【豊臣兄弟!】謎多き慶(吉岡里帆)の正体。背中の刀傷、密会の男は誰か…史料を交え13話『疑惑の花嫁』を考察
『お前たち織田の者には、指一本たりとも触れさせぬ!』
嫁いできた夜、夫となる小一郎に(仲野大河)に、胸の中の覚悟を吐き出した慶(吉岡里帆)。この婚礼は慶にとっての「初陣」。まるで「宣戦布告」のようでした。
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」第13話のタイトルは、そのものずばり『疑惑の花嫁』。
先週、織田信長(小栗旬)に安藤守就(田中哲司)の娘・慶を嫁にしろ命じられた小一郎でしたが、「殿を支えられる強い男になるには、家族が必要だと皆を見ていて思っていた」といいます。
農民同士の戦いで直(白石聖)が斬られ命を落としてから3〜4年ほどが経ったでしょうか。オリジナルキャラクターなれど、小一郎が武士として成長する水先案内人役を果たしました。
お似合いのカップルだっただけに、「戦国時代なんだから致し方ないこと」とはいえ、つい「ノブ…余計なことを」と思ってしまったこの婚礼。
激しい怒りを胸に秘めているような慶は、小一郎も織田家も憎んでいたのでした。
小一郎に対して、まっすぐに「お前が大好き!」な直とは真逆で、ストレートに「お前が大嫌い!」な慶。
新しいスタートを切った小一郎・慶夫婦、この先に悲劇が待ち受けているけれど今は仲良しの豊臣姉妹夫婦、結構似た者同士で気が合っている藤吉郎・寧々夫婦。
そして、せっかく心通じ合ったのに暗雲立ち込めてきた浅井長政・お市夫婦。
今回、クローズアップされた、さまざまな夫婦の絆とともに、固い絆が結ばれたのに断ち切られてしまう兄弟の絆。
まずは、将来「秀長の支え」となっていく慶と小一郎の夫婦の不穏な始まりと、散りばめられた謎を振り返ってみました。
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とても結婚したばかりとは思えない二人。NHK大河「豊臣兄弟」公式サイトより
「顔が好みではない」とキツい言葉をかける花嫁信長の主命により「家臣同士」の政略結婚をした小一郎と慶。
慶は、「小一郎のせいで父が織田家に寝返り、それで夫が殺された」ことを恨んでいる事実が判明したのですが。
小一郎は、その事情も「男を買って遊んでいる」という噂も耳にして(実際、直の墓のある寺で密会する姿を目撃していますよね)いました。
「主命だから断れない」だけではなく、慶への贖罪の気持ちもあったのでしょうか。
嫁いできた夜、二人きりになったとき、「私はあなたのような殿方、少しも好みではありません。その顔も。おしゃべりなところも」と、普通なら立ち直れなくなりそうな尊厳踏みまくりの言葉を小一郎にかける、キツ過ぎる、慶。
……「顔が好みじゃない」って、そこ関係なくない?と苦笑してしまいましたが、逆に「本当に小一郎はタイプではないんだな〜」と、今まで感情を押し殺していた慶の人間らしい一面が感じらました。
慶は、身体は差し出しても心は『お前たち織田の者には、指一本たりとも触れさせぬ!』と涙を浮かべ宣戦布告。けれど、「何も求めない。自分を大切にしろ」と小一郎にいわれ、わずかに表情が揺らいだように見えました。
前回も思ったのですが、慶と相手の男性がお堂から出てきたときも、今回、街中で見かけたときも、「男と女がすることといえば決まっておろう」と慶が毒づくような、情事後には見えないのが気になります。
むしろ、何か真剣な打ち合わせ後のような空気が漂っているような。相手の男性は、腰に大小の刀を指している旅姿の侍。斎藤龍興の間諜なのでしょうか。この関係も謎ですね。
巷では「男を買いあさる女」と噂されているのは知っているはず。その噂を隠れ蓑に何かの計画を企んでいるようで、気になる行動です。
さらに、愛する夫を亡くしただけではなく、どうやら慶自身も肩から背中にかけて、背後から斬られたような大きな傷を負ってます。直も農民同士の戦いのとき、背後から斬られていました。
そのうち、小一郎の最愛の伴侶がそのようにして絶命したことを知りシンパシーを感じるときがくるのでしょうか。
ざっくりと刀で斬られたような傷跡が。NHK大河「豊臣兄弟」公式サイトより
事前に「豊臣ファミリー」の顔と名前をリサーチ済み?嫁いできた日、豊臣家の家族に挨拶をするときだけ初めて笑みを浮かべた慶。
「藤吉郎さま、寧々さま、弥助どの、おともさん、甚助どの、あさひさん、母上さま、ちかでございます。」と頭を下げる慶に、ぼ〜っと見惚れる寧々以外のファミリー。
「小一郎に不満があったらなんなりとわしに申されよ!」と満面の笑みを浮かべる藤吉郎(池松壮亮)を、内心「この女好きの猿!」とキレているだろう寧々(浜辺美波)の睨みつける表情がいい。
皆がうっとりする中で、「この女、大っ嫌い!小一郎に何かしたら承知しないわよ」というセリフの吹き出しが目に浮かぶようでした。
史実での寧々は、秀吉の妻として「うちから政権を支えた女性」といわれ、側室や家臣たちの面倒をよくみて、内側の結束力を高める功績を果たしたと伝わります。
この「豊臣ファミリー」に突如参入してきた異分子を「大歓迎!」とはならないのは当然でしょう。(悪い噂も聞いていることですし)
台所で料理の指示を出したり、藤吉郎がいつ何をしていたか把握していたり、徐々に北政所っぽくなっていくのを感じました。
藤吉郎には笑みを返し「不満などございませぬ」といいつつ、小一郎を見つめてすっと笑顔を消しつつ「私はこの巡り合わせに感謝しております。」という慶。
なぜ、慶は初対面のはずなのに、豊臣一家の顔と名前を知っていたのでしょうか。憎い敵一家なので、事前に家族構成や人となりはリサーチ済みで頭の中に入っていたのでしょう。何の迷いもなく一人一人の名前を口にして挨拶していました。
「この巡り合わせに感謝」というのは、「夫を死に追いやった宿敵・小一郎とその家族の中にこんなに簡単に入れるなんて」という意味合いを含んでいるのかなと、まだ底知れない怖さを感じました。
美しき安藤の娘にうっとりする豊臣ファミリー(小一郎と寧々以外)NHK大河「豊臣兄弟」公式サイトより
慶は「小一郎の武士としての痛みを共有できる人物」慶は、「豊臣兄弟!」の公式サイトによると、
激動の時代をたくましく生き抜き、やがて兄嫁の寧々とともに豊臣兄弟を支える存在となる。夫の秀長が大和国の統治を任されると、ともに大和郡山城に入り、夫の晩年まで連れ添う。
と紹介されています。先日行われたトークショーでの吉岡里帆さんの言葉。
「慶はミステリアスで影のある女性です。
直と小一郎の恋は純粋で、直さんは小一郎とともに“土”を分かち合っています。
一方、慶は武家の娘として育っているので、生死を身近に感じ、小一郎の“武士としての痛み”を共有できる人物だと思います」
確かに「小一郎とともに“土”を分かち合った直」「武士としての痛みを共有する慶」という表現がぴったり。
余談ですが、「べらぼう」のときの蔦重(横浜流星)とともに“吉原”を分かち合ってきた瀬川(小柴風花)、“本屋”という商売の大変さや痛みを共有して死ぬまで連れ添った妻・てい(橋本愛)を思い出しました。
「直さんはもう出てきませんが、直さんの残した言葉がこの後の話でも受け継がれていくので、そこにも注目してご覧ください」という吉岡さんの言葉に希望を感じます。
出会いは不穏でまるで「敵」のような感じですが、ここから小一郎と慶の夫婦がどう心か通じ合っていくのかが見どころですね。
まだ心の中が見えない慶の厳しい表情。NHK大河「豊臣兄弟」公式サイトより
高野山奥之院の豊臣家墓所にある「慈雲院芳室紹慶」の石塔そもそも、小一郎の女性関係に関しては、残されている情報がかなり乏しいそうです。
今回、慶のモデルとなっている「慈雲院」が正室とはいわれていますが、実名も出自も謎です。
史料でそれらしき存在が確認されるのは天正13年頃(1585)。
『多聞院日記』によると、9月に大和国(奈良県)を与えられ郡山城(奈良県大和郡山市)に入った秀長とともに、「濃州(※)女中が、郡山にきた」という記述があるそう。
「智雲院」という説もありますが、天正19年(1591)、高野山奥之院の豊臣家墓所にある石塔の刻銘には「大納言殿北方」(秀長の正妻)として「慈雲院芳室紹慶」とあり、ドラマの「慶」という名前は、ここから一文字とったといわれています。
安藤守就の娘は、竹中半兵衛や遠藤慶隆に嫁いだという話はあるのですが、小一郎(秀長)のもとに嫁いだという記録は確認されていないそうです。
秀長と慈雲院が結婚したのは永禄8年(1565)〜永禄11年(1568)と推測されているようですが、いくつくらいで結婚したのかはわかりません。慈雲院が春日大社へ参拝したり春日大社に詣でたりした記録はあるそうです。
天正18年(1590)、病に付した秀長のため闘病平癒の祈祷も行っていたそうで、夫婦仲はよかったのではないかと推測されています。
秀長には摂取院光秀という側室がいたようなのですが、その人物を伝える史料も少なく、またそれ以外の側室がいたという話もありますが、その記録も乏しいよう。
個人的には、史実に記録がなく曖昧な出来事や人物を、創作の力でエンターテイメントにして見せてくれるのが大河ドラマの面白さだと思います。
※濃州:美濃守守りを称した秀長
高野山奥之院の参道にある『豊臣家墓所』の案内板。 2026年3月に撮影したもの。(撮影:高野えり)
高野山奥之院の参道にある『豊臣家墓所』。柵の内側には入れません。 2026年3月に撮影したもの。(撮影:高野えり)
最後に愛する夫を戦いで殺され、小一郎はもちろん、織田側の人間とは誰とも心は通わせないし信じないという思いを抱え嫁いできた慶。
けれども、小一郎も愛していた直という女性を妻にする寸前に、見知らぬ百姓同士の戦いで殺されてしまい、その痛みを胸の奥深くに抱え続けています。
今は敵対心しか抱いていない慶ですが、もしかしたら何かのきっかけで小一郎が負った深い傷を知り「戦いで最愛の伴侶を奪われたもの同士」心が近づき、新しい絆が生まれていくのかもしれません。
次回は、前回に引き続き、これから起こる悲劇がより残酷に際立たせる浅井長政と織田信長「義兄弟の絆」を感じるフラグ場面と、急激に立ち込めた暗雲の振り返りってみます。
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