小泉時代とは雲泥の差、安倍内閣のお粗末すぎる「身体検査」の実態

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第一次安倍内閣と同じ過ちを犯してしまった!?
第一次安倍内閣と同じ過ちを犯してしまった!?

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 解散総選挙に打って出る安倍内閣。小渕優子氏、松島みどり氏のW辞任を筆頭に閣僚の不祥が相次ぎ、支持率が低下したのも要因だろう。マスコミや識者からは「事前の身体検査が不十分だったのではないか」と指摘する声も上がった。この「身体検査」とは、どのような内容で、どのように実行されるものなのか。その実態を解説する。

あまりもお粗末すぎた安倍内閣の「身体検査」

 新しく組閣をし、あるいは内閣を改造する場合、前もって閣僚候補者(副大臣・政務官も)に対し、過去の問題発言・行動や交友関係、異性関係、カネにまつわる不自然な取り扱い、利権をめぐる黒い噂などについて念入りに調べておく必要がある。後で不祥事が発覚すると、内閣にとって大きなダメージになりかねないからだ。これを永田町では俗に「身体検査」と称している。

 この身体検査には特に決まったスタイルがあるわけではないが、総理の意を受けた側近の官房長官や首相秘書官が、内閣情報調査室の長である内閣情報監に指示する。さらに内閣情報監は警察庁や国税庁、公安調査庁などに依頼して、対象となる人物の情報収集を行なうのが一般的だ。

 特に政治資金に関しては「身体検査チェックリスト」なるものがあり、選挙・政党支部・個人の項目に分けて念入りに調べ、もし不自然な点があれば閣僚候補者を呼んで水面下で事情を聴くこともある。

 小泉純一郎総理の首席秘書官だった飯島勲氏は「小泉内閣では、政治家本人の政治資金疑惑によって途中で辞めた閣僚は一人もいない」と豪語するだけあって、正規の方法以外に、自分が以前から付き合っていた警察庁や公安調査庁の職員、それに週刊誌やスポーツ紙の記者などからも独自に情報を集めたというのだから徹底している。

 それに比べ安倍内閣は、第一次と第二次を合わせてすでに7名の閣僚が辞任し、しかも、うち5名は公開されている「政治資金収支報告書」をチェックすればすぐに「おかしい」と判るレベルだ。まったくお粗末で、そもそもきちんと調査をしたのかどうかさえ甚だ疑わしい。まともにやっていたなら、これほどまでに政治とカネをめぐる醜聞が次から次へと噴出するわけがないのである。

地元県警の公安に指示して選挙区内まで調べ上げる

 身体検査が具体的にどのように行なわれるのかについては「秘中の秘」だけに、なかなか生の声を聞くことは難しいが、貴重な証言があるので紹介しておこう。

 筆者が仕えた議員の一人は、2001年に第一次小泉内閣で内閣府大臣政務官に抜擢されたが、就任して数カ月ほど経って、日頃から事務所に出入りしていた警察庁の幹部二人と会食する機会があった。宴たけなわになった頃である。一人が「先生が政務官になることは、我々は何日も前から知っていましたよ。官邸筋からの指示があったので、先生の地元の県警の公安の連中に命じて先生の身辺を詳しく内定させましたから。先生は、カネにまつわる黒い噂や女関係などは真っ白でしたね」と言い出した。

 議員は「へえ。僕の選挙区の中まで調べるのか。それじゃ悪いことはできないな」と頭を掻いていたが、同席していた筆者は、身体検査の実態を一部垣間見たような気がしたのを覚えている。

税金滞納でも大臣の椅子がパァに

 閣僚枠が決められている参議院では、大臣候補の一番手は国会対策委員長である。筆者が親しくしていた某国対委員長は、期待に胸を弾ませながら、皇居での認証式に着るモーニングまで用意して官邸からのいわゆる「呼び込み」を待っていた。だが、待てど暮らせど電話は鳴らなかった。某議員はがっくりと肩を落としたが、実は彼は国会対策のために身銭を注ぎ込み、財産をすり減らして税金を滞納していたのだ。そして、税務署から自宅の差し押さえを食らっていた。これも身体検査が生んだ「悲劇」と言えよう。

 一方で、官邸に「好ましからざる情報」が入っているはずなのに、握り潰してしまったと思われるのが第三次野田内閣の田中慶秋法相の例だろう。

 田中氏は「暴力団との交際」が発覚して、在任期間わずか23日で辞任に追い込まれた。このとき、内閣情報調査室は「内閣改造の約1週間前、警察庁を通じて神奈川県警に命じて田中氏の身辺調査を行ない、洗いざらい報告したが、なぜか官邸に無視されてしまった」と怒ったという。

 あるいは当時の野田首相らは、「その程度のことでは大した問題にはなるまい」と高をくくり、「知らぬ顔の半兵衛」を決め込んでしまったのかもしれない。そうなると、いったい何のための身体調査なのかわからない。まったく呆れた話で、民主党政権が9名もの閣僚辞任を出したのもいわば当然だろう。

 この民主党政権時代と同様に、安倍内閣の調査能力は「甘すぎた」と言わざるを得ない。これ以上、今後の政権運営に響かねばよいが……。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(ともに彩図社)など。

(Photo by Dick Thomas Johnson via Flickr)

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