渋谷区が同性婚容認…レインボカラーでは塗りつぶせない本当の多様性(後編)

デイリーニュースオンライン

「レインボー」だけが多様性ではない
「レインボー」だけが多様性ではない

【ゲイリーマン発 日本のリアル】

 前編では、渋谷区の同性婚容認化の流れに見せた東京のゲイたちの冷静な態度と、同時に感じた「なんとなくしっくり来ない感」について解説し、この感覚の正体はゲイコミュニティ内の多様な価値観が失われることへの懸念だと解説しました。

渋谷区が同性婚容認…レインボカラーでは塗りつぶせない本当の多様性(前編)

 つまりこれはどういうことかと言いますと、こうした制度が存在するのにもかかわらず、恋人を作らずに、もしくは恋人がいるのに結婚という選択はせずに生活をしているゲイを、制度を利用している側のゲイが批判や侮蔑の対象にする近未来というのが、なんとなく想像に難くない状況ができてしまっているということではないでしょうか。

 ゲイのライフスタイルというのは非常に多様性に富んでいます。恋人がいて、その人との幸せな結婚生活に憧れる人もいれば、会社では独身男性として子どもや奥さんがいないぶんバリバリと残業も引き受けて仕事に没頭している人、可処分所得が多い分趣味にかける時間もお金もあり、趣味の仲間などとの交流に忙しい人、そもそも誰かと暮らすということに魅力を感じていない人……。

 様々なライフスタイルや価値観が存在しており、自身のアイデンティティの優先順位も人それぞれ。

 現状、「同性婚」というものがこの国には存在していない以上、ある意味こうした全てのライフスタイルや価値観が平等、というか、嫌味ない言い方をすれば「等しく認められていない状態」ということになります。

 ただ、こうした「等しく認められていない状態」だからこそ、それぞれのライフスタイルに優劣や権力関係も存在せず、他人のライフスタイルには過度に口出ししない心地良い仲間関係を築けている一面があるのも事実。

 そこに、「結婚制度」が登場することで、異性愛者と同じようなライフスタイルやライフコースに憧れてそれを模倣する、マジョリティ(異性愛者)側から「模範的同性愛者」と認められた「可愛げのある同性愛者」と、一対のパートナーと一生を共にすることを選択しない(つまり異性愛者のライフスタイルに特に憧れていない)、「ナマイキな同性愛者」とが区別され、ゲイコミュニティ内の価値観にも異性愛者的なモノサシで一方的に計測した価値観が導入され、少なくはない「ナマイキな同性愛者」たちは今後自分の生活や価値観に過度な干渉がなされる可能性を察知し、手放しにこうしたニュースを受け入れていないのではないでしょうか。

 このニュースを受けて明らかになった東京のゲイコミュニティのやや冷めたリアクションは、こうした背景によってもたらされているのではないかと筆者は考えています。

本来の多様性は、レインボーカラーで塗りつぶされるべきものではない

 様々な活動をされている方々のおかげでこんにちのような目に見える成果も出てきているものと思いますし、そうした方々へは少なからぬ感謝をしなければならないと筆者も考えています。

 ただ、「ゲイなら同性婚に賛成するのは当たり前」「同性婚の議論に無関心なのは悪いこと」という前提に立った主張には、セクシュアリティ云々以前の、人間としての生き方の多様性を一つ飛ばしにした印象を受けてしまいますし、同性愛者の可視化が進むことで発生する負の部分を恐れる一般ゲイの声も、そろそろ無視できないレベルになってきているのではないでしょうか。

 人は同性愛者や異性愛者である以外にも、会社の一員であることや地域の一員であること、家族の一員であることや国家の一員であることなど、日々の生活シーンによって様々なアイデンティティを行き来し、使いこなして生活しているものです。

 人によってはそのアイデンティティの優先順位が、同性愛者であることよりも会社の一員であることや地域の一員であることの方に傾いている人たちだっているのは当たり前のことです。

 このように、一口に同性愛者と言っても、その内実は実に様々。かつて女性がもっと弱い立場だった時代に、「女性」を一括りの母集団とし、誰かが女性の代表として特定の主張をするのは不可能だったのと同じように、同性愛者のことも一括りにして「同性愛者はこうあるべき」とする言説は成立し得ません。

 冒頭にも申し上げた通り、「実態に制度を合わせるべき」「より多くの選択肢が提示されるべき」という観点から言えば、筆者も同性婚には大賛成です。

 ただ、これが結果的に多くの人に特定の望まない価値観やライフスタイルを強要する結果になるようであれば、その制度の導入や運用には慎重になるべきとも考えます。

 世の中は既にものすごく多彩で、多様性に富んでいて、決してその多様性は「レインボーカラー」で塗りつぶされてはいけないのだから。

著者プロフィール

ゲイライター

英司

東京・高円寺在住のアラサーゲイ。ゲイとして、独身男性として、働く人のひとりとして、さまざまな視点から現代社会や経済の話題を発信。求人広告の営業や人材会社の広報PR担当を経て、現在は自社媒体の企画・制作ディレクターとして日々奮闘中。都内のゲイイベントや新宿二丁目にはたびたび出没(笑)

筆者運営ブログ「陽のあたる場所へ ―A PLACE IN THE SUN―」

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