【解散総選挙】血税631億円投入、選挙費用の表とウラ

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総選挙という“お祭り騒ぎ”の裏で、候補者たちは選挙費用の資金繰りに苦しんでいる!
総選挙という“お祭り騒ぎ”の裏で、候補者たちは選挙費用の資金繰りに苦しんでいる!

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 12月2日に衆院選が公示され、14日の投開票に向けて舌戦が繰り広げられている。選挙運動には、国家財政においても、また候補者個人のレベルでも莫大な費用がかかる。有権者が知らない「選挙とカネ」の裏事情とは。

「大義のない選挙」に631億8300万円もの血税が

 国民の7割近くが「解散する理由がない」とする総選挙も中盤戦に入り、候補者が自分の名前を書いたタスキを掛け、鉢巻を締め、白い手袋をはめて、愛想笑いをしながら、できもしない「公約」を喚き散らして師走の街を駆けめぐる——。まるで“お祭り騒ぎ”のような光景がそこらじゅうで繰り広げられている。

 政府は今回の選挙の費用として、約631億8300万円を計上した。総務省は「前回の選挙では約690億円かかった。これまで700億円前後の費用が必要だったが、今回の選挙では約1割も節約した」と胸を張るが、政権党の党利党略と安倍総理の長期政権樹立への「野心」のために631億円もの血税を使うのだから、開いた口が塞がらない。

法外な国費は選挙でどんな使い方をされるのか

 ではなぜ、選挙にそんなにもカネがかかるのか。投票所の会場代や、選挙事務に携わる者たちの人件費、ポスター掲示場の設置などの費用のほか、候補者の選挙運動費用の一部を国や地方自治体が負担する——いわゆる「選挙公営制度」を採っているからだ。

 この制度によって国が負担するのは以下のような費用である。

1. 選挙運動用自動車の使用料
2. 選挙運動用通常はがき(候補者1人につき3万5000枚)の交付と郵送
3. 選挙運動用ビラ(同7万枚以内)の作成
4. 選挙事務所の立札・看板の作成料
5. 選挙運動用ポスターの作成(公営掲示場の数)
6. 新聞広告(5回まで)
7. テレビの政見放送
8. ラジオの経歴放送
9. 個人演説会場の立札・看板の作成料
10. 特殊乗車券・航空券(選挙期間中に全線乗り放題となるチケット)の配布費用

 はがきだけでも、1枚52円のものが3万5000枚となれば、候補者一人あたり182万円にもなる。新聞広告も、スペースにもよるが、5回も掲載したらそれこそ全体で億を超えてしまう。もっとも、供託物没収点である有効得票総数の10%以上の票を取らないとすべて候補者の自己負担になってしまうから、「選挙マニア」や「泡沫候補」が面白半分に立候補しにくい仕組みにはなっているのだが。

 筆者もかつて、某少数政党の参議院比例区選挙を仕切ったことがある。新聞広告を大々的に売ったのはいいが、もし獲得票数が供託物没収点を下回り、自己負担になったらどうしようとビクビクしたものである。

法律で決まっている「選挙運動費用の上限」は完全無視

 いざ選挙ともなれば、候補者自身にも大金が必要なことはもちろんだ。では、候補者個人のレベルだと、どれくらいのカネがかかるのであろうか。

 その目安となるのが「法定選挙運動費用」だ。選挙には、種類によって運動費用の最高限度額(上限額)が決められている。人件費、家屋費、通信費、交通費、印刷費、広告費、文具費、食糧費、休息費、雑費の合計だが、衆議院の小選挙区だと、【固定費(1910万円)+(有権者数×15円)】で算出される金額が上限ということになる。

 筆者が住んでいる選挙区の場合、有権者数は約40万人だから、1910万円+600万円(40万人×15円)で、法定選挙費用は約2510万円ということになるが、実際の相場はその2倍、約5000万円といったところだろう。

 むろん、法定選挙費用を超えて支出すれば、出納責任者に3年以下の禁錮または50万円以下の罰金を科されるだけでなく、「連座制」により候補者の当選も無効になるが、実際には誰もそんなものを守りはしない。選挙にかかったカネは「選挙運動費用収支報告書」にまとめて提出することになっているが、真偽のチェックがないから、デタラメな数字を書いてごまかすのが常套手段だ。

 これは、それだけカネをかけないと「当選」に漕ぎ着けることができないということの裏返しでもある。

選挙費用の借金で「夜逃げ」や「自己破産」も

 経済的に考えれば、政治家ほど割にあわない稼業はない。多くの者が選挙のために多額の借金を抱えて苦しんでいるのが実情だ。

 筆者の友人のW代議士などは、よせばいいのに、これまでに衆議院総選挙に6回出馬して5回当選。そのたびに借金がかさみ、「俺は、落選したら自己破産するしかねえ」というのが口癖だった。案の定、彼は民主党が政権を奪った平成21年(2009年)の選挙で落選し、まだ自己破産にまでは追い込まれていないものの、経営していたタクシー会社は人手に渡してしまった。大地主で長く市議会議員を務め、土地の顔役でもあった父親から相続した豪邸やマンションもすべて失い、おまけに女房まで不動産屋に寝取られ、狭い賃貸マンションで一人暮らしを強いられる毎日だ。平成24年(2012年)の総選挙で首尾よく国政復帰を果たしたのは何よりの幸運だが、借金を返す間もなく今回の総選挙。「ちくしょう、安倍の奴。まだ蓄財もできてないのに解散なんかしやがって」というのが本音だろう。

 また、筆者がかつて選挙応援に入ったことのある、参議院議長まで務めたK議員は、選挙のたびに所有していたビルを売り払って資金を捻出し、それでも足りずに自分が理事長を務めていたM信用金庫から20億円近い借金を背負った。引退したとたんに過酷な取り立てに遭うも、そんな大金は返せるあてもなく、住んでいた豪邸は差し押さえ。老いの身を奥さんの実家に引き取られ、世を忍び、細々と暮らす毎日だという。

「民意を問う」のは結構だが、大義のない選挙には無用なカネがかかり、政治家や候補者たちにも重い負担がのしかかるという事実を忘れてはいけない。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。

(Photo by Dick Thomas Johnson via flickr)

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