比企能員、暗殺計画!北条時政の命により仁田忠常と天野遠景は…前編【鎌倉殿の13人】

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比企能員、暗殺計画!北条時政の命により仁田忠常と天野遠景は…前編【鎌倉殿の13人】

源頼朝(みなもとの よりとも)亡き後、鎌倉殿の跡目を継いだ嫡男の源頼家(よりいえ)。

かつて頼朝の舅として権勢を振るっていた北条時政(ほうじょう ときまさ)は、頼家の乳父であり舅でもある比企能員(ひき よしかず)にお株を奪われつつありました。

頼家の外戚として権勢を顕わした比企能員。「大日本歴史錦絵」より

このままでは立場が危い。そこで時政は頼家を排除して北条家で抱え込んでいる千幡(せんまん。後の源実朝)を擁立したいのですが、そのためにはどうしても能員が邪魔になります。

対する能員も時政の思惑は百も承知ですから、なかなか警戒を緩めてはくれません。果たして時政による能員の暗殺は成功するのでしょうか。

あんな老いぼれ爺ぃ一匹殺るのに……笑う遠景

時は建仁3年(1203年)9月2日、能員は病床の頼家に対して時政を討伐する許可を求めました。

「北条一族に権力奪取の野心があることは明らか。先だってはご嫡男の一幡(いちまん)様が家督を継げばいいものを、千幡君(ぎみ)と日ノ本を東西に分割しようなどという話を決めてしまいました。このまま北条の謀略を許せば、やがて一幡様のお立場が脅かされてしまうでしょう」

その時病床にあった頼家は同意して時政の討伐を許可。能員はさっそく軍備を整え始めます。

(何ということ。ただちに父上へ知らせねば!)

頼家たちの謀議を聞いてしまった北条政子。父を助けるため急報を届けたという。菊池容斎『前賢故実』より

能員と頼家の密談を盗み聞いてしまったのは、尼御台(頼朝未亡人)の北条政子(まさこ)。さっそく時政の元へ使いを出して危険を知らせたのでした。

「……そうかい。籐四郎(能員)の野郎、ついに本性を現しやがったな」

時政は大江広元(おおえ ひろもと)の館へ向かい、この件について相談します。

「古来『やられる前にやっちまえ』とはよく言ったモンだ……で、大江の。どう思う」

広元に相談する形はとっていたものの、その実質は協力要請。要するに脅迫でした。

「……亡き大殿(頼朝)のころから御政道こそお助けして参りましたが、武にまつわることは管轄外。よくよくお考えの上で、鎌倉にとって最善の道をとられますように」

ここで時政に味方して、もし失敗すれば自分の命が危ない。と言って、比企に味方する義理もありません。どう答えようと、時政が逆上すれば殺されてしまうのですから、命懸けで中立を宣言したのは広元の矜持。

「よし、わかった」

少なくとも敵にさえ回らなければそれでいい。時政は広元の態度に納得して席を立つと、自分の館へ戻ります。

時政は荏柄天神の前まで来ると、同行していた仁田四郎忠常(にった しろうただつね)と天野藤内遠景(あまの とうないとおかげ。出家して蓮景入道)に命じました。

「おい、これから比企を殺るぞ。お前ェらめいめい兵を集めろ」

すると遠景は笑って答えます。

「よしてくれよ旦那。あんな老いぼれ爺ぃ一匹殺るのに、軍勢なんざ要るモンか。何か適当な理由で館に呼べよ。俺らでサクッと殺ちっまわぁ。なぁ四郎」

「あぁ、その通りさ。任せとけ」

「……そうかい」

時政と広元。歌川芳員筆

遠景と忠常の言葉を聞いて時政は、広元と再度打ち合わせ(事後の根回し?)をしてから、工藤五郎(くどう ごろう)に命じて能員の館に派遣しました。

「鎌倉殿の病が平癒するよう薬師如来様の仏像を作らせていたのですが、とうとう完成したので開眼供養を致します。尼御台もご参列あそばされるので、どうか比企殿にもおいで頂けましたら幸いです」

とか何とか。比企一族の者たちは、そろって能員の参列に反対します。

「こんなの罠に決まっています。どうしても行かれるのであれば、軍勢を率いて供させるべきです」

しかし能員は笑って諫言を退けました。

「馬鹿を申せ。せっかくの仏縁を結ぶ機会にそのようなことをすれば、却って我らが謀叛を疑われてしまう。さらには臆病者と笑われるばかりで、今後の不利となる。ここはあえて非武装かつ少人数で参列し、我らの度量を見せつけてやるが肝要」

果たして能員は平烏帽子に白の水干・葛袴といったいでたちで北条の館を訪ねていきます。

その一方で時政は甲冑に身を固め、能員を案内する通用門の傍らに遠景と忠常を待機させました。

また郎党の中野四郎(なかの しろう)と市河別当五郎行重(いちかわのべっとう ごろうゆきしげ)に弓を構えて待機させ、二人が仕損じた時に能員を狙撃させる手筈を整えます。

「此度はありがたき結縁に罷り越してごz……うわっ!」

比企能員(中央)を取り押さえて殺す忠常(左)と遠景。『星月夜顕晦録』より

能員が通用門をくぐった次の瞬間、両脇から飛び出した遠景と忠常が取り押さえてその首を掻き切りました。

こうして十三人の合議制を成していた武蔵の大豪族・比企能員は非業の最期を遂げたということです。

【後編へ続く】

※参考文献:

石井進『日本の歴史7 鎌倉幕府』中公文庫、2004年11月 木村茂光『初期鎌倉政権の政治史』同成社、2011年10月 坂井孝一『曽我物語の史的研究』吉川弘文館、2014年11月 『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 前編』NHK出版、2022年1月 『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 完全読本』産経新聞出版、2022年1月

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