宇宙初期に誕生した古代銀河で複雑な有機分子を発見

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宇宙誕生からわずか15億年後に存在した古代銀河で、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は複雑な有機分子を発見した。今までで最も遠い距離での宇宙化合物の検出となる。
それは「SPT0418-47」と呼ばれる銀河から120億年以上かけて地球に届いた、「多環芳香族炭化水素 (PAH)」という複雑な分子の光だ。
宇宙初期の古代銀河にあったPAHは、そこで星々が活発に形成されていただろうことを示している。
また銀河の赤外線放射は、ブラックホールが物質を飲み込むときに放たれるものよりも、星の形成によって放たれるものの方が支配的であることもうかがえるそうだ。
・古代銀河で発見された有機分子「多環芳香族炭化水素(PAH)」
何やら高貴な響きがある「多環芳香族炭化水素 (PAH)」だが、地球上ではどちらかというと煙たがられる存在だ。
PAHは炭素原子の環を持つ有機化合物の一種で、煙・油・石炭などに含まれる。発がん性や催奇形性があったりと、できれば近寄りたくない化学物質なのだ。
そんなPAHは宇宙にもたくさんあり、天の川銀河の星々のすき間に漂う炭素の約15パーセントがPAHと結びついているとされる。
そのおかげで、天文学者とっては、どこで星が形成されたのか調べるかなり信頼できる手がかりでもある。
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赤いSPT0418-47から届いた光は、青い銀河の重力レンズでリング状に歪められている / image credit:/J. Spilker/S. Doyle, NASA, ESA, CSA・宇宙望遠鏡と重力レンズで古代の赤外線をキャッチ
PAHは天の川銀河以外にもあるのだが、遠方の銀河にあるものを検出するのはずっと難しい。PAHの分子は光を吸収して赤外線を放出するが、それをキャッチするには従来の望遠鏡では力不足なのだ。
それは最新鋭のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡でもそうだ。だから今回は遠く離れた銀河から届く赤外線をとらえるために、「重力レンズ」の力を借りている。
重力レンズとは、巨大な天体が発する重力で時空が曲がり、まるでレンズのような効果を発揮する現象のことだ。
曲がった時空を通過する光は、まるでレンズを通過するように拡大される。この効果をうまく利用してやることで、望遠鏡を大幅にパワーアップできるのだ。
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重力レンズのイメージ / image credit:NASA, ESA & L. Calcada・これまででもっとも遠くの芳香族分子スペクトル
今回、その重力レンズを提供してくれたのは、地球からおよそ30億光年先にあるとある銀河だ。
これがビッグバンからわずか15億年内に形成された古代の銀河「SPT0418-47」からやってきた光を中継し、波長の3.3マイクロメートルまで特定できるほどの細部を地球に届けてくれた。
これをジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観察したテキサスA&M大学の天文学者チームによると、PAHのチリは分布にムラがあるため、その銀河のどこに星が形成されているのか調べることができるという。
またその光からは、銀河内の赤外線で支配的なのは、物質を飲み込むブラックホールが放つものではなく、星の形成によって放たれるものであることを示しているのだそう。
この複雑な芳香族分子のスペクトルは、これまででもっとも遠くで検出されたものだ。まだまだ不明なことがたくさんあるが、初期宇宙の今後の研究を照らしてくれる幸運のサインであるかもしれない。
この研究は『Nature』(2023年6月5日付)に掲載された。
References:Complex Molecules Detected in Ancient Galaxy Near The Dawn of Time : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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