【日テレ内定取り消し】現役アナが証言「興信所を使った異常な調査」の実情
日本テレビから内定をもらっていたアナウンサーが「銀座のクラブで働いていた」という理由で、内定を取り消された問題で、当事者である東洋英和女学院大4年生の女子大生(22)が起こした「地位確認請求」訴訟が話題となった。
私は90年代中頃に大学を卒業後、某県地方局に局アナとして入社した。以来、ニュース、バラエティと数々の番組に携わってきた。そして30歳を前にフリーアナに転身、現在はラジオのレギュラー番組などを担当している。
今回の前代未聞の内定取り消しは、アナウンサー仲間の間でも話題にのぼっている。私は第一報を聞いた時に信じられなかった。
では、どんな時に内定取り消しになるのだろうか? アナウンサーになるための対策本によると以下の3点が挙げられる
- (1)大学を卒業できなかった場合
- (2)健康を害した場合
- (3)品行上問題があった場合
1と2が理由で取り消しになったという例は聞いたことがない。内定取り消しになるほとんどの場合は3だろう。「品行には気をつける」ということは、アナウンススクールの先生や先輩アナウンサーが口酸っぱく、何度も志望者に伝えられ続けてきた。
興信所は高校の担任にまで電話していた!
私もアナウンサー受験を志した大学生の時、先輩の女性アナウンサーからお話をいろいろ伺った。その際に「アナウンサーとして放送局を受けると、内定が出る前に、興信所がいろいろ調べるから身辺を綺麗にしておいてね」と言われたものだ。
身辺を綺麗にしておくというのは品行上問題があってはいけないということに値する。そこで、私はまず彼氏に別れを告げて、アナウンサーに受かるまで「男断ち」するという禁欲生活に入った。合コンにも行かない、クリスマスも一人だった。映画に行くのも友達と友達の彼氏と私という生活を続けた。彼氏とチャラチャラしていたとか、路上でキスをしていたとか、いらぬ噂が実家周辺や近所で立たないように、非常に真面目に過ごしたのだ。
というのも、実家・近所の奥様方はとてもよく観察していて「○○さん宅のお嬢さんは、彼氏がよく車で送ってきて、路上でキスをしていたのよね」「路上で抱き合っているのも見た」など、アナウンサー職を受けなくても噂にのぼることを知ったからだった。何も「男断ち」までしなくてもいいのではないかと思われるかもしれない。別に彼氏がいたから内定を貰えないという訳ではない。ただ男性の影がチラチラしていて、フワフワ浮足立って見えるのはよくないと思うし、いろいろ詮索されたくなかったら彼氏はいないほうがいいのかもしれないと、当時の私は思ったのだった。
実際に面接では「彼氏がいますか?」と聞かれることもあった。「男性関係は大丈夫か?」という思惑もあっての質問だったのではないだろうか。そして、案の定、地方局から内定を貰った後に知ったのだが自宅隣の奥様からこう言われたのだった
「就職試験はどこを受けているのかしら? 興信所から電話がかかってきて、隣のお嬢さんのことを教えてほしいと言われたのでいいことを言っておいたわ」
近所だけではない。高校時代の担任の先生にまで興信所は電話をかけていた。母校にまで連絡をして「どんな高校生でしたか?」と聞くのだ。幸い、私は担任と相性がよく、きちんとした高校生活を送っていたのでいい生徒だったと証言してもらえたが、もし自分と相性が悪く、もしくは別の先生が電話に出て何か悪いことでも言われたら、アウトだったのだろうかと今でもよく思う。身辺調査を高校時代まで遡るというのは、自分でも驚きで想定外だった。
昔の話なので今はわからないが、少なくとも現在でも採用の際には何らかの調査はしているのではないだろうか。後から、いろいろと良くないことが出てきて内定取り消しにするよりは採用側で調べてしまった方が楽だと思う。
今回、アナウンサーの内定取り消しに遭った女子大生も、あとで言うよりは、今話しておこうという気持ちだったのだろう。日本テレビも本人から真実を聞けて、調査の幅を広げることをしなくてよかったのだから、ある意味「Win-Win」の関係にも見える。
イベントコンパニオンのアルバイト歴は黙っていた
そもそも、女子アナになる人はどんなアルバイトをしているのだろうか。以前からエントリーシートにアルバイト歴が設けられていた。日本テレビの2015年度アナウンス部門エントリーシートにも「ゼミ、サークル、学外活動、業務経験」を書く欄が存在する。ここには面接受けのいいアルバイトを書き、面接官から質問をしてもらえたらラッキーだ。珍しいアルバイトが書いてあれば、面接官の興味を惹くかもしれないが、普通の女子大生がやるアルバイトがほとんどだと思う。
私は家庭教師、個人塾講師、飲食店店員、テレビ・ラジオ局のアルバイトや、学生DJや司会のことも書いた。記入はしなかったが、他にはイベントコンパニオンやティッシュ・チラシ、パンフレット配り、飲料水のデモンストレーション、コンサート会場や球場での販売、巫女、単発の女子大生リポーター、予備校や専門学校の事務、イベント受付などあらゆるものをお小遣い稼ぎを社会勉強を兼ねるという意味でやってきた。
他のアナウンサーは、歯科助手や医療系アルバイトに従事していたり、通訳・翻訳などの語学系の特技を生かす人もいた。女子大生キャスターやタレント、モデルなど芸能活動をしている人もいた。そして、後輩アナウンサーの一人は銀座のホステスに実際にスカウトされていた。誰もが振り向くような美人でスタイルが良かった彼女は、それを断っていた。確か勉学が忙しいという理由だったと思う。
かつて、アナウンサーエントリーシートのアルバイト欄に書いてあるのを見て、面接官が私にこう言った。
「飲食チェーン店の○○でアルバイトをしていたんだね。ちょっと接客風景を再現してみて」
女子大生だった私は必死に、「いらっしゃいませ。○○をご注文ですね」など言いながら、普段の接客を再現した。こういうことも面接で聞かれるとしたら、やはり一般的なアルバイトしか書けないのかもしれない。
ホステスは誰もがなれる職業ではない。やはり、華やかさや美しさやスタイルの良さ、卓越した話術などが必要で選ばれた一握りの女性だけだと思う。頭も良くなければ、生き残っていけないシビアな世界だ。そもそも、アナウンサーとホステスは求められているものが違うので比較もできないし、職業に貴賤はないので差別的な発言をしてはいけないと思う。
アナウンサーは清楚で品行方正であるべきという考えも正しい。これは理想論かもしれない。番組のスポンサーや視聴者のことを考えると、爽やかなイメージが必要なのもわかる。日本テレビと内定を取り消された女子大生が早期によい方向で和解できるのを願っている。
(文/田中那智美)