人は「過去の無自覚な加害」とどう向き合うべきか カツセマサヒコさんインタビュー(1) (4/4ページ)
――現実問題として、土方のように目下の人間に高圧的で、無自覚にハラスメントを繰り返す上司の下についたときにどうすればいいのか、というのは気になります。
カツセ:組織として、どうしてそんな人物が野放しになっているのか、という点が気になります。そういう人がいること自体は仕方ないかもしれませんが、組織の中で重要なポジションを与えられたままでいるのは、あきらかに人事や経営の怠慢です。なんらかの方法でそこに訴える必要がありますが、社内の人間関係もあって難しい場合は、担当レベルで親身に相談に乗ってくれる人を探すところから始まる気がします。何より、被害者は孤独になりがちなので、そこから脱するためにも助けを求められそうな相手を見つけることが先決かと思います。
また、昭和気質の上司が自分の職場にいた場合、どんなところが昭和気質で、ハラスメントと呼ばれないための狡猾さをどの程度持っているのか、音声に録ったり文章に残したりした方がいいと思います。そうした客観的な記録が、いざというときに役に立つはずなので。
――組織の問題という点では、土方と雨宮が働く食品専門商社も、人事部長が変わったことでようやくハラスメント対策に本腰を入れたわけで、新しい風が入ってこなければいつまでも社風が変わらなかった可能性がありますよね。
カツセ:土方のような昭和型の上司が野放しになっていたわけですから、この物語の舞台となる企業も、かなり古い体質の会社と言えます。人事部長が変わったことで、ようやく「ホワイトボックス」という、匿名で社内の人の告発ができる仕組みが導入されるのですが、現代の会社であれば、そもそも「風通しがいいのでそんな仕組みはいりません」となりそうですし、すでに似たような制度が存在している会社も多いでしょう。
――会社の体質が変わる時の軋轢や痛みが見える物語でもありました。
カツセ:今の時代に合わせて価値観がアップデートされた会社から転職してきた人事部長からすると、土方のような社員には「なんでこんな人間が問題を起こさずにやってこれたのか」と目が行くはずです。
でも、土方からしたら今まで通りに生きてきただけなので、突然「おまえのやり方は古い」って会社から言われるようになったら、受け入れがたいでしょうし、被害者意識も持つはずです。そのなかで、自分にとって大切な人から「古いよ」と言われたらどうなるだろうか、と思って書いたシーンもあります。
(後編につづく)