もはや「刑罰」?辞書編集という地味すぎる仕事 (1/2ページ)
世の中にある数多の仕事の中には、多くの人に注目され、認知されるものもあれば、「縁の下の力持ち」的な仕事もある。後者の仕事はその実態が知られにくい。
「辞書の編集者」という仕事は、どんなことをするのか一般的に知られていない仕事の一つではないだろうか。その内情は控えめに言っても「地味」で「地道」だ。
『文庫 辞書編集、三十七年』(神永暁著、草思社刊)はそんな辞書編集の仕事を長年続けてきた著者による、逸話に富んだエッセイである。
■「辞書編集は刑罰である」辞書編集は、何十万にも及ぶ語彙を採集したり、それぞれの語彙の用例を探したり、できあがったゲラを確認したりと、毎日が単調な作業に塗りつぶされている。およそ外交的な人には向かない仕事である。同じ編集者でも書籍編集者のように「読み物」に触れられるわけでもない。
その単調さは「刑罰」にも似ている。著者の神永暁さんがかつて小学館の「日本国語大辞典」の第二版の編集をしていた頃、この事典を愛用していた作家の井上ひさしさん(故人)が編集部を訪れたことがあり、こんなことを話したという。
「皆さんは刑期を務めていらっしゃるのです」
曰く、19世紀のイギリスには辞書編集という刑罰があり、それは数ある刑罰の中でもかなり重いものだった。真偽のほどは定かではないが、辞書編集という仕事が人によっては苦役になりえるということを端的に示すエピソードである。
■辞書編集部も舌を巻く「謎の知識人」を追って行き着いた場所は…実際に辞書編集は、刑罰とはいかずとも「塀の中」とは縁が深いのかもしれない。
神永さんが所属していた辞典編集部に、「ある地方都市」から漢和辞典に収められた漢字の字体について「極めて重要な指摘」を繰り返ししてくる人がいた。これほど字体に精通した人物とはどんな人なのか。その指摘は手紙で送られてきたため、受け取った編集者がお礼かたがた一度お目にかかりたいと返事を出すと、「会う必要はない」と断ってきた。