「鎌倉殿の13人」一幡の死と頼家の追放。そして……第32回放送「災いの種」振り返り

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「鎌倉殿の13人」一幡の死と頼家の追放。そして……第32回放送「災いの種」振り返り

目が覚めたら、最早すべてが終わっていた……何なら死んだ扱いにされていた源頼家(演:金子大地)。

奇跡的に回復したと言うのに、誰一人として喜んでくれる者のいない孤独。

比企を滅ぼした北条許すまじと母・政子(演:小池栄子)まで罵倒し、北条時政(演:坂東彌十郎)討伐を命じたものの……。

和田義盛(演:横田栄司)はアッサリ時政に内通、仁田忠常(演:高岸宏行)は板挟みに悩んだ挙げ句に自刃してしまいました。

「(北条が悪いのは百も承知。それでも北条を討とうとしたところで)同じことが繰り返されるだけです」

北条義時(演:小栗旬)から引導を渡された頼家。もはや彼に従う御家人は一人もいません。

「父上、これでよいのですか?本当にこれで……」

粗末な輿で修善寺へ送られる頼家(イメージ)

鎌倉殿は御家人たちに君臨するのではなく、あくまで担がれていたに過ぎない現実を突きつけられた頼家。その絶望は察するに余りあります。

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第32回放送は「災いの種」。そのサブタイトルは頼家とその嫡男・一幡(演:相澤壮太)。そして……さっそく振り返っていきましょう。

平賀朝雅(山中崇)&北条政範(中川翼)初登場

いつも和気あいあいな北条ファミリー……と言いたいところですが、会話の内容がだんだん不穏になってきましたね。

更に怖いのは、それを前から変わらない口調でやりとりしていること。まるで謀略が日常茶飯事とでも言わんばかりに。

そんな北条ファミリーに今回、新メンバーが加わりました。きく(演:八木莉可子)の婿・平賀朝雅(演:山中崇)と時政の嫡男・北条政範(演:中川翼)です。

「義母上には野菊の花がよく似合います……」

野菊の花。一輪でも、妻に分けてあげる優しさが欲しかった(イメージ)

自分の妻・きくには目もくれず、りく(演:宮沢りえ。牧の方)に摘んできた野菊の花束を差し出す朝雅。りくは「都でもそう言われました」と大喜び、時政もよくできた婿殿にご満悦。

このワンシーンだけで、朝雅が「妻を北条に取り入るための道具としか思っておらず、また北条の中で誰に取り入るべきかを的確に見抜いている」ことが判ります。

いかにも出世しそうなタイプですが、残念ながらこういうあざといタイプは、そうとわかっていても出世してしまうのが世の習い。

政略結婚だからそういう側面があるのは当たり前とは言いながら、もう少し妻を大切にしてあげて欲しいところです。

※平賀朝雅のエピソードはこちら:

上品だけど胡散臭い…山中崇が演じる平賀朝雅の生涯をたどる【鎌倉殿の13人】

そして待望の嫡男・北条政範(演:中川翼)。以前にりくが男児を産んで大喜びしていたのが、いつの間にかこんな立派に成長していました。

彼は文治5年(1189年)生まれなので、頼家が鎌倉を追放された建仁3年(1203年)時点で15歳。10代で従五位下に叙せられる(父・時政は60代)など将来を嘱望されています。

劇中では千幡(演:峯岸煌桜)が元服の暁に正室となる坊門信清(ぼうもん のぶきよ)の娘を迎えに上洛することが言及されていましたね。

果たして元久元年(1204年)、彼はその予定通りに京都へ向かうのですが……。

命名は源「実」朝、京都と鎌倉をつなぐ役割を期待

「またお得意の夢か。して、どんな夢を」

ところ変わってこちらは京都。双六のコマを高く積み上げて遊んでいる後鳥羽上皇(演:尾上松也)。こういう風に積み上げたものは、必ず後で盛大に崩すのがお約束。

慈円。兄・九条兼実に負けず劣らず皮肉屋だったが、生前の頼朝とは大の仲良しだった。似た者同士?(イメージ)

その傍らには初登場の慈円(演:山寺 宏一)が控えています。今後、彼の見た「夢」が朝廷の意向に大きく影響するのかも知れません。

夢の話を総合すると「次の鎌倉殿はかつて壇ノ浦で失われた宝剣(三種の神器の一つ)の代わりだから大切にせよ」とのこと。

ならば、千幡の元服に際してよい名を授けてやろう……ということで、「頼朝の息子だから、ナニ朝がよかろうか」と後鳥羽上皇。

板の接合面である実(さね。実矧-さねはぎ)からとって源実朝(さねとも)。朝廷と鎌倉をつないでくれる役割を期待してのことでした。

ちなみに、千幡改め実朝の命名については『愚管抄』に記録があります。

……千万御前元服セサセテ。実朝ト云名モ京ヨリ給ハリテ……
※慈円『愚管抄』より

【意訳】千幡を元服させて、実朝という名前も京(=朝廷≒後鳥羽上皇)から賜って……

朝廷の意向は後鳥羽上皇の意向。果たして実が実矧工法からとったかまでは書いていないものの、実朝が上皇を父とも兄とも慕い、その期待に応えようと頑張ったのでした。

しかしそれが故に執権・北条義時と事あるごとに対立。朝廷に近づこうとする実朝と朝廷と距離をとりたい義時のせめぎ合いは生涯にわたって続きます。が、それはもう少し先の話し。

実朝と阿波局(イメージ)

時を戻して、晴れて第3代の鎌倉殿に就任した源実朝。その傍らには、乳母として彼を育ててきた実衣(演:宮澤エマ。阿波局)のほくそ笑む姿が。

かつて曽我兄弟の襲撃事件でのぞかせた権力への野心が結実してご満悦の実衣。彼女が着ていたのは、何とも禍々しいワインレッド。彼女にとっては吉ながら、源氏にとっては凶となる平家の赤が、これからの展開を予感させますね。

後に実朝が暗殺されて権力基盤を失い、ならば次の鎌倉殿にと嫡男の阿野時元(あの ときもと)に一縷の望みを賭けて謀叛をそそのかす未来が目に浮かぶようです(※あくまでも予想です)。

強くて忠義に篤く、バカ…ず(場数)を踏んできた仁田忠常の最期

義時「急ぎ館へ戻らねばならぬ。又にしてくれるか」

忠常「……かしこまりました」

頼家から時政暗殺を命じられ、主君への忠義と北条への情義の板挟みとなった仁田忠常。どちらも裏切れない彼が選んだのは自刃という最期でした。

挙兵以来の同志だった仁田忠常。これは富士の巻狩りで大猪を仕留めた時の勇姿(ただしこの猪が山の神で、その祟りによって寿命が縮んだとも)。歌川国芳筆

『吾妻鏡』だと時政の館へ褒美をもらいに行き、話が盛り上がったのか帰りが遅くなったために一族郎党が「時政暗殺の密命がバレて殺されたか」と誤解して謀叛を起こしてしまい、進退窮まった挙げ句に殺されるという残念なオチ。

大河ドラマのアレンジは、どこまでもまっすぐな忠常の魅力=視聴者の悲しみを引き立てる絶好の演出となったものの、個人的には「自刃するなら、自宅でやれ」と感じました。

和田義盛のように善後策を相談するならともかく、自刃を見せつけるなんて当てつけ以外の何物でもありません。ちょっと意地の悪い言い方をするなら「止めて欲しかったのか」とさえ思ってしまいます。

それにしても、時政の暗殺についてその息子である義時に相談するくらいなら、直接本人に打ち明けるのとそう変わらないのではないでしょうか。「又にしてくれ」と断った義時に良心の呵責(まだそんなものが残っていると仮定して)を負わせるだけの結果となりました。

また、仁田忠常ほどの豪傑であれば自刃に際しては頸動脈をバッサリ切って血を噴き出させ、その血が止めようとした北条泰時(演:坂口健太郎)の顔面にベッタリかかるくらいのインパクトが欲しいところ。

泰時と視聴者の心をどこまでもボコボコに痛めつけ、それでも理想を求め続ける姿こそ、視聴者の求めるカタルシスにつながるのではないでしょうか。

一幡とトウと善児

さて、そんな泰時は前回どうしても一幡を殺せず、善児(演:梶原善)とトウ(演:山本千尋)師弟に預けていました。

「あれは、生きていてはいけない命だ」

そう言い放つ義時に、善児はどうしても殺せないと命令を拒否します。

「(かつて第1回で殺した)千鶴丸と、何が違う」

「わしを、好いてくれている」

今まで人に好意を向けられたことのなかった善児に芽生えてしまった人間らしい感情。しかし千鶴丸(演:太田恵晴)はそんなに善児を嫌っていた様子もなかったはず……まぁ、その時はトウを拾って育てる経験もしていないし、親代わりになって初めて解るようになったのでしょう。

でも、義時にそんなことは関係ありません。善児が殺せないなら自分が……と進み出たところで、それを察したトウが一幡をかばう形で「トウと水遊びをいたしましょう」と連れ去ります。

一幡様、あっちの方に魚がいましたよ。トウが獲って差し上げましょうね。さぁこちらへ……(イメージ)

(かつて、お前もこういう手口で一幡よりもっと小さな幼子を殺したんだよな?)

去って行ったトウの背中が、そのように語っていたのか、あるいはただの偶然(義時の前から連れ去るための方便)か……善児にしてみればなかなか心抉られる展開となりました。

泣きながらブランコの綱を断ち切る善児。もうこれで遊ぶ子はいないので、こんなものは要らないのです。

これまでOPクレジットにその名が出ただけで人の死を予感させた善児ですが、いよいよ焼きが回ってきたのでしょうか。

(これはもう使い物にならんな)

好感度が上がると死亡フラグが立つ。そんな本作の法則からすると、遠からず粛清されるものと予想されます。

案外あっけなく殺されるのか、それとも兄・北条宗時(演:片岡愛之助)の仇として心行くまでなぶり殺しにされるのか、宗時の遺品が登場する次回のお楽しみですね。

比奈と二人の息子たち

「あの人には、比企の血が流れています」

「まさか、首をはねろとでも言うの?」

そんな実衣と政子のやりとり。比企の血を引く生き残りと言えば、義時の正室・比奈(演:堀田真由。姫の前)に他なりません。

実家を滅ぼす手助けをしてしまった負い目から義時に離縁を申し出た比奈ですが、先週チャンバラをしていた2人の息子(後に北条朝時北条重時)は連れて行きませんでした。

なお、誓いを破ると「全身の穴という穴から血を噴き流して死に、地獄へ堕ちる」という起請文は、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)で発行している牛王宝印(ごおうほういん)の誓紙(せいし。誓いを立てるための用紙)に書いたから。

牛王宝印(熊野本宮)の起請文。この裏に誓約を記す。画像:Wikipedia(Utudanuki氏)

※以前に頼朝(演:大泉洋)が「義高(演:市川染五郎)を殺さない」という誓いを立てさせられた時に書いたものと同じ用紙です。

義時から離縁を言い出せないなら、自分から……ということで、最後は義時を「行ってらっしゃい」と送り出して別れとなりました。

かつて「お帰りなさいませ」と結ばれた八重(演:新垣結衣)さんに対して「行ってらっしゃいませ」と別れた比奈。でも間もなく現れる第3の女・のえ(演:菊地凛子。伊賀の方)は、どんな言葉を義時に伝えるのでしょうか。

さて、大河紀行では姫の前(比奈)と、義時ともうけた2人の息子について紹介。二人が結婚したのは、時をさかのぼること11年前の建久3年(1192年)9月25日。

幕府官女〔号姫前〕今夜始渡于江間殿御亭。是比企藤内朝宗息女。當時權威無雙之女房也。殊相叶御意。又容顔太美麗云々。而江間殿。此一兩年。以耽色之志。頻雖被消息。敢無容用之處。將軍家被聞食之。不可致離別之旨。取起請文。可行向之由。被仰件女房之間。乞取其状之後。定嫁娶之儀云々。

※『吾妻鏡』建久3年(1192年)9月25日条

【意訳】頼朝に仕えていた比奈が、この日義時に嫁いだ。彼女は比企朝宗(ひき ともむね)の娘で当時一番の美女として頼朝の寵愛を受け、高飛車だった。彼女に一目ぼれした義時はこの一、二年ほど何度もラブレターを送り続けたが、完全に脈無し。それでも諦め切れない義時が頼朝に泣きつき、「絶対に離縁しない」と起請文を書いてどうにか結婚にこぎつけたのだった(当然、正室としての待遇である)。

……この「義時ストーカー事件」は八重さんへのアプローチという形に変換され、比奈に対しては消極的な様子が描かれていましたが、実際はこんなところだったと言います。

果たして生まれた二人息子の兄・北条朝時は女性スキャンダルを起こすなど比較的はっちゃけた性格、一方の北条重時はそんな兄を見ているためか比較的慎み深い性格に。

※北条朝時・重時兄弟のエピソードはこちら:

女性スキャンダルで勘当!?北条義時と比奈の子供「北条朝時」の生涯をたどる【鎌倉殿の13人】

庭でチャンバラしていたあの子たちは?義時と比奈の子・北条重時の生涯をたどる【鎌倉殿の13人】

好対照な兄弟が今後どんな活躍をしてくれるのか、期待ですね(比企の血が流れているから、実衣から疎まれるシーンなども描写されるのでしょうか)。

終わりに

「北条を許してはなりませぬぞ。あなたの父を追いやりあなたの兄を殺した北条を。あの者たちを決して許してはなりませぬぞ。北条を許してはなりませぬ」

善哉に呪いをかけ、新たな災いの種をまいて去った比企尼(イメージ)

庭先で一人遊んでいた善哉(演:長尾翼。後に公暁)に、突如として現れた比企尼(演:草笛光子)。比企一族の滅亡によってすっかり落ちぶれ、見る影もありません。

それでも声の調子は往時と変わらず上品に落ち着いており、ボロボロな姿とのギャップが視聴者を震撼せしめたことでしょう。

善哉の頬を両手で包んだ仕草は、かつて亡き頼朝と再会した時を髣髴とさせますね。

北条許すまじ。呪いをかけて幻のように立ち去った比企尼。まさに新たな「災いの種」がまかれた瞬間でした。

さて、次週放送の第33回は「修善寺」。これは幽閉された頼家の暗殺と、善児の死を予感させます。修善寺を「しゅ+ぜんじ」に分け、これが「終+善児」なのではないかと予想。

果たしてどうなってしまうのか、来週も目が離せませんね。

※参考文献:

『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 後編』NHK出版、2022年6月 『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 続・完全読本』産経新聞出版、2022年5月

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