「実力派怪談師の最恐コレクションとは!?」旭堂南湖「滋賀の怪談を現代に伝える男の巻」珍談案内人・吉村智樹のこの人、どエライことになってます! (2/2ページ)
窓を開けると、森から獣の鳴き声が聞こえてくる。夜の闇が恐ろしくて、いつも豆電球を点けたまま眠っていました」
■恐ろしさの奥底には懐かしさや温かさも
幼少期は怖がりで、テレビで心霊番組が始まると、すぐにスイッチを切っていたという南湖さん。そんな彼が新刊『滋賀怪談 近江奇譚』(竹書房怪談文庫)を上梓した。栗東にあるという、切ると血を流す杉の木、火の玉が浮かぶ能登川の首切り関、河童の皿と呼ばれ、割ると祟りがある霊仙山の岩など、その地の怪異な伝承や実体験を取材した、いわば怪談版滋賀紀行だ。
特に琵琶湖に浮かぶ半透明のモノノケのエピソードは、滋賀でしか味わえない恐怖がある。
「琵琶湖は淡水ですから、海水と違って体が浮かばない。水難事故が起きると助からない場合も多く、それだけに恐ろしい逸話が多いんです」
南湖さんが育った甲南にも、不気味な話がある。宅地造成で街が拓かれた際、地面を掘り起こすと、素朴で粗削りな地蔵がゴロゴロ出てきたという。
「昔の滋賀は交通の要衝で、旅人が行き交っていました。山道で行き倒れになる人も多かったんだそうです。そのたびに村人が質素なお地蔵様を彫って弔った。おそらく、お地蔵様の数だけ、亡くなられた方がいるんでしょう。地蔵盆の日に、ご近所のおじいさん、おばあさんが語ってくれました。私は、そんな話を聴くひとときが好きだった」
彼が集めた滋賀怪談は、恐怖だけではなく、どこか両親や、ふるさとの祖父、祖母が寝床で語ってくれているような温かさがある。そして、滋賀を旅してみたくなる。
6月9日(金)、大阪の百年長屋にて「南湖の会」が開催される。『滋賀怪談 近江奇譚』の発売を記念し、3席の怪談を読むのだ。
話題の新刊とともに、怖くて、でも琵琶湖のように、おおらかな名人芸に、ぜひ触れてみてほしい。
よしむら・ともき「関西ネタ」を取材しまくるフリーライター&放送作家。路上観察歴30年。オモロイ物、ヘンな物や話には目がない。著書に『VOW やねん』(宝島社)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)など