北朝鮮・金正恩「影武者説」と「健康不安説」の真相

デイリーニュースオンライン

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金正恩、杖をついて40日ぶりに再登場

 やはりというべきか。10月14日、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記日は『労働新聞』に姿を現した。公の場に現れるのは40日ぶりだった。

「金正恩が姿を消しているが、北朝鮮国内でクーデターやなんらかの政変が起きている可能性はあるのか?」

 前回、本連載に書いた「激太り金正恩『痛風説』の要因は意外な高級食材」が掲載された後、筆者の元には何度かこのような質問が寄せられていた。筆者はその度に、「体調を悪くして休んでいるだけでは? 今の北朝鮮でクーデターの可能性はありえない」と答えていたが、予想通りだったようだ。

 40日ぶりの公式登場ということもあり話題に上ったが、何より驚かされたのが、「杖」をついて現地指導する様子が『労働新聞』の一面にバーンッ!と掲載されたことだ。

 北朝鮮に限らず、国家の指導者や元首、またはあらゆる集団の長の体調不良を公にすることは、その集団に帰属する人々を不安にさせるだけに、非常にナーバスな問題である。とりわけ、指導者は常に強く、グレート(偉大)な存在でなければならない北朝鮮で「杖をつく=指導者の弱みを見せる」ことは、本来はあり得ない。

 過去の例でいえば、故金正日が80日間の空白を経て激ヤセした姿を国民に見せたことがあった。だが、「若さ」が売り物の金正恩が杖をついて体調不安という「弱み」を見せることは、極めて異例なことである。

ありえない「影武者」という珍説

 そのような背景からか、ついに「珍説」まで登場する。米華字メディア『多維新聞』は「金正恩第1書記について、影武者の可能性がある」(10月14日付)との”珍説”を披露している。記事を引用したニュースサイト『レコードチャイナ』も、「今回の視察時の写真は、髪型や目など、正恩氏本人とは異なる印象を与える」と最後を締めくくっている。

 しかし、登場以来ずっと金正恩をウォッチしている筆者から見れば、体系、ヘアスタイルから剃った眉毛まで、どこからどう見ても金正恩本人であり、違和感などまったく感じない。また「影武者説」の最大の疑問は、影武者を出すのなら、なぜ「健康な影武者」ではなく「杖をついて体調に不安がある金正恩」を出したのかという矛盾点だ。

 こういった珍説はさておき、「杖をつく金正恩」は世界的な話題になった。このことに誰よりも喜び、ほくそ笑んでいるのは、金正恩本人かもしれない。登場以来、何かとお騒がせな話題を提供してきた金正恩だが、ここ最近は、比較的大人しかった感がある。大人しい自分を演じることに飽きたのか、それとも国際社会から再び注目を集めたかったのかはわからないが、結果的に、杖をついた姿での登場は、国際社会からの注目を一気にかっさらった。

 それにしても、杖をついて満面の笑みを浮かべた写真を公開するだけで、全世界の注目を一身に集める金正恩というオトコは、やはりタダ者ではない。筆者は常日頃から、「金正恩同志はある種のスターである」と主張している。何もいい話題ばかりを提供するのがスターではない。世界を見れば、トラブルメーカーのスターなど履いて腐るほど存在するし、より注目を浴びている。

 行動の一挙手一投足から、ヘアスタイル(「野心ヘア」「覇気ヘア」と言われる)までチェックされる金正恩氏は、まさにスターそのものだ。ただし、北東アジアのトラブルメーカーとしてのスターだ。

 今回もどれほど無理をしたのかはわからないが、杖をついて登場するだけで全世界の注目を浴び、珍説「影武者説」まで登場した。まさに「スター金正恩」の面目躍如といったところだろうか。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など

(Photo by KCNA

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