右翼も警察も…みなが愛する高倉健&菅原文太主演の「ヤクザ映画」|宮崎学コラム

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ヤクザ映画のスターだった菅原文太
ヤクザ映画のスターだった菅原文太

 高倉健と菅原文太という名優が相次いでこの世を去った。二人は多くの名画に出演しているが、共通しているのはなんといっても「ヤクザ映画」のスターであったことだ。

 世間のリアルヤクザは排除されていても、銀幕(というのも死語であろうが)の「健さん」たちは輝いており、ヤクザ映画は衰退の一途をたどる映画産業の最後の輝きでもあった。

映画館では学生運動も休戦

 今では考えられないことであるが、私の学生時代と重なる1960年代から70年代にかけては、右翼も左翼も、そして警察官もヤクザ映画が大好きだった。

 三島由紀夫が自衛隊で自決した際も、本部へ向かう車中でヤクザ映画の殴りこみよろしく「唐獅子牡丹」を歌ったというエピソードもあるほどだ。

 映画館で学生たちが他のセクトの「敵」に出くわしても、その時ばかりは「休戦」である。これも今では考えられないが、映画のシーンに合わせてテーマソングをみんなで歌い、殴り込みの場面では拍手喝采だった。

 観客は、映画の中で活躍するヤクザたちを見て溜飲を下げ、日ごろの鬱憤を晴らしていたのだろう。学生運動に走る若者たちも、社会人たちも、社会の矛盾や己の無力さに焦燥感を募らせていたが、何もできなかった。憎い仇を斬り捨て、拳銃をぶっ放す彼らを見てスカっとしていたのである。

 海外でもハリウッド映画『ゴッドファーザー』や韓国ドラマ『野人時代』などアウトローを扱った作品はどれも人気があるが、同じ理由だと思う。『忠臣蔵』なども同様であろう。

 ちなみに、高倉氏や池部良氏が出演した『昭和残侠伝』は私が好きな作品であり、任侠映画の王道であるが、これに対して菅原氏や松方弘樹氏らが活躍する『仁義なき戦い』は実話(ヤクザの手記)を基にした「実録もの」といわれる。

 とはいえ、実録もの以外の任侠映画も、実話に近いと思う。もともとヤクザとはわかりやすい存在なのである。私の周囲でも『昭和残侠伝』のような話は実際に起こっていた。

 なお、高倉氏は、実録もので三代目山口組組長・田岡一雄氏に扮したことがあり、所作などを本人に習い、プライベートでも親交があったことが死去に際して改めて報じられた。氏に限らず芸能人がヤクザと交際するのは、当時は当たり前のことであり、ヤクザもタニマチとして面倒を見ていた。

 「任侠」という言葉が廃れた現在、ヤクザ映画の大スターが次々とこの世を去ることは寂しいことである。

 改めてご冥福をお祈りする。

宮崎学(みやざきまなぶ)
1945年京都生まれ。早稲田大学在学中は学生運動に没頭し、共産系ゲバルト部隊隊長として名を馳せる。週刊誌記者を経て実家の建築解体業を継ぐが倒産。半生を綴った『突破者』で衝撃デビューを果たし、以後、旺盛な執筆・言論活動を続ける。近著に『突破者 外伝――私が生きた70年と戦後共同体』(祥伝社)、『異物排除社会ニッポン』(双葉社)など多数。
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