「板前」は料理人の最高位の称号!その語源に込められた、おもてなしの心とは

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「板前」は料理人の最高位の称号!その語源に込められた、おもてなしの心とは

「板前」という言葉。「板」とはもちろん「まな板」のことです。「まな板」は、俎板、真魚板などの文字を当てたことからも明らかなように、本来は魚を調理する際に使用された厚手の板を指します。

かつての日本は伝統的に、大切なお客を招いた際には、その家の主人が俎板の前に座り、自ら魚をさばいて料理するという習慣がありました。

魚や包丁の取り扱いには、一定の作法があり、作法に従ったもてなしに感嘆した客人も、主人の包丁の腕前や味付けを賞賛し、最高のお礼として主人を「板前」と呼びました。

そもそも「俎」の字の原義は、供物を積み重ねる台のことで、大きさや厚さも規定された、神聖な調理器具のことを指していました。時代が経ち、神への供物から客人へのもてなしに変わっても、主人がその板の前に座ることが特別に重要な意味を持つからこそ、それは最高のもてなしとされました。

しかしだんだんと、その板の前に座るのは、主人自身から、主人の眼鏡にかなった料理人へと変わっていきました。作法としてのもてなしだけでなく、実際に美味しい料理を出すことが重要視されることになったのです。

料理人は庖丁人、庖丁者、庖丁師などと呼ばれていましたが、多くの庖丁人から選ばれて、俎板の前で腕を振るうことを許された者だけが、特別に「板前」と呼ばれるようになりました。板前とは、つまり料理人の最高位の称号のことだったのです。

それが、江戸時代になり、茶屋や料理屋が発展し、専門の料理人が配置されるようになると、板前は単に料理人の代名詞となってしまいました。そこで、板前の中でも最も腕の良い調理場の責任者を「花板」と称するようになりました。現在では「板長」ともいいます。

しかしながら、現在の日本に、板前は存在しません。1952(昭和27)年、6月26日、東京都は「調理師条例」を公布し、調理師資格試験を導入しました。このことにより、「板前」の名称ではなく、「調理師」が正式な名称となったのです。

神前において供物を捧げたり、招いた客人を誠心誠意もてなした時代の心意気は、調理師の名称には受け継がれていません。板前や庖丁人という名前と比べると、やや味気ないかもしれません。

参考: 小松寿雄、鈴木英夫 編『新明解 語源辞典』(2011 三省堂)

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