「鎌倉殿の13人」実朝が死に、義時がついに頼朝を超える?第45回放送「八幡宮の石段」振り返り
ついに源実朝(演:柿澤勇人)が暗殺されてしまいました。公暁(演:寛一郎)の殺意も計画も知っていながら、誰も止めなかった(あるいは止められなかった)末の悲劇でした。
ついでに最大の政敵・源仲章(演:生田斗真)も殺され、生き永らえた北条義時(演:小栗旬)。太刀持ちの役目を交代させられたのも、かえって天のご加護だったのかも知れませんね。
実朝暗殺の瞬間。ちなみにこの絵だと、4年前に亡くなった北条時政が右にいる。香朝楼「歌舞伎新狂言 星月夜」
しかし困ったことになりました。武士の棟梁たる鎌倉殿がいなくなっては坂東武者ひいては御家人たちを従える名目を失ってしまいます。
朝廷に対して「早く親王殿下を遣わして欲しい」と催促しますが、後鳥羽上皇(演:尾上松也)にすれば忌まわしい鎌倉へなど大事な皇子を遣わしたくありません。
次期鎌倉殿をめぐる駆け引きの間、鎌倉を治めるにはどうしても尼御台・政子(演:小池栄子)の権威が必要。そこで義時は、傷心の彼女を引き留めるのでした……。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第45回放送「八幡宮の石段」。鎌倉最大の悲劇を経て、物語はいよいよ最終盤に。果たして義時は鎌倉の危機をどのように乗り越えていくのでしょうか。今週も振り返っていきましょう。
義時と政子「鎌倉の闇を忌み嫌われるのは結構。しかしあなたは今まで、闇を断つために何をされた」
終わらない政治抗争、相次ぐ粛清の末に最後の息子(実朝)と可愛がっていた孫(公暁)を喪った政子。
かつて義時を引き留め、今度は引き留められる政子(イメージ)菊池容斎筆
ほとほと嫌気が差して鎌倉を去ろうとしていたところ、義時は一心同体と引き止めます。以前に源頼朝(演:大泉洋)が世を去って引退を決意した義時を、引き留めた時と真逆の状況です。
義時が望んでいた鎌倉は、頼朝の死によって終わっていました。あの時引き止めなければ、数々の粛清劇もなかったかはともかく、少なくとも義時がその手を血に染めることはなかったでしょう。
それをただ見過ごしておきながら、勝手に悲劇のヒロインぶって退場など許さない。そんな義時の意思が感じられました。
自害を図った政子をトウ(演:山本千尋)に止めさせたのも、姉へのケアというよりは「お前にいなくなられたら困る」という義時の事情ゆえと考えられます。
一方で、政子にも言い分はあるでしょう。尼御台(そして従三位⇒従二位)としての権威はあるものの、それが鎌倉において政治的な実権を握っていた訳でもなければ、権力を裏づける軍事力を持っていた訳でもありません。
実際には義時と連携していたでしょうが、大河ドラマの政子は義時と対立しがちで、全体的に宙ぶらりん状態。それで何をしろと言われても……いつの時代も、責任を果たすには相応の権限が必要です。
そこで次週放送「将軍になった女」いわゆる政子の「尼将軍」化につながるのでしょうが、鎌倉の闇を断つべく、どう覚醒して権力を振るうのかが見どころですね。
義時と“のえ”「言っていいことと、悪いことがあります!今のはどっちでしょうか!」
権力欲を追求する野望のため、義時に近づいた後室“のえ”(演:菊池凛子。伊賀の方)。それを百も承知で手元に置いている義時ですが、仲章に篭絡されかけていた彼女に、心無い言葉を投げかけます。
「八重(演:新垣結衣)も比奈(演:堀田真由。姫の前)も、もう少し出来た女子(おなご)であった……」
現在の妻を、過去の妻たちと比較する義時。夫婦として、最も慎むべき行為と言えるでしょう。現代ならモラハラ認定待ったなしです。
ところで以前、姑の“りく”(演:宮沢りえ。牧の方)から「無理に溶け込もうとしないこと」と教訓を授かっていた“のえ”ですが、さすがに結婚してから十数年(※)が経っています。
(※)嫡男・北条政村(演:(新原泰佑)が生まれたのは元久2年(1205年)6月22日。逆算して、元久元年(1204年)以前に関係を持ったとするのが自然です。
かつての“りく”みたいにお高くとまり続けたならともかく、前回の仏像面白ポーズ大会でも「次、私!」と挙手するなど、彼女なりに打ち解けようとする努力は十分に見られます。
しかしその声は無視され、身内(と認定された者)だけで盛り上がっている様子は、何だか北条ファミリーの冷たさが感じられました。中は温かいのかも知れませんが、外から入るには高い障壁が設けられているようです。
頑張ってよい妻を演じ続けた”のえ”。最初の動機はともかく、義時に尽くし続けた姿は十分に立派ではないかと(イメージ)
たとえ表向きにせよ、頑張って十数年も演じ続けられたなら、それはもう立派な妻と言えるのではないでしょうか。
じゃあ何かい。八重さんや比奈さんは、生まれついた瞬間から出来た女子だったのかい。そもそも小四郎アンタはそんなに出来た夫なのかい。
……などと口走らなかったのは、とても偉い対応です。こうして義時はいらん一言で孤独を深め、毒殺フラグ(藤原定家『明月記』より)を立てたのでした。
(ただし、仮にそうでも直接そのようには描かず、あくまでも匂わせる描写で視聴者に想像させる演出を用いるでしょう)
義時と義村「本当は、私に死んで欲しいと思ったのではないのか!」
公暁の暗殺対象に自分も含まれていたことを受けて、三浦義村(演:山本耕史)を詰問する義時。
「……もしお前を殺そうと知っていたら、俺はアイツをその場で斬り捨てていたよ」
そう義時の見殺しを否定しつつも、襟元を直しながら去って行く義村。襟をさわるのは、嘘をつく時の癖(という設定)、義時は盟友にも見捨てられかけていた事実に内心愕然とします。
さて、館へ戻った義村は「公暁が逃げ込んできた」と三浦胤義(演:岸田タツヤ)から報告を受け、公暁と対面。
食事をかっこむ公暁が抱えていたのは、実朝の首級(『吾妻鏡』による)ではなく鎌倉殿の証しである髑髏。回収後、政子が「どこかへ丁寧に埋めてしまいなさい」と命じているので、これで髑髏はクランクアップでしょうか。
公暁「平六、しくじった」
義村「だから申したではありませんか……」
から、義村が公暁を殺して首桶(公暁の首級)を義時に献上するまでわずか1分あまり。仕事が早いですね。
義時「鎌倉殿の仇を、三浦平六左衛門尉がとってくれたぞ!」
広元「さすがは頼朝様挙兵以来の忠臣」
義村「この三浦、今後も身命を賭して忠義を尽くします」
三者三様、わざとらしいお芝居を演じて一件落着。みんな内心では「嘘つけ」「三浦のどこが忠臣か」など思っていても、あえて言わないのが政治のお約束というもの。
「これからも北条と三浦が手を取り合ってこその鎌倉」
義時の言葉に平伏しながら、義村の苦い表情が今後の一波乱を思わせます。これ以降『吾妻鏡』では義村が何かした様子はないものの、脚本ではどう描かれるのでしょうか。
義時と運慶「天下の運慶(演:相島一之)に神仏と一体になった自分の像を造らせ、頼朝様のなしえなかったことをしたい」
すべての政敵が一層され、鎌倉殿さえいなくなった鎌倉に君臨する義時。その野望の集大成は自らの神格化でした。
義村は「頼朝気取りか」なんて言っていましたが、義時はそれを超えようと躍起になっていたようです。今まで「鎌倉のため」と連呼しながら、いざ自分が頂点に立てば本性をむき出しにします。
そんな俗物だからこそ、欲得で仏像を量産する運慶の俗物ぶりを見抜き、人の心を打つ野望の権化を造るよう命じたのでしょう。
俗物だからこそ、仏を求める(イメージ)運慶「円成寺大日如来像」
ちなみに、義時が自分に似せた仏像を造らせたとか、運慶がカネ儲けのために弟子たちを使って仏像を彫らせたというのは大河ドラマの創作です(念のため)。
自らを神仏と一体化するような義時だからこそ、朝廷から親王殿下をお迎えする話を「死んだ者(実朝)に気を遣ってどうする」と一蹴、北条泰時(演:坂口健太郎)は激しく反発しました。
しかし、死んだ者に気遣いは無用と本気で思っているなら、今まで頼朝の遺志を継ぐという大義名分はすべて自分の都合に過ぎなかったのでしょうか。
「そうだ」と言ってのけるのが大河ドラマの義時。まったく身も蓋もありませんが、そこへ立ちはだかるのが俺たちの泰時。
「面白い、受けて立とう」
可愛い太郎のために泰平の(と言うより北条の)世を築き上げたい義時。そんな父の闇を許せず、真っ直ぐに立ち向かってくる泰時。それはもう可愛くて仕方ないはずです。
なかなかのこじらせ具合ですが、あと3回の放送で親子の対決がどのように決着するのか、今後も目が離せません。
次週第46回放送「将軍になった女」出(いで)ていなば 主なき宿と なりぬとも
軒端の梅よ 春を忘るな【意訳】私が出て行ったら、この家は主がいなくなる。それでも軒端の梅よ、春を忘れず咲いておくれ。
実朝の辞世は、歩き巫女(演:大竹しのぶ)が諭すまでもなく自分の最期を予期していたことを感じさせます。
この「宿」とは鎌倉、そして「梅」とは最愛の妻・千世(演:加藤小夏。坊門姫)を指していたのかも知れません。
とは言え感傷にひたってばかりもおれず(大江殿に叱られてしまいます)、すぐにでも次の鎌倉殿を「用意」しなければ、せっかく引き留めた尼御台の権威にも限界がくるでしょう。
それを象徴するかのように、実衣(演:宮澤エマ。阿波局)が我が子の阿野時元(演:森優作)をそそのかしていました。次回は彼が鎌倉殿を目指して挙兵、滅ぼされる展開が予想されます。
次週の第46回放送は「将軍になった女」。次の鎌倉殿が決まるまでの間、いよいよ政子がいわゆる「尼将軍」として鎌倉の舵取りを担当するようです。同じ北条の者とは言え、義時と一線を画する彼女がどんな采配を見せるのか、次週も楽しみですね。
※参考文献:
三谷幸喜『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 完結編』NHK出版・2022年10月トップ画像: NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」公式インスタグラムより
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