【総選挙】大義なき「今のうち解散」で笑うのは誰か|田原総一朗コラム

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田原総一朗に「解散総選挙」を訊け!
田原総一朗に「解散総選挙」を訊け!

 12月14日の総選挙に向けて政界は大混乱だ。「みんなの党」解党騒ぎに続いて小沢一郎氏率いる「生活の党」の議員たちの民主党への鞍替えが伝えられる一方、来年4月の統一地方選(全国44の県議会と300以上の市町村議会の選挙)を控えた自民党の地方議員たちからもブーイングが出ているという。

「この時期に解散を決意するとは、すばらしい。大英断だ」とする声は聞こえてこない。なぜ安倍首相はこの時期に解散を決意したのか。

 僕は、安倍首相が解散に踏み切った理由は二つあると考えている。一つは、株価の問題だ。10月31日に日銀が追加の金融緩和を決定、これを受けて日経平均株価は17000円まで跳ね上がった。一時は15000円を割り込むような状態だったから、成功と見ていいだろう。

 だが、この株価が長く続かないことは安倍首相も自民党の幹部もわかっている。この株価が高いうちに、選挙をした方がいいと判断したのだろう。

 もう一つは、現時点では野党の選挙態勢が整っていないことだ。維新の党も橋下徹氏と松井一郎氏は出馬表明を取り下げるなど、慌ただしい動きが続いている。

 安倍首相としては、株価が高いことと、野党がバタバタしている「今のうち」に解散しておこうというわけだ。

 ただし、これで国民は納得できない。朝日新聞社が実施した11月19、20日の全国緊急世論調査(電話)によると、今回の解散・総選挙に「反対」は62%と、「賛成」(18%)を大きく上回った。また、「消費増税の延期について国民に信を問う」という解散理由についても、「納得しない」(65%)が過半数を占め、「納得する」(25%)を引き離している。安倍内閣支持層と自民党支持層でも「反対」「納得しない」が5割程度に上っていることも興味深い。

 さらに、安倍内閣の支持率は39%で、不支持率は40%(同36%)と、第2次安倍内閣発足以来、支持は最低、不支持は最高を更新し、初めて支持と不支持が逆転する結果となった。

 この雰囲気のままでは、自民党も苦戦するだろう。解散時の294議席をどこまでキープできるか、難しいところだ。

 しかも、11月の沖縄県知事選では安倍政権が支持する現職の仲井真弘多氏が対立候補の那覇市前市長の翁長雄志氏に10万票の大差で敗れたことも自民党にとっては痛手だった。翁長氏は米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の国外や県外への移設を訴えており、今後の安全保障政策にも影響を及ぼすことになる。

 つまり、与野党いずれにもとっても、選挙に「いい材料」はないのだ。

解散に至るゴタゴタもマイナスか

 自民党にとってマイナス要因はまだある。閣僚の辞任問題だ。安倍内閣は、14年秋の改造で「女性活躍内閣」として支持率を上げようと、5人の女性を入閣させている。

 中でも、故小渕恵三元首相を父に持つ小渕優子さんの経済産業大臣就任は注目された。「日本初の女性首相」待望論もある小渕さんは、安倍内閣の支持率アップが期待されていた。かつて小泉政権時代に田中眞紀子さんが入閣した時のような人気を狙ったのかもしれない。

 だが、後援会の収支報告の問題で政治資金規制法違反の疑いが持たれてしまい、小渕さんは辞任に追い込まれる。そして、問題はそれだけにとどまらず、松島みどり法務大臣の「うちわ疑惑」、小渕さんの後任の宮沢洋一経産相の資金管理団体「宮沢会」のSMバー問題や違法献金疑惑など次から次へと出てきてしまった。

 なぜこれほどの疑惑がたくさん出てきてしまったのか。理由はわからないのだが、小渕さんの政治資金問題については、実は以前から把握されており、小渕さんが入閣して脚光を浴びるタイミングを狙って発表されたという情報もある。最も「効果的」な時期にスキャンダルを流したのだ。

 これが事実だとしたら、読者の皆さんは「権力とは怖いものだ」と思われるかもしれない。だが、だからこそ僕は政治が面白いと思う。

 ただし、こうしたカネの問題はワイドショーでは盛り上がるものの、国民はもう飽き飽きしている。

 与野党は、真の「国民の政治」のために何ができるか、短期間ではあるが、全力でアピールして戦うしかない。国民もしっかり注視する必要がある。

田原総一朗(たはらそういちろう)
1934年滋賀県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、岩波映画を経て、東京12チャンネル(現テレビ東京入社)に入社。撮影中にインタビュアーの求めに応じて性行為に及ぶなど「突撃取材」で名を馳せ、水道橋博士から「日本で初めてのAV男優」と評される。原発報道をめぐって会社と対立、退社後はテレビ朝日系『サンデープロジェクト』(惜しくも終了)、『朝まで生テレビ!』のほかBS朝日『激論!クロスファイア』などで活躍。著書や共著も多く、『日本人と天皇 - 昭和天皇までの二千年を追う』(中央公論社)、『80歳を過ぎても徹夜で議論できるワケ』(角川書店)、堀江貴文氏との対談『もう国家はいらない』(ポプラ社)のほか百田尚樹氏との対談『愛国論』(ベストセラーズ)も14年12月に発売予定。

(撮影/佐倉博之)

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