広島・緒方新監督もカープファンの本音は「野村“迷”監督が好き」

デイリーニュースオンライン

 CSファーストステージ。3位からの下克上を目指した、野村謙二郎監督率いる広島カープ(以下、カープ)は惜しくも敗戦。と同時に、CSに先んじて発表されていた通り野村監督は退任し、緒方考市氏が新監督に就任することが決定した。そこで、名将、迷将と賛否の別れた我らが〝ケニー監督〟5年間の軌跡を、餞別の意を込めここに掲載したいと思う。

散々なスタートになった就任1年目

2010年58勝84敗2分:リーグ5位

「野球はいいもんだぞ! 楽しいぞ!」の名言を残して現役を引退した我らが野村謙二郎が、満を持して監督としてカープに帰ってきたのは2010年。就任会見での優勝宣言もあり、ファンの心はおおいに高鳴ったが、結果は5位。野村監督のゴリ押しで獲得したオーストラリア代表の4番、ジャスティン・ヒューバーが.220と、まったく機能しなかったことが痛かった。ファンの間ではオーストラリアの草野球の4番だったのでは? と揶揄されるほど。

 しかも、この年のカープはチーム史上2番目の負け数を記録。2桁失点も18試合もあり、記録にも記憶にも残る惨敗のスタートだった。

記録のかかった前田健太をなぜか降板

2011年60勝76敗8分:リーグ5位

 2010年同様、チームは5位と低迷。この年は、野村監督の〝迷采配〟が冴え渡った。特にファンの間で物議を醸したのが、5月20日のオリックス戦。偵察メンバーの先発として、7番DHに投手の今村を先発させた試合だ。しかし、DHは1打席を完了しないと交代できない規則があり、最初の打席で代打を送ろうと考えていた今村が、打席に立たなければならないことに。結果的に、今村は打席でバントを成功させたのだが、その時野村監督が見せた異常な程の喜びに、ファンは迷監督たる素質を見いだしたのだった。

 その後も、奪三振記録のかかった前田健太を記録目前で降板させたりと、不可解な采配が続き、成績も合わせ野村監督の評価は著しく低下してしまったシーズンとなってしまった。

ストッパーにキャム・ミコライオ!?

2012年61勝71敗12分:リーグ4位

 前年よりも勝ち数と順位を1つ上げ、チーム力が上がりつつあることを印象づけた1年。ただこの年も、迷将ぶりは健在だった。特筆すべきは4月28日の東京ヤクルト戦。前年35Sをあげ、絶対的クローザーに君臨していたデニス・サファテを憤慨させた一件だろう。

 4-3とリードした9回。最後は絶対的クローザーのサファテだろうと、誰もが信じて疑わなかったその場面において、マウンドに上がったのは何故かセットアッパーのキャム・ミコライオだった。球場のざわめきが止む間もなく、ミコライオは早々に逆転3ランを浴びてチームは敗退。クローザーとして高いプライドを持っていたサファテは激昂し、打たれたミコライオもショックでノーコメントという目を覆いたくなるほどの惨劇を引き起こしてしまった。

 この投手起用について問われた野村監督は、「ブルペンで先に準備ができていたから」と、ファンとしては納得いかないコメントを発表。クローザーとしてのプライドを傷つけられたサファテは、調子を落とし低迷。シーズンオフにはヘルニアを理由に退団したのだが、その後入団した西武ライオンズとソフトバンクでの活躍を見る限り、逃した魚の大きさを感じずには要られないところである。

外国人選手の起用法に称賛の声が続出!?

2013年リーグ69勝72敗3分:3位

 この年、勝率5割こそ逃すものの、16年ぶりのAクラス入りを果たし、球団初のクライマックスシリーズ進出を決めたシーズン。

 前半戦終了時点で35勝48敗と低迷するものの、勝負所の9月を15勝7敗で乗り切り、勢いそのままCSファーストステージ突破の快進撃を見せる。強力投手陣の形成、若い力の台頭と来期にも期待感を持たせるこの姿にファンは歓喜した。

 そんな2013年の躍進は、なんといっても外国人選手の活躍に触れずには語れない。来日2回目の2桁勝利を記録したバリントンを筆頭に、クローザーのミコライオ、躍進の立役者と言っても過言ではないキラ、穴はあったがCSを決める特大ホームランを放ったエルドレッドなど、ここぞという場面で重要な仕事をしたのは外国人選手だった。

 その外国人選手の活躍の影に、野村監督が一役買っていたことをご存知だろうか? 野村監督は2006年~2009年まで、カンザスシティロイヤルズで臨時コーチの経験があり、英語が堪能。本人曰く「単語だけで文法はむちゃくちゃ」とのことだが、英語を使ったコミュニケーションを駆使し、外国人選手達のモチベーションを高めることにつとめた。定期的に食事会を催し、心をオープンにして信頼を集めている。外国人選手達の活躍の背景には、野村監督の存在があったのである。

 外国人選手は、野村監督を「ケニー」と呼ぶ。キラに至っては「シャチョー」と呼ぶほど信頼関係は抜群。野村監督がいかに親しまれ、尊敬されているかがうかがえるのだ。ファンの間でも、名将ケニーという呼び名が定着したのは、この頃からである。

4番、投手、前田健太!

2014年リーグ74勝68敗2分:3位

 序盤は快進撃を続けるも、交流戦で大失速。その後もち直し、首位に1ゲーム差と迫るも、要所で連敗し結果は前年に続き3位。CSでは負けてしまったが、この5年で着実に勝ち星増やした野村監督。驚くような迷采配が、名采配として称賛されることも多かった。それが如実に現れていたのが、6月19日の楽天戦で見せた〝DH解除〟の一件だろう。

 4点をリードした5回、野村監督は、指名打者高橋に代打岩本を送る。結果は一塁ゴロで凡退。岩本はそのままDHとして出場を続けたのだが、7回表、守備の変更がアナウンスされ、その内容がスコアボードに記されたときに球場がどよめいた。

 スコアボードからDHの表記が消え、4番投手前田健、8番一塁岩本と記されているではないか。交流戦でDHが採用されている試合のため、投手が打席に立たなくてもいいのだが、投手も打線に入っている。スコアボード上では、上段の楽天のオーダーに対し、カープの表記選手が1名少ないというなんとも奇妙な現象が発生したのだ。

 しかし、これは野村監督の迷采配ではない。〝連戦で疲れの見えるエルドレッドを休ませるため〟〝一塁守備に定評のある岩本を守備固めとして守備につかせるため〟〝エースの前田健太なら4点差を守れると確信したため〟この3つの理由から、野村監督はDHを自ら解除したのだった。

 結果、チームは6対2で勝利。就任2年目でやらかしてしまったDHでの一件を好判断で取り返した格好となり、また、常識にとらわれない采配がファンの心をがっちりと掴んだ印象的なシーンである。

 ただ、着実にチームを上位に導いてはいたが、勝負所での敗戦が続いたためか、2013年よりも負けの印象が強い。優勝の可能性が見えてきたところでの連敗時には、〝ここ一番での勝負弱さも野村らしい〟と、既に諦めるファンが多かったのも事実なのだ。

迷監督だろうが復帰を待ち続けるファンの本音

 就任当初から、継投のタイミングや代打などの作戦が裏目に出ることが目立ち、先に記したDHの一件のほかにも、凡ミスを話せばキリがない。現役時代絶大な人気を誇った選手とは思えないほどに、激しい批判に晒された5年であった。

 しかし、現役時代から慕われていた好漢・野村謙二郎が、そのリーダーシップでチームをまとめ、若手の育成、外国人の指導に尽力した結果、若い芽が開花したのは間違いない。例年9月にはシーズン終了していたカープが、この季節まで上位チームとも互角以上の戦いを演じられるほどの力をつけている。その背景には批判に耐え、闘ってきた指揮官の血と汗と涙があるからであろう。いちファンとしては、この功績に対し素直にありがとうと言いたい。

「野球はいいもんだぞ! 野球は楽しいぞ!」との引退スピーチのその通り、本当に野村監督の野球は楽しかった! ありがとう! 野村監督。そして、本当にお疲れ様でした。迷監督だろうが、愛され続けた野村監督。我々ファンは、またいつの日にか、カープに戻ってきてくれることを願って止まない。

(取材・文/井上智博)

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