「鎌倉殿の13人」一度戦となれば、一切容赦はしない。第36回放送「苦い盃」振り返り

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「鎌倉殿の13人」一度戦となれば、一切容赦はしない。第36回放送「苦い盃」振り返り

京都で北条政範(演:中川翼)が急死、その真相が執権の座を狙う平賀朝雅(演:山中崇)による毒殺だと訴えた畠山重保(演:杉田雷麟)。

しかし保身を図る朝雅はりく(演:宮沢りえ。牧の方)に畠山一族を讒訴。同調した北条時政(演:坂東彌十郎)は源実朝(演:柿澤勇人)を騙し、畠山討伐の下文に花押を書かせてしまいました。

一方その頃、何としてでも戦を回避するべく畠山重忠(演:中川大志)と語り合う北条義時(演:小栗旬)。しかし。

重忠「鎌倉のためとは便利な言葉だが、本当にそうなのだろうか。本当に鎌倉のためを思うなら、あなたが戦う相手は」
義時「それ以上は」
重忠「あなたは、わかっている」
義時「それ以上は……」

北条(私情)と畠山(道義)の板挟みになって苦しむ義時が果たしてどちらをとったのか、それはお察し(史実)の通りです。

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第35回放送は「苦い盃」。サブタイトルの意味するところは意によらぬ結婚で酌み交わした源実朝の盃と、京都で毒殺された北条政範の盃、そして重忠との最後となる義時の盃だったのでしょう。

やはり「畠山重忠の乱」は避けられないのか……実に胸の苦しい展開が続きますが、今週も振り返っていこうと思います。

目次

和歌に目覚める実朝、歩き巫女の予言 殺られる前に……りくの狂気と時政の決断 見抜かれてしまった“のえ”の本性 義時の呷る「苦い盃」 次週・第36回放送「武士の鑑」 和歌に目覚める実朝、歩き巫女の予言

前回、政子(演:小池栄子)が贈ってくれた和歌集の中から、特にお気に入りの一首を見つけた実朝。

道すがら 富士の煙も 分かざりき
晴るる間もなき 空の景色に

【意訳】道すがら、富士山から噴き上げる煙も分からないほどずっと曇っていた。

その作者を訊くと、亡き父・源頼朝(演:大泉洋)とのこと。劇中ではかつて富士の巻狩りで詠んだと紹介されていましたが、この和歌が収録された『新古今和歌集(巻第十・羇旅歌975)』によれば上洛の道中に詠んだのこと。

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ずっと曇り空の道中……兄が非業の死を遂げていきなり鎌倉殿に祭り上げられ、訳も分からぬ内に結婚までさせられてしまう実朝の心情に深く響いたことでしょう。

果たして都から迎えた千世(演:加藤小夏。坊門姫)と婚儀も済ませ、相変わらず浮かない日々の中で癒しを求めて和田義盛(演:横田栄司)の館へ。

鍋たっぷりの茸は、義盛の狩りが失敗に終わったことと、のえ(演:菊池凛子)から押しつけられたことを意味しているのでしょう。ちょっと義盛も不機嫌そうでしたね。

「食い終わったら、面白いところへ……」

連れて行かれたのは、歩き巫女(演:大竹しのぶ)の占い小屋。歩き巫女とは各地を放浪しながら祈祷やお祓い、託宣(神のお告げを伝えること)に勧進(寺社のため寄付を募ること)などを生業としていました。

果たして一ヶ月身体を洗っていない義盛、前世の因縁で双六が苦手な北条泰時(演:坂口健太郎)を見抜き、そして実朝に「雪の日は出歩くな」と警告を発します。

「雪の日に出歩くな」彼女の予言は、何を意味するのか(イメージ)

「お前の悩みは、どんなものであれお前独りの悩みではない。遥か昔から同じことを悩んできた者がいることを忘れるな。この先も同じことを悩む者たちがいることを」

歩き巫女の言葉に感涙する実朝。時代を超えて悩みや生き方を共有できる可能性を、和歌に見出したようです。

それはよかったのですが、無断の夜遊びによって御家人たちは大騒ぎ。鎌倉殿の姿が見えず、教育係の三善康信(演:小林隆)らは頭を抱えてしまいます。

やがて帰ってきた実朝に時政が迫り、下文の花押を書かせますが……掌に隠された下には畠山を討伐する旨が記されていたのでしょう。

社会人であれば「契約内容もわからずにサイン(花押)などできるか!」と突っぱねたでしょうが、何せ実朝は13歳の少年。おじじ様の勢いに押されて同意してしまったものと思われます。

殺られる前に……りくの狂気と時政の決断

こうして実朝を騙して花押を書かせた時政ですが、彼もまた“りく”と周囲との板挟みに悩んでいたようです。

愛息の政範を喪った“りく”に寄り添ってやりたいのはもちろんですが、重忠だって大事な“ちえ(演:福田愛依)”の婿。ずっと家族を大事にしてきた時政にとって、はやり「無理をしすぎた」のでしょう。

それでも最後は“りく”を選んだ時政。子供たちの前でも本音を隠し、畠山討伐に向けてひた進みます。

もちろん“りく”も政子の説得をはぐらかし、「御家人同士が殺し合うのはもうたくさん」と一芝居。剪定鋏で野菊の花を切り落とす描写に、畠山討つべしの本音が透けて見えました。

いつの間にか、家族で腹を割って話すこともできなくなっていた北条ファミリー。いつまでも昔のままとはいかないものの、やっぱり寂しい限りですね。

昔しと言えば、政範を喪って悲しむ“りく”を慰めようと時政が「親父殿の皿を割って叱られたが、皿に盛られた料理の思い出はずっと残る」と昔話を始めた場面に、彼なりの愛情が感じられました。

が、それは夫(男性)の感覚であって妻(女性)にしてみれば、何の慰めにもなりません。自分の血がつながった(ここ最重要)愛息を喪い、もはやその埋め合わせ(再び産むこと等)が叶わない以上、なすべきことは仇討ちあるのみ。

継娘の婿である重忠と、実娘の婿である朝雅のどっちをとる(信じる)かと言えば断然後者。どっちが正しいか、事実関係の確認なんてどうでもいいのです。

ここで畠山を討って足立遠元(演:大野泰広)を退けて武蔵国を掌握せねば、かつて自分たちが梶原景時(演:中村獅童)や比企能員(演:佐藤二朗)を滅ぼしたように、今度は自分たちが滅ぼされる。

彼らもまた、そんな恐怖の中で生きていたことを感じさせる一幕でした。

見抜かれてしまった“のえ”の本性

そんな中、義時に接近を図る“のえ(伊賀の方)”。祖父の二階堂行政(演:野仲イサオ)に何としてでも男児を産み、北条の家督を継がせる野心を吐露します。

物語は実朝の元へ御台所・千世が到着した元久元年(1204年)12月あたりと思われますが、彼女が長子(義時にとっては五男)の北条政村(まさむら)を産むのは翌年6月22日(奇しくも重忠が討たれた日です)。

よく言う「ちょっと計算が合わないな」というものですが、その辺りはドラマのご都合主義で見逃すようにしましょう。

子供が欲しいか、いたらいたで大変だなどと義時は呑気なことを言っていますが、女性としては男児を産むか否かが死活問題。これが義時の死後、北条の家督をめぐる争い「伊賀氏の変」につながります。

とは言え、義時の好感度を稼いでおきたい(ということは、まだ結婚はしていない)のえは「お子様は太郎殿がいるから、それで十分」みたいなことをいじらしく言っていました。

だがちょっと待って欲しい。前回あなたが追いかけっこをしていたちびっ子二人(後の北条朝時北条重時)も義時の子供ですし、大河ドラマには登場しないでしょうが側室の生んだ四男・北条有時(ありとき。当時5歳)もいるはずです。

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こういう「義時(と、目についた泰時)以外はどうでもいい」と言わんばかりの態度が、やっぱり「そういう(北条の家督=権力を得る手段以外に興味がない)人なんだな」と感じられてしまいます。

現に三浦義村(演:山本耕史)は彼女の指先についていた飯粒から「握り飯を食べながら裁縫をするやつがいるか(≒裁縫をしていたなんてのは家庭的アピールの嘘に過ぎず、陰ではテキトーに過ごしていた)」と見抜かれていました。

やっぱり、女子(おなご)の見極めは平六に頼むべきだったか……ちょっと目が泳いでいた小四郎の演技が絶妙でした。

まぁ、それでも惚れているならしょうがないか……義村の態度は小四郎を尊重すると言うより「面白いから放っておこう」という本音によるものかと思います。

いつか最期に「私、本当は茸なんて大嫌いなの」などと宣告されないことを願うばかりです。

義時の呷る「苦い盃」

さて、武蔵国で臨戦態勢を整えていた重忠を何とか説得しようと訪ねる義時。謀叛の意思がないことを誓う起請文の提出を勧めますが、それを受け入れる重忠ではありません。

かつて重忠は梶原景時の讒訴によって謀叛を疑われた時、
「起請文とは心に偽りある者が書くもの。この重忠の忠義は今までの行動が何よりの証明であり、誰もがそれを認めるところである(意訳)」

どこまでも潔い態度を貫き通した畠山重忠。菊池容斎筆

と答弁。誰もがそれを認めて無実を勝ち取ったことがあります。それが今さら起請文など提出したら、それを理由に討たれてしまうことでしょう。

【鎌倉殿の13人】カッコよすぎる!謀叛容疑のピンチをチャンスに変えた畠山重忠の堂々たる答弁がコチラ

「私を招き寄せて、殺すつもりじゃないでしょうね」

疑う重忠の質問に対して、義時は「ハハハ、まさか」と笑って否定しましたが、ここは真剣に答えるべきではなかったでしょうか。

だって義弟が殺されかねない状況でしょう?かつて重忠が謀反の疑いを恥じて武蔵で謹慎していた時、無二の親友であった下河辺行平(しもこうべ ゆきひら)や結城朝光(演:高橋侃)らは必死で重忠を弁護したと言います。

何なら重忠と組んで鎌倉殿と一戦交えかねない勢いだったと言います。しかしこの義時に、その覚悟は見えません。

これまでずっと時政を諫めながら、その非に対してどこまでも食い下がって止めようという気概の見られなかった義時。恐らく正面から父と向き合うことを避けてきたのでしょう。

そんな兄がもどかしかったからこそ、北条時房(演:瀬戸康史)は「これ以上、継母上(りく)に振り回されないで下さい!」と詰め寄ったのだと思います。

これを聞いた時政はヘソを曲げてしまい、義時も「最後のは余計だった」と叱ったものの、やはりいつかどこかで誰かが言わねばならないセリフ。真に「鎌倉のため」を思うのであれば。

父に流され、結局は重忠を討つことになると覚悟した義時の呷った盃は、さぞや苦かったことでしょう。

次週・第36回放送「武士の鑑」

「一度戦となれば、一切容赦はしない。相手の兵がどれだけ多かろうが、自分なりの戦い方をしてみせる」

執権・北条氏を相手に勝てるとは思わないが、せめて一矢報いてくれよう(もちろんそんなことはおくびにも出さず「私とて鎌倉を火の海にはしたくない」と嘯く心意気も素敵です)。

覚悟を決めた畠山重忠。月岡芳年「名誉八行之内 礼 畠山重忠」

第1回放送「大いなる小競り合い」の登場からずっとクールで物腰柔らかな重忠でしたが、その内に燃える闘志は誰よりも坂東武者そのものでした。

義時「腹を決めていただくことになるかもしれません」
実朝「決して殺してはならぬ」
義盛「腕相撲で勝負してみようと思う」
泰時「すぐに着替えを」
義時「冗談だ!」
時政「それ以上、口を挟むな!」
りく「楽しいことを考えましょう」
政子「何を考えているの。何をする気」
泰時「父上は、怖くはないのですか」
義時「平六を呼べ」
重忠「(ちえに)行ってまいる」

もはや「畠山重忠の乱(重保の騙し討ち、重忠の討死)」は不可避。永年の凸凹コンビ?だった和田義盛の腕相撲、これは重忠が片手で暴漢をねじ伏せたエピソードの再現でしょうか。

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ついでに片手で郎党を投げ飛ばしたエピソードも。拳で床に穴があくのも納得です。

ユーキャンフライ!?宇治川合戦で「空を飛んだ」坂東武者・大串次郎の先陣エピソード【鎌倉殿の13人】

義時の「平六を呼べ」は恐らく由比ヶ浜で重保を騙し討ちにする場面。『吾妻鏡』では義村の手勢が討ち取っています。

また、久しぶりに稲毛重成(演:村上誠基)も登場するでしょうか(『吾妻鏡』だと重保は従叔父である重成に呼ばれて鎌倉に滞在していました)。

りく「楽しいことを考えましょう」これは恐らく重忠の死後にその潔白が証明され、「牧氏の変」で失脚・出家(伊豆へ追放)させられた時政との会話と予想します。

それにしても、実朝は本当に可哀想ですね。たとえ騙されたとは言え、「決して殺してはならぬ」と後から言ったところで、もはや取り返しがつかないことを痛感させられるはずです。

当初「今週で重忠も最期か」と予想していましたが、次週に延びてよかったというより視聴者にとって胸の苦しい一週間が引き延ばされたのでした。

いよいよ次週こそ二俣川(重忠最期の地)の決戦。心して見届けましょう。

※参考文献:

清水亮『中世武士 畠山重忠 秩父平氏の嫡流』吉川弘文館、2018年10月 貫達人『人物叢書 畠山重忠』吉川弘文館、1987年3月

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