アルミ缶集めに苦戦…変わりゆく労働者の街・山谷の今

デイリーニュースオンライン

寂れゆく山谷(写真/村田らむ)
寂れゆく山谷(写真/村田らむ)

 山谷は東日本を代表するドヤ街である。僕は15年以上山谷を取材しているが、取材をはじめた時にはすでに寂れていて、その後取材をするたびにどんどん寂れていく印象を持つ。いつまでも生々しい活気がある、大阪の西成(釜ヶ崎、あいりん地区)とは、対称的な雰囲気だ。

50年以上回復しない景気

 早朝は仕事に行く労働者の姿を見るが、昼ごろになると、酔っぱらいがポチポチいる程度で人影がなくなる。昔から山谷にいる人に話しを聞くと、

「山谷に一番活気があったのは1962年のオリンピックの前。オリンピック以降は下がりっぱなし」

 と決まって言われる。50年以上下がりっぱなしというのはすごい。

 山谷最寄りの商店街『いろは会商店街』は、山谷から吉原まで続く全長300メートルの大商店街だが、軒並み閉店していて、シャッター商店街と化している。

 商店街入り口には酒屋があって、泥酔したホームレスが座り込んでいる。シャッターの前では、ホームレスが布団を敷いて寝ていたり、賭け花札をしていたりしている。なんとも荒んだ雰囲気だ。

 2011年には山下智久が矢吹丈を演じた『あしたのジョー』が公開されたのにちなんで、まちおこしキャンペーンが行われた。聖地巡礼的な盛り上がりを期待したんだと思われる。

 現在でもいたるところに『あしたのジョーのふるさと 俺はこの街に帰ってきたぜ!』と書かれた垂れ幕や、ポスターが飾ってあるが、どう見ても効果をあげていない。等身大のジョー人形が寂しく微笑むばかりである。

 最盛期には数万人の労働者がいて、すごい活気があったらしい。その頃の活気が戻ってきて欲しいと、住人も思っているのかと思いきやそうでもないらしい。60歳ぐらいの女性の住人に話を聞くと、

「山谷に活気があった頃は、景気は良かったけれど、治安も悪かった。毎晩酔っぱらいが暴れていたし、時には暴動も起きていた。商店やホテルの人は活気があった方がいいだろうけど、普通に暮らしてる住人は静かな方がいい。だから活気は戻らないほうがいいね」

 と意外な返事がかえってきた。住人の多くは、なんのへんてつもない静かな住宅街になってほしいと思っているようだ。

 ドヤ街のドヤは「宿」の隠語。つまりホテル街という意味だ。そもそもは山谷に住む労働者が泊まるホテルだったが、景気が悪くなるにつれ労働者の数も減り、ホテルも大幅に数を減らした。

 しかし未だに数十件のホテルが営業を続けている。それどころか、新築されたホテルもある。なぜ営業を続けられるのかと言えば、ターゲットを変えたのだ。

 山谷を歩いていると、外国人の姿をよく目にする。海外から東京観光に来ている人たちだ。東京のホテルは高く、ビジネスホテルでも5000円近い値段がする場合が多い。山谷のホテルは昔ながらのドヤの場合は2200円くらいが相場、新築のホテルが3500円くらいが相場とだいぶ安い。

 看板を英語表記にしたりしてターゲットを外国人に寄せたホテルも多いが、『東京バックパッカーズ』など、初めから外国人の客を狙ったホテルもある。

 そもそも山谷は上野や浅草などの観光地が近かったが、スカイツリーもできてますます観光に便利な街になった。また、日本人でも、仕事の出張や、高校の部活の遠征でも使われる場合が増えている。

 山谷と言えばスラム街の印象もあるが、海外の本格的なスラムに比べれば大したことはなく、外国人の人の中にはスラムと気づかない人も多いという。

 全体的に綺麗なホテルが多くなった山谷だが、『いなりや』という名のホテルは素晴らしい外観を保っている。

 夏場は建物全体が緑で覆われ、まるで天空の城ラピュタのような雰囲気だ。現役のドヤなので一度泊まってみたいのだが、残念ながら断られてしまった。

 日雇い労働に代わるビジネスとして福祉ビジネス、介護ビジネスがある。ドヤを改装して、生活保護対応のアパートにしている物件は多い。また大規模な、特別養護老人ホームも多い。『NPO法人(特定非営利活動法人)』や『ヘルパー』の看板もよく見る。山谷は労働者の街から、福祉の街になったのだ。

定番のアルミ缶集めは苦戦

 先ほど山谷は外国人から見たらスラムではないと書いたが、とはいえスラム的要素が全くなくなったわけではない。あしたのジョーにも出てくる玉姫公園は、公園の周りをガッチリ柵で囲まれ、ただならぬ雰囲気になっている。公園内には、ホームレスの荷物が大量に積まれている。子供が遊ぶ公園という雰囲気ではない。

 ホームレスの仕事と言えば定番なのが、アルミ缶集め。テントの横には集めてきた空き缶が積まれている。買い取り値段は、時期によって多少変動するが、大体1キロ100円程度である。ホームレスに話を聞くと

「一日中自転車で集め回ってやっと3000円いくかいかないか。上手い人だと、マンションの管理人と仲良くなって、アルミ缶を回してもらったりして、効率よく稼ぐ人もいる。ただ最近はアルミ缶を集めるのを商売にしている業者もある。彼らは軽トラを使って根こそぎかき集めていくので、勝負にならない」

 とのこと。なかなか厳しい世界である。週刊漫画雑誌を集めて古本屋に売る人もいて1冊、50円で買い取ってもらえる。駅のゴミ箱で拾ったり、電車の網棚から拾ったりして集める。人気漫画雑誌が出た翌日は、3000円ほどは稼げるらしい。

 ビジネス……とは少し違うかもしれないが、玉姫公園あたりは露出モノのアダルトビデオが撮影されることが多いという。ホームレスの中には、出演しないか? と声をかけられたという人もいた。山谷にはマンモス交番と呼ばれる大きな交番もあるし、警察の監視が薄いとは思えないのだが、それでも普通の住宅街よりは撮影しやすいのかもしれない。

 最後にドヤ街の食事事情に触れたい。ドヤ街と言えば、量が多くて安い食堂や、ホルモン焼き、おでんなどのお店が多い印象だ。確かに山谷にも、そういうお店はあるのだが、昔に比べると随分数を減らした。山谷に行く度に足を運んでいたお店も、ほとんど潰れてしまった。ドヤ街名物の激安弁当もあるのだが、基本的には300~350円前後のお店が多い。しかし中には100円台のお弁当を販売して話題になったお店もありネットで話題になった。

 いろは会商店街にある、お弁当屋さん『卯USAGI』ではなんと120円のお弁当が売られていた。その名も『おかゆ弁当』。歯のない老人が大半を占める現在の山谷を象徴するようなメニューだ。ちなみにおかずも100円で売られているので220円で食事をとることができる。

 アベノミクスのトリクルダウンの最下層にいる人々の生活は相変わらずだが、訪日外国人の増加による恩恵を受けている側面もある。そんな光と影が交錯する街になりつつあるようだ。

(取材・文/村田らむ)

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