ブラック企業に殺される? 被害者の声なき声~『ワタミ・渡邉美樹 日本を崩壊させるブラックモンスター』

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ブラック企業に殺される? 被害者の声なき声~『ワタミ・渡邉美樹 日本を崩壊させるブラックモンスター』

ブラック企業問題は終わったか?

「近頃、ブラック企業、ブラック企業ってみんなあんまり言わなくなったよね。ブラック企業自体が減ったってこと? さすがにいろいろ報道されて、ブラック企業も懲りたってことなのかね」
 そんな話を耳にした。
 当然、そんなわけがない。

 つい先月も日本労働組合連合会が発表した「ブラック企業に関する調査」によるデータが静かにながら、世間を賑わせていた。
 曰く、〈『勤務先はブラック企業だと思う!』は4人に1人、20代では3人に1人〉。しかも〈勤務先がブラック企業だと感じるが、誰にも「相談したことはない」4割半〉。20歳から59歳までの働く男女3000人にインターネットを介して調査した結果だという。これはなかなかスキャンダラスなデータではなかろうか。
 現在、日本の労働者人口は約6400万人。ザッと計算しても、今も1600万人もの人々がブラック労働に身をやつし、720万人もの人々がそれを誰にも相談できずに苦しんでいる、ということだ。
 しかもブラック企業問題がややこしいのは、もっとも重度な被害者たちは、自らが不当な扱いを受けているということを感じながらも、その状況を受け止め、考え、対抗手段を練るための時間も気力も体力も、根こそぎブラック企業に奪われ続けているという事実にある。本当に助けが必要な人たちの叫び声は小さい。
『ワタミ・渡邉美樹 日本を崩壊させるブラックモンスター』(中村淳彦・著/コアマガジン)は、この問題に警鐘を鳴らしている。

睡眠時間を得るために自らを失う

 同書によれば、ワタミでは、渡邉美樹が発明した〈理念研修〉なる徹底的な社員教育がなされている。その内実たるや、〈長時間労働をして、営業が終わって閉店の準備をして、眠らずに朝7時から行われる理念研修で渡邉美樹漬けとなる〉ものなのだという。しかも、〈渡邉の言葉は、いつも優しい言葉を多用した否定しづらい美辞麗句で染まっている〉といい、〈肉体が疲弊し、長時間労働で精神がすり減って思考停止状態の中で、実態のない優しくポジティブな言葉に漬かるのである。計算づくだろうが、ポジティブな言葉の多くは単なる正論であり、簡単に否定や反論ができない。反論をするためには膨大な体力と精神力、覚悟が必要とされる。理念研修は勤務時間外である。長時間労働で疲弊している社員たちは、自分でなにかを考えたり、意見や議論をするエネルギーなど残っていない。睡眠を筆頭に、それぞれに生活がある。生きるために、1秒でも早くカラダを休めるために、目の前にある渡邉美樹の言葉を受け入れ、その場を乗り切るという選択から洗脳は始まっているのではないだろうか。思考停止状態で理念を表面的に共有しているうちに時間が経ち、本当の自分自身がわからなくなって染まっていく〉のだという。

 ほんの少しの休息を得るために自らを偽り、思考停止する。欺瞞のスパイラルに陥ったならばもう、大きな声で助けを求めるような気力は残らない。そんな人々は日本中にどれだけいるのか。先に述べた720万人すべてがそのような末期的な状況にあるとまでは言わないが、あなたの身の回りにそんな状況に陥っている友人知人がいたとしてもおかしくはない。
 もしあなたの大切な人がブラック企業のサンドバックとなり、声を失い、小さくなってうずくまっているとしたら、それに気づいてあげられるのはあなただけかもしれないのだ。

(文・編集部)

※本人の書籍も並行して読むと、ことの本質がより理解できる。
オススメ書籍:きみはなぜ働くか。 渡邉美樹が贈る88の言葉(日経ビジネス人文庫)/渡邉美樹・著
http://books.rakuten.co.jp/rb/6438487/

オススメ新書:ワタミ・渡邉美樹日本を崩壊させるブラックモンスター(コア新書)/中村淳彦・著
http://books.rakuten.co.jp/rb/13040162/

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