パワードスーツを着た兵士…自衛隊が目指す“死なない戦争”最前線

デイリーニュースオンライン

次世代の戦闘服(写真/川口友万)
次世代の戦闘服(写真/川口友万)

 集団的自衛権の容認や武器輸出の緩和など、何かとキナ臭い話題が多かった2014年。2015年は昨年にも増して、世界情勢の不安定化が懸念されている。市ヶ谷の防衛省には自衛隊幹部を議員にしようと政党関係者が日参し、オフレコながらも若年層のボランティア参加を強制する、そしていずれは徴兵制などという物騒な話もチラホラ耳にする。

 そうした動きに反応して、2014年は左派系メディアや運動家が集団的自衛権等への反対運動を繰り広げたわけだが、政治家の個人的意見はともかく、肝心の自衛隊がどういう方向に進もうとしているのか、その情報がまるでメディアから伝わってこない。

 平成23年5月に防衛省経理装備局技術計画官が発表した『技本の研究開発の現状と軍事技術の方向性』によると、今後の自衛隊の方向性は2つ。1つはNCW(NetWork Centric Warfare)、1つはゼロカジュアリティだ。

 自衛隊の次世代装備は、かなりSFだ。パワードスーツや無人車両、無人偵察機、偵察用ロボット。防空用レーザー砲やデジタル通信でゴーグルに戦況が表示される兵士用の装備もある。

 自衛隊の『先進個人装備システム』。次世代の戦闘服だ。布地の下にはセラミックの防弾板が隠れている。戦況はヘルメットのモニターに投影され、心拍数などのバイオデータは常時モニターされる。

 自衛隊のパワードスーツ。戦闘目的ではなく、物資運搬に少人数で対応するためのサポートだ。

 小型偵察ロボット。これがコロコロ転がって、放り込まれた先の映像をカメラで送ってくる。

 国産ステルス戦闘機の開発も進んでいるし、テラヘルツ波を使って、コンクリート壁の向こうの敵を探知する技術や理論的に解読が不可能な量子暗号通信、ナノ粒子を使った次世代複合装甲、超伝導電磁推進船など、ラインナップだけなら米軍にも引けを取らないハイパーテクノロジーがずらりと並んでいる。

 しかし現実は厳しい。防衛省の研究開発費は他国に比べて群を抜いて少なく、同報告でもいかに予算が少なく、困っているかが切々と訴えられている。ちなみに中国の軍事研究予算は日本の4倍、ロシアは2倍、韓国も日本より予算が多い。

 少ない予算をやりくりしてがんばっている日本の防衛だが、こうした次世代技術の運用はNCWとゼロカジュアリティの方針下に行われる。

自衛隊の目指す新時代の戦闘の姿

 NCWは陸戦兵器も空戦兵器もすべてネットワーク化し、戦場の情報を総合的に管理しながら戦闘を行うもの。たとえば歩兵が携帯型ロケット弾を撃つ場合、今は相手が見えないと撃てない。だが次世代戦闘の場合、無人偵察機等々から標的の座標が送られてくるので、その座標に従って撃てば、あとは勝手にロケット弾が当たってくれる。まったく遠方からの攻撃が可能になる。

 ゼロ・カジュアリティは死傷者ゼロ、味方に一切の人的被害を出すことなく、戦闘を終了させようという考え方だ。これは米軍にも共通する。

 現在、ISISと多国籍軍は交戦中だが、これも戦闘機による高々度爆撃と無人機による攻撃が主体で、極力、戦場に兵士が行かずに済むようになっている。だから70年前に最後に日本が戦った戦争と今の戦争は完全に別物で、徴兵制なんて軍事的リアリティからすればまったくのお笑い草であり、そんな次元で今の戦争は行われていないのだ。

 昔は人間が安かったが、今は兵士の値段がとても高いのだ。軍事トレーニングの費用だけではなく、死亡した場合の補償金や年金が以前よりもはるかに高い。人間が死んでもらっては困るのが現代の戦争なのだ。しかも少子高齢化が進む日本で、若い兵士が死のうものなら、とんでもない損失である。

 そこで自衛隊では、

  • ロボットシステム技術
  • 個人装備技術
  • CBRN脅威対処技術(CBRN:化学・生物・放射能・核の頭文字)

 以上の3分野を組み合わせ、ゼロ・カジュアリティを目指す。

 もちろん理想としては、ロボット兵器が勝手に戦って勝ってくれることだが、そんなターミネーターのようなことはまったく無理だ。福島第一原発の調査でも、投入されたロボットが大した成果も上げられず、結局、人間が決死の覚悟で放射能の海に飛び込んでいる現状からわかるように、ロボットはあくまで人間の補助しかできない。

 ゼロ・カジュアリティを実現するには、極力少人数で、遠隔的に戦闘を行うことが望ましい。人数が少なければ死亡者数は当然少なくなるし、離れたところから戦えば、敵の攻撃は味方に届かない。そこでNCWが効いてくる。偵察ロボットで情報収集を行い、物資は無人車両やパワードスーツを使って運ぶ。ネットワーク端末として兵士が活動し、遠隔戦闘を行う。

 軍靴の響きが……という左派メディアのあおりがむなしくなるほど、現代の兵器は進化している。その軍靴も、形こそブーツだが、高機能スニーカーと同じソールで生地はゴアテックス製だ。今や軍靴の音がしないのである。日本の右傾化を心配し、徴兵制復活を恐れるのは結構だが、それはファンタジーに過ぎない。現実の戦争は死なない戦争、それが自衛隊の目指す戦闘の姿だ。時代は変わったのだ。

(取材・文/川口友万)

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