西成・あいりん地区で密着「生活保護費支給日」のアツすぎる朝
大勢の人だかりが大阪市西成区役所の周りを囲んでいる。
月初めのこの日、区役所では生活保護費の受給が手渡しで行なわれる。区役所を囲む人だかりは、皆、いち早く、生活保護費を手にしようと、朝早くからやってきた人たちだ。
早い人なら、もう朝7時には区役所正面玄関前に座っている。7時半、8時……と時間が経つに連れ、わらわらと人が集まってくる。8時半を超えた頃には、区役所から職員数人が混雑を避けるべく整理に当たっていた。
公務員も俺らもいっしょや!
知らない人がみれば、いったい何の騒動かと目を見張るその混雑振りはどこか殺伐とした空気感が漂う。列に並ぶ、年のころ50年配の1人の男性に話を聞いてみた。
「そら、朝一でもらいたいやんか。月1回の“給料日”やし」――
生活保護費を“給料”と言い切るこの男性は、混雑整理に当たっている職員を指差し、「あいつら(公務員)も俺もいっしょや。俺のほうがキャリア長いんちゃうか」と屈託なく話す。男性によるともう受給歴は20年近く。この世界では“ベテラン”だ。
だが、区役所が開庁する5分前、8時55分になるとこの男性の表情が険しくなった。とても話を聞ける雰囲気ではない。
朝9時前になると、その殺伐とした空気感は最高潮に達した。ある区役所職員は、この一連の開庁前の様子を「ゲートイン」と表現する。
朝9時ジャスト。区役所開庁、正面玄関である自動ドアが開く。ゲートインした受給者たちが、みな、一斉に走り出す。
受給は西成区役所ではいつも4階フロアで行なわれる。その4階目指して階段を駆け抜ける者、エレベーターに乗る者が競い合い、早く受給が受けられる好位置を目指す。早く並べば、それだけ早く“給料”にありつける。遅ければ、結構な時間、待たされる。
ここでも職員たちは、階段の踊り場やエレベーター前に立ち必死で誘導する。小競り合いにでもなり怪我でもされたら、それこそ「税金からの支出が増える」(西成区職員)からだ。生活保護受給者の医療費は、もちろん本人負担なし、だ。
「エレベーターは最初に乗ったらあかん! 最後に乗らな。出るときは最初になるからな」
受給を終えたばかりの前出の男性はこう受給費をいち早く受け取るノウハウを明かす。そして「給料入ったさかい、飲みに行ってくるわ」と区役所を後にした。
朝9時半、区役所周りの路上では、通勤に急ぐ人たちが足早に歩いていた。
(文・写真/秋山謙一郎)