祭りは屋外でやって欲しかったと思います。地面(ここでは笹の上)に行縢を敷いて座るというのは武士の作法で、征夷大将軍という雲の上の存在となっても、頼朝と万寿が「あくまで武士の棟梁」であることを示しているのです。

源氏の嫡流であり、どれほど偉くなっても自分は一人の武士であり、みんなと同じ武士の棟梁として君臨する。

御家人たちは自分たちと同じ目線に立ってくれる(同じ場所に同じ作法で同席してくれる)頼朝を愛し、また万寿にもそんな鎌倉殿を継承して欲しいとの思いを新たにする胸熱シーンなのですが……まぁ、本作の頼朝はそんなことしてくれませんよね。はい。

「だって鹿でしょ?」そっけない政子の態度。でも本当は……

さて、とにもかくにも「大きな鹿を射止めた」ということになった万寿。その成果を御台所へ伝えるため、『吾妻鏡』では梶原景時の次男である梶原平次景高(へいじ かげたか)が鎌倉へ走っています。

が、今さら登場させるのもアレなので、ここは万寿の乳母父である比企能員が痛むお尻or足をこらえて駆けつけました。

しかし政子(演:小池栄子)は「大したことない。だって鹿でしょ?」とそっけないこと。隣の大姫(演:南沙良)も「鵺でも射たというならともかく……」と追い討ちをかけます。

鵺を射止める源頼政。歌川国芳筆

この(ぬえ)とは伝承上の怪鳥(諸説ありますが頭はサルで手足はトラ、腹はタヌキで尾は蛇とのこと。鳥要素が皆無ながら、あくまで鳥ということに)で、かつて源頼政(演:品川徹)が射落としたという伝説で有名です。

何だ、わざわざ伝えてやったのに……憮然とする能員を尻目に立ち去った政子と大姫ですが……。

政子「帰ったら、うんと褒めてやりましょう」

本当はとても嬉しかった政子と大姫。あくまでも万寿は比企一族でなく、我が北条の子として、他家の者と喜びを分かち合う気にはなれなかったようです。

でも、劇中では一頭も射止められていない万寿。裏を知らない政子たちの優しさが、さぞ辛かったことでしょう(本当のことは話せないでしょうし)。

おごれる祐経、久しからず

京都文化に通じていることから近ごろ頼朝の信任厚い工藤祐経。前に「鎌倉は怖い所だ」と怯えていたのも忘れ、調子に乗って義時にも大きな態度。

頼朝がいつものスケベ心を出して比奈(演:堀田真由)の元へ夜這いに行くため、影武者として寝床にいたのが運の尽き。曽我五郎時致(演:田中俊介)に斬られてしまいました。

前に「コロナ禍なので合戦・戦闘シーンは無理か……」的なことを言いましたが、曽我勢を待ち受ける畠山重忠(演:中川大志)。

「ついに来たか……かかれ」

小規模とは言え、見ごたえのある戦闘シーン。やっぱりカッコいいですよね。また曽我十郎祐成(演:田邊和也)と仁田忠常(演:高岸宏行)の一騎討ちも手に汗握ります。

十郎と忠常の一騎討。楊洲周延「曽我兄弟夜討ノ図」より

「いつもニコニコ、時には大泣きするけど、ここ一番では毅然と武勇を魅せる」やっぱり忠常はカッコいいですね。

でも、曽我兄弟に兵を貸したのは北条時政であり、忠常はその兵たちを取り仕切っているはず。忠常が「止まれ、そっち(頼朝の寝所)へ行くな」と言えば、その命令を優先するんじゃないでしょうか。

ちょっとこの辺りに違和感を覚えました。やはり曽我兄弟の仇討ちは二人きりで決行するのが自然かと思います。

又しても(スケベ心で)天に救われた頼朝……と思いましたが、どうやら頼朝は天運が尽きかけていることを感じている様子。

「もうわしのやることは残っていないのか……」

これまで鬼であった頼朝が、人間に戻りつつある一方で、その背中を見て育った義時が鬼へと成長しつつありました。

もし頼朝と万寿が死んだら……鎌倉にうごめく野望の芽

頼朝が襲撃を受けた。その生死が定かならぬ鎌倉では、早くも次の鎌倉殿を擁立する動きが芽生えます。

「頼朝が死ねば、万寿が後継者。さすれば乳母父である我らの時代」と喜んでいた比企能員と(演:堀内敬子)ですが、頼みの万寿も死んだ?と聞いて娘婿の源範頼を焚きつけました。

「ここで立たねば、鎌倉が滅びますぞ!」

まずは頼朝の生死を確かめてからでも遅くない……大江広元(演:栗原英雄)・二階堂行政(演:野仲イサオ)の反対を振り切り、三善康信(演:小林隆)の助けで鎌倉殿を継承しようと乗り気になります。

「ここで立たねば鎌倉が滅びる……」心ならずも決意を固める源範頼(イメージ)

が、頼朝は生きていた。ぶじ鎌倉に帰ってきたことを喜ぶ範頼ですが、一度「鎌倉殿に、それがしはなる!」というポーズを見せてしまった範頼は、頼朝から謀叛を疑われることに。

……とまぁ、ここまでは『吾妻鏡』などにも概ね(比企らが焚きつけたなどはフィクション)書いてあるため、覚悟はしていました。が、しかし。

頼朝と万寿が死ねば、千幡(源実朝)に鎌倉殿の継承資格が……にわかに気づいてしまった実衣(演:宮澤エマ)の豹変ぶりに驚いた視聴者は多かったのではないでしょうか。

実衣「源氏の棟梁になるのは……千幡、あの子。だって、ほかに誰がいるというの。乳母父となって育ててきた甲斐があったというものだわ。」

全成「不届きなことを考えるのはよしなさい。実衣!」

夫・阿野全成(演:新納慎也)に肩を抱かれ、正気に返った彼女。今まで意識していなかった権力への野望に気づいて、自分が怖くなってしまう場面に心が痛みました。

マイペースなようでいて、彼女もまたかつての彼女ではなくなっていたのでした。どうか全成には、最期まで彼女をやさしく守り抜いて欲しいものです。

終わりに

かくして義時の機転により、謀叛は仇討ちの美談に祭り上げられ、事無きを得ました。しかし鎌倉へ帰還した頼朝は範頼の謀叛を疑い、やがて両者は決別してしまいます。

次週放送の第24回「変わらぬ人」。そのサブタイトルは誰を指しているのでしょうか。

疑いに疑い倒され、疲れ切ってしまった範頼でしょうか。それとも、かつて父に殺された許婚・源義高(演:市川染五郎)への思いを貫き通す大姫でしょうか。

もしかしたら、亡き妻・八重(演:新垣結衣)が忘れられない義時かも知れません。

範頼の失脚と大姫の入内工作がメインとなるであろう次週放送も、目が離せませんね!

※参考文献:

『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 後編』NHK出版、2022年6月

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