北朝鮮への有効なカード…総連ビルの気になる行方

デイリーニュースオンライン

対日工作の拠点は結局、温存か
対日工作の拠点は結局、温存か

 日本と北朝鮮双方の思惑が絡み、揺れ動いていた朝鮮総連中央本部ビル(東京都千代田区)の売却が決まり、近く所有権が落札したマルナカホールディングス(香川県高松市)に移ることになった。

 総連本部ビルは、日本と国交のない北朝鮮にとって事実上の大使館。一等地に建つ地上10階、地下2階のビルは、なんとか死守したかったが、整理回収機構が命じた約627億円の支払いは無理で、競売は避けられなかった。総連は不服を申し立てていたが、11月4日、最高裁が棄却した。

拉致問題のカードとして〝政治利用〟

 マルナカは、総連の継続使用を認めない。売却確定が公表された5日、マルナカの顧問弁護士は、「所有権が移れば立ち退きを申し入れることになる。直接、売却したり賃貸したりすることはない」と、語った。

 マスコミも、総連が居座ろうと、これまでさんざん粘り、水面下の工作を繰り返し、緒方重威元公安調査庁長官の逮捕起訴という事件まで引き起こしているだけに、継続使用に批判的だ。産経新聞は11月7日日付の社説で「速やかに退去すべき」と主張した。

 だが、「拉致被害者の安否の再調査」が、日本サイドの要望通りに進まない現状を考えれば、「総連本部ビルは拉致被害者らの帰国につながる有効なカードなので、強制退去は得策ではない」(北朝鮮事情通)という意見は少なくない。

 だからといって、落札した時から退去を求めていたマルナカは、いまさら“大家”になることはできないのだが、気になるのは顧問弁護士の弁に「直接」という言葉が入っていることだ。では、「間接」ならいいのか。前出の事情通が続ける。

「マルナカの落札価格は22億1000万円です。スーパーを売って手元資金が豊かなマルナカは即金で支払える。総連ビルの時価は40億円以上と言われており、転売で損することもない。マルナカは面倒を避けるために、払い込んで所有権を移せば、すぐに売却の予定。相手先のメドはついているようです」

 そうであれば、マルナカの顧問弁護士の含みのある言葉も理解できる。ただ、その業者が、総連と直接つながるようなことはあるまい。「善意の第三者」として総連の継続使用を認めるか、あるいはそこがクッションとして入り、総連ともう少し関係のある企業に売却。賃貸契約はそこと結ぶことになるだろう。

 高圧的に出て退去を求めるべきか、カードとして残しておくべきか――。総連本部ビルは、これからも様々な論議を呼びそうだ。

伊藤博敏
ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。『「欲望資本主義」に憑かれた男たち 「モラルなき利益至上主義」に蝕まれる日本』(講談社)、『許永中「追跡15年」全データ』(小学館)、『鳩山一族 誰も書かなかったその内幕』(彩図社)など著書多数
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