平成の市町村合併で大赤字…“地方創生”への過酷な道のり

デイリーニュースオンライン

安倍晋三公式サイトより
安倍晋三公式サイトより

 今般、安倍政権が重要政策として掲げる“地方創生”。人口減少は地方都市になればなるほど深刻さを増し、早急な対応策が求められている。

 とはいえ、これまでの政権がまったく地方活性化に手を打っていなかったのか?といえば、答えはNOである。地方活性化に向けた取り組みの中には、効果を疑問視する政策もいくつかあった。その中で、賛否が激しく激突したのが市町村合併だ。

 地方自治制度が成立して以降、明治と昭和の2度にわたって市町村合併が繰り返されてきた。平成の市町村合併の主目的は、何と言っても行財政の圧縮にあった。当時の様子を地方自治体関係者はこう話す。

「当時、政府は行財政改革に躍起になっていました。膨らむ赤字を何とかしようと、行政の効率化は必須課題でした。当然、行財政改革の矛先は地方にも向きます。『政府の台所事情が火の車なのだから、地方自治体もどうにかしろ』と号令がかかり、市町村合併という合理化が始まったのです」

 平成の市町村合併は明治や昭和の合併に比べると、上からの押し付け感が強く合併の大義名分が乏しかった。それだけに市町村関係者から“大義なき合併”と批判が相次ぎ、多くの市町村は合併に後ろ向きだった。

 合併を拒む市町村が多い中、兵庫県多紀郡4町(篠山町・今田町・丹南町・西紀町)はほかの自治体に先駆けて合併。平成11(1999)年、新たに篠山市が発足した。篠山市が率先して合併したのは、政府の手厚い優遇策があったことが理由に挙げられる。市町村合併を促す合併特例法では、合併した市町村に合併特例債の起債を認めている。合併特例債は7割を国が肩代わりしてくれる地方債のことをいう。篠山市は合併特例債をフル活用して、ハコモノを建設しまくった。

 くわえて、町村が市になるには人口5万人という要件をクリアしなければならないが、合併特例法では合併の場合に限り3万人以上で市に昇格できる。篠山市は3万人をわずかに超える人口だったが、合併特例で市への昇格を果たした。

「篠山市は平成の市町村合併のトップランナーでもあり、当時は合併のモデルケースともてはやされていました。市町村合併を検討していた町村長や議員は、みな篠山市に視察に行っていたはずです」(前出・地方自治体関係者)

 また、小泉政権の発足も市町村合併に拍車をかけた。痛みを伴う改革を旗印にした小泉政権では、地方交付税の削減が打ち出された。税収の乏しい地方自治体にとって、国から支給される地方交付税は命綱と言っても過言ではない。地方交付税の削減は、目ぼしい産業がない過疎自治体にとって死刑宣告に等しかった。政府は合併した市町村は地方交付税を10年間維持することを約束し、地方自治体は財政破綻を回避するべく、しぶしぶ合併せざるを得なかった。

 これらの合併の対象になっていたのは町村ばかりではない。大都市も同様だ。道府県と同等の権限を有するとされる政令指定都市は、従来なら人口100万人規模で指定される。しかし、合併した場合は人口70万人でも政令指定都市になれるとされた。静岡県静岡市と清水市は平成15(2003)年に合併し、平成17(2005)年に念願の政令指定都市に昇格。さらに静岡市よりも人口が少ない岡山市も、平成21(2009)年に合併によって政令指定都市に移行している。

 市町村合併の風がいったん吹き始めると、様子見をしていた市町村はバスに乗り遅れるなとばかりに、次々と市町村合併が起きた。結果、平成の市町村合併は約3200あった市町村を1700にまで減少させた。

財政を圧迫する運営費

 数字だけを見れば、政府が推進した平成の市町村合併は成功だと思われた。しかし、先にも触れた篠山市は合併特例債で建設したハコモノが負担となり、合併から数年後には市の財政を圧迫し始めた。そして、合併から8年。篠山市は財政健全化に取り組むことになる。

「国が7割負担すると言っても、3割は自分たちの財布から捻出するわけです。建設費はなんとかなっても、運営費は毎月重くのしかかります。それらを考慮せずに特例債を使えば、財政が苦しくなるのは目に見えています。しかし、合併ブームのとき、みんなそれが見えていなかったのです。これは篠山市ばかりではありません。今後も篠山市のように財政が苦しくなる自治体は、いくつか出てくるでしょう」(前出・地方自治体関係者)

 合併の優等生が苦境に陥ると、事態は一転。市町村合併は勢いを失った。合併特例法は平成22(2010)年3月末に失効。4月1日からは引き続き新合併特例法が施行されたものの、以前よりも合併促進のための優遇内容は薄くなった。これを機に、平成の市町村合併は落ち着きを取り戻しつつある。

 新合併特例法の施行から5年。平成の市町村合併とは、何だったのか? どんな意義があったのか? 合併はすべきだったのか? すべきではなかったのか?

 地方創生が謳われる今、それを検証する時期にきている。

(文/小川裕夫)

「平成の市町村合併で大赤字…“地方創生”への過酷な道のり」のページです。デイリーニュースオンラインは、地方安倍政権経済社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧