都構想を前に橋下市長も頭を抱える「大阪の品格」

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市職員への「刺青調査」で敗訴した橋下徹市長だが…
市職員への「刺青調査」で敗訴した橋下徹市長だが…

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 橋下徹大阪市長が3年前に全職員約3万4000人を対象に職務命令として行なった「労働組合や政治活動への関与」を問うアンケート調査に対し、大阪市の職員と労働組合側が「思想の自由」などが侵害されたとして市などを相手取って1465万円の損害賠償訴訟で1月21日、大阪地裁は「憲法が保障するプライバシー権および組合の団結権の侵害にあたる」と認定。市などに40万円の損害賠償を命じた。

 大阪市と橋下市長にとって、この種の訴訟ではこれで四度目の敗訴になる。橋下市長は判決を不服として控訴する方針のようだが、司法判断としては当然、多少でも憲法の知識がある者なら納得の判決だから、おそらく上級審でも結論は変わるまい。

人権侵害は百も承知…無謀な職務命令と大阪市の苦悩

 では、もともと弁護士で誰よりも人権感覚にあふれていなければならないはずの橋下市長がなぜ「違憲」「不当」は百も承知でこの種の調査を繰り返すのかといえば、背景には、大阪市をはじめ京都市や奈良市など近畿地域の市町村職員の素行に、東日本では想像もつかないような実態があるからだ。

 それを垣間見せてくれたのが冒頭で触れたアンケート調査である。橋下市長が2012(平成24)年2月、大阪市職員約3万4000人に対して「刺青の有無」と、刺青を入れている場合は「箇所と範囲」を記入するように指示したものだ。

 これには、国民の多くが仰天したに違いない。「公務員はお堅くて真面目」というのが通り相場なのに、刺青を入れているような市職員が“調査”を必要とするほど存在するとは到底思えないからだ。

 きっかけは、大阪市の児童福祉施設の職員が不埒千万にも、子どもたちに腕の刺青を見せびらかして威嚇したからだというのだが、国会議員の政策秘書になる前は東京都や千葉県の公務員であった筆者の同僚のなかにそのような人間は一人もいなかったし、そういった話を耳にしたこともなかった。

 ところが、同年5月には3万4000人のうち、なんと110人もの職員が「刺青を入れている」と答えているのだから、目を剥くしかない。むろん、刺青を入れること自体は犯罪でもなんでもない。ただ、入浴施設やパチンコ屋でさえ「入店お断り」としているように、健全な市民生活を営む者にとってあまり好ましくないというだけだ。

 裁判所は、「刺青調査は不当」として2014(平成26)年12月17日には大阪市に対して損害賠償命令を出している。しかし、判決は「調査」自体を問題にしたものであり、刺青を入れることを推奨しているわけではないことはもちろんである。何よりも憂慮すべきは、大阪市がそれだけの数の“刺青職員”を抱えているという事実だろう。

「特別枠」採用の職員が曲者

 刺青を入れていても、それを見せびらかして威嚇したりしない限りは害はないが、問題は、大阪市や京都市、奈良市などではごみ収集や償却などを職務とする「環境担当部局」の現業職員による無断欠勤、職場放棄、勤務時間中の入浴、覚せい剤の使用、暴力団への加入など不祥事が絶えないことである。これらの“素行不良職員”たちが日常の服務指導に大きな支障をきたしているのだ。

 京都市では、2003(平成15)年から2006(平成18)年までの間に不祥事で懲戒処分を受けた市職員は全体で70人にのぼり、そのうち39人が環境局の職員であったという(発覚当時の市の発表による)。

 2006(平成18)年には、奈良市の環境清美部職員が5年以上も「仮病」により長期欠勤をしていた不祥事が発覚している。病気を理由に2001(平成13)年からの5年9カ月の間にわずか8日しか出勤しなかったこの職員、実際にはポルシェで毎日のように自分の勤務先である奈良市役所を訪れ、妻が代表を務める建設会社の営業活動を行なって、入札制度価格にも横槍を入れて実施を妨害するなどしていたという。その間、給与およそ2700万円を不正に受給していたというから腹立たしい。これはテレビ、新聞各社も報道していたから、ご記憶になる読者諸氏も多いかと思う。

 では、なぜ他の地域では考えられないような不良公務員が存在するのかといえば、大阪市などには、職員採用に際して「生活の改善や就労機会の保障」を名目とした一種の「特別枠」があるからだ。この特別枠で採用された層と「不良職員」がほぼ一致するのである。

 多くは環境部局や水道局などの現業作業員だが、法律家の橋下市長が人権侵害を承知で強権発動したのは、そんな大阪市の体質に業を煮やしたからだと考えられる。今回、敗訴した信条調査などもその延長であろう。

大いに問われる「大阪都」の品格

 橋下市長が執念を燃やす「大阪都構想」というのは、要するに二重行政の原因になっている大阪府と政令指定都市・大阪市のうち大阪市を解体し、「府」のもとに東京都23区のような区長を公選とする独立した特別区を置くことだ。

「大阪市地域特別区設置法」により法定協議会が設置され、昨年(2014年)の7月に構想の設計図である「協定書」が作成されたが、10月には府議会、市議会ともに否決。しかし、本年1月13日、法定協議会で協定書が承認されたことから、3月の議会で承認を得て、5月には住民投票にかけられる見通しだ。

 だが、もし「大阪都」が実現できたとしたら、「都」を名乗る以上、当然ながら東京都や23区と同じレベルの「品格」が求められる。

 110人もの刺青職員も特別区が引き取ることになるが、それで品格は保たれるのか。官民を問わず、組織は小さくなるほどコンプライアンスが機能しにくくなる。人口300万人近い現行の大阪市でさえ手を焼いているのに、いくつもの特別区に分割されて小さくなった組織に、果たして、刺青職員ら不良公務員たちの服務管理ができるのか——という疑問は残る。

 都構想も結構だが、「都の品格」について橋下市長がどう考えているのか、ぜひ聞いてみたいものである。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。
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