無神論国家ソビエトで弾圧に屈することなく耐え凌いだロシア正教 (2/3ページ)
その理由は聖人の遺体を保存するのはロシアの伝統であるロシア正教に基づくものであり、ロシアの伝統として守っていくと主張しているという。無神論の神が本当の神になるというのは皮肉だが、そもそもレーニン廟はソ連政府の一派が作ったのである。
■聖人の遺体「不朽体」
正教では聖人の遺体、遺骨が聖堂や修道院に安置されており、「不朽体」と呼ばれる信仰対象として崇められている。聖人の遺体は腐敗せず、香の香りを放つとされる。不朽体に触れると生前の奇跡にあやかれるとされ、巡礼者は一部むき出しになっている不朽体にひれ伏しキスをするという。不朽体は天国にいる聖人の魂がかつて入っていたもので、巡礼者は不朽体を通じて、祈りを神に伝えてもらうことができると信じられている。
聖人の遺体が腐敗せず香りを放つ点について、高橋保行氏(日本ハリストス正教会)の説明をまとめると次のようになる。聖人は生前から修道生活において完全な菜食となり、さらに段階が進むと水と乾パンのみになる。稀に教会の儀礼の際、少量のブドウ酒とパンをキリストの血と体として頂くのみになるという。つまりその体は骨と筋と皮のみでできていて、死後に腐るものがない。さらにほぼ一日を通じて香がたかれる聖堂や修道所で祈りを捧げているため、体に付着するわけである。不朽体とは聖人が神に捧げた生涯の証なのである。
その魂は天国にいて、かつ身体はこの世に現存するのだからただの遺体ではないということだろう。巡礼者が神に通じる手がかりとして崇めるのは自然な感情だといえる。日本の即身仏と似ているがこちらの方がより自然に近い印象がある。一方、レーニン廟の遺体には触れることはできず、不朽体として崇められているわけではないようだ。だがレーニン廟建立の根底には不朽体思想があるように思われる。ロシア正教を弾圧したソビエトだが、宗教的感性を完全に払拭することはできなかったのでないか。
■宗教は滅びず
ロシア正教は無神論国家の支配下においても屈することなく生き延び、かつ影響も与え続けた。そして支配から解放された復活劇の様子はまさに「堰を切ったように」という表現がふさわしい勢いだったという。宗教を人間から抑え込むことがいかに不自然であるかがわかる。