岸博幸が提言!「消費税10%増税」前に庶民がするべきこと

デイリーニュースオンライン

 経済をわかりやすく解説してくれることで定評ある、元官僚の岸博幸・慶應大学教授に、日本経済の現状を聞いていく短期集中連載。今回のテーマは、2015年に引き上げが濃厚な消費増税についての論考。ますます負担増となる家計をいかに回せばいいのか、聞いてみた。

かなりディフェンシブに考えないと大変なことになる

――今年は消費税が8%になり、2015年の秋には10%に引き上げられる予定です。消費増税については、賛否がありますが、岸さんの考えを聞かせてください。

岸 できれば10%にするのは延期した方が良いです。理由は簡単で消費がだいぶ弱くなっているからです。8月の世帯消費支出は4.7%も減少している。その原因についてマスメディアは、

「消費税増税前の反動減が続いているから」

とか、

「天候不順が続いてなかなか売れません」

 などと言っていますね。そういうことを真に受けない方が良いです。実際には、消費が弱くなっている原因は、物価の上昇に比べて賃金の上がり方が遅いからです。

 7月の物価上昇率が3.6%くらいなのに対して、春闘の賃上げ率は大企業で2%ちょっと、中小企業では1%ちょっとです。加えて社会保障費も上がり、さらには円安の影響で電気代やガソリン代など様々な物の値段が上がっている。当然、一般家庭の観点から見れば、収入の伸びよりも支出の伸びの方が大きい。実際、8月の現金給与総額は実質ベースで2.6%減になっています。これでは消費が伸びるわけがない。

――では来年、消費税が10%に上がったら?

岸 当然、さらに物価上昇率が高まります。その上昇に賃金が追いつかない場合、経済は大丈夫かと。ただ、おそらく賃金は物価上昇に見合うほど上がらないし、経済的には間違っていても、結局は予定通りに消費税は上がるでしょう。そうなると、来年はかなり景気が厳しくなると思います。そうした状況を想定して、一般家庭では、かなりディフェンシブに考えないと大変なことになります。

――大企業が潤えば、そこから徐々に末端に富が落ちていくという、いわゆるトリクルダウンは起こらないんでしょうか?

岸 ほとんどないと思います。だってトリクルダウンは、大企業が儲かれば下請けも儲かるという考えじゃないですか。この1年間で儲かったのは、製造業が中心です。でも彼らは基本的にもうグローバル化をした後で、海外に製造拠点を移してしまっています。さらに、国内に残っている工場は、ロボット化を進めて社員を減らしてしまっています。日本国内は人口が減るから、今後の需要が見込めず、為替もどう変動するかわからないのですから、経営者としては当然の判断ですが。

 すると、部品を海外で調達し、海外で組み立てているということになる。これでは国内でのトリクルダウンが起こりにくい状況だということです。

 一方で、たしかに大企業はすごくお金を持っているんですよ。でも経営者が日本全体の経済を考えてくれるわけではないので、そのお金を使わない。社員に還元しないんですよ。そうなると、ますますトリクルダウンは起きないですよね。

少額でも構わない。若い人はもっと貪欲に投資で資産を増やすことを考えよう

――そうした状況で、さらに家計をディフェンシブに、ということでしたが、具体的にはどうすれば良いのでしょう?

岸 この部分は、働く側ももう少し努力をしなくてはいけない時代になります。国や会社に甘えるなと。こういう状況を危機的に考えて、自分でできることをキチンとやっていけるか、が問われると思います。

 具体的には、自らのスキルアップをちゃんと行なっているか。今の仕事が給料安いなら、それに安住せすに収入を増やすために転職などをしているか。そういうことをシッカリとやっている人は消費税10%時代も乗り越えていけるはずです。

 とはいえ、多くの人がそうした努力できるとは思いません。そうであれば、自分の資産は自分で増やしていくことをしっかりと考えていかなきゃいけない。特に今後厳しい状況を強いられる若い人は、もっと貪欲に投資でお金を増やしていくことを考えていくべきです。

――NISAをやれと?

岸 NISAでも、FXでもいいです。少額でもいいから、何かしらの投資を始めるべきです。そうすれば、経済情報に敏感になり、経済が分かるようになってくる。1年くらいからの長期間なスパンで見ると、株式市場というのはとてもロジカルに動いています。実際に投資することで経済知識が付き、誰もが投資で儲けられるようになるんですよ。

 もう1つ言えば、家などの不動産を買うかどうか。家を買うということは、投資をすることなんですよ。そう考えれば、増税前だからという理由だけで駆け込みで家を買うなんていうのはありえないことなんですよ。だって需要が増えている今、都心の高級マンションは2割くらい価格が上がっています。それはなぜか? 今は明らかに人件費も資材費も上がっているからです。当然、家の価格自体が上がるわけです。金融の当たり前の常識を身に付けていれば、買い時でないことくらい簡単にわかることなんですよ。

――では、そうした常識は、どんな雑誌や本を読めば得られるんでしょうか?

岸  新聞や雑誌を読んでいけば、全体的な流れは掴めると思います。ただし前回も言いましたが、多くの新聞が大企業や政府寄りのバイアスがかかっているので、その分を割り引きながら読むべきですね。新聞なら複数読むことを奨めます。そして、実際に投資して日々考える。そうすれば、経済の動きが見えてきて、金融の常識が得られます。

 これから厳しい時代が来るのは確実です。そうした状況が始まる前の今だからこそ、自分のスキルアップを意識して、金融投資をし始める。今やらないとダメですよ。逆に、危機感をしっかりと持つ好機と考えられれば、未来はそう暗くはないはずです。

岸博幸(きしひろゆき)
1962年生まれ。一橋大学を卒業後に通商産業省(現・経済産業省)入省。通産省在籍時にコロンビア大学経営大学院にてMBAを取得した。資源エネルギー庁長官官房国際資源課等を経て、第1次小泉純一郎内閣の竹中平蔵・経済財政制作担当大臣の補佐官に就任。現在は、慶應義塾大学教授やエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問。
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