馬券で1億4000万円儲けた男vs国税庁…「外れ馬券裁判」がついに結審へ

デイリーニュースオンライン

「外れ馬券」は経費か否か、最高裁の判決が下る
「外れ馬券」は経費か否か、最高裁の判決が下る

 的中馬券の「払戻金」を申告せずに約5億7千万円を脱税したとして、所得税法違反罪に問われていた大阪市の元会社員の男性(41)の裁判にようやく決着がつきそうだ。

 一審・大阪地裁では、男性側の「外れ馬券の購入費は経費にあたる」という主張を認めた判決が下され、二審・大阪高裁もこれを支持。検察はこれを不服として上告したが、最高裁も一審・二審判決を維持する見通しだ。3月10日に判決が言い渡される。

 事件のあらましはこうだ。2007~2009年の3年間で計28億7千万円分の馬券を購入した元会社員は、計30億1千万円の払戻金を得ていた。3年間の馬券収支は1億4千万円のプラス。これを得るためにかかった経費を、元会社員は28億7千万円(馬券を購入した代金の合計額)と主張したが、検察側は、このうちの大部分を占める外れ馬券分は「経費にはあたらない」としていた。

5億7千万円もの脱税に問われた元会社員

 裁判の争点であった「外れ馬券が経費となるか」を、話をわかりやすくするために簡略的な例で説明しよう。

 1レースにつき100万円の1点買いを1日12レースしたとする。馬券の購入総額は計1200万円だ。12レースのうち的中は1レースのみ、配当が20倍だったとすると、払戻金額は2千万円、収支はプラス800万円だ。

 馬券で一定額以上の高額収入を得た場合、一時所得として納税の義務が生じる。一時所得は以下の式で計算される。

「払い戻し額―的中馬券の購入金額」-50万円

 この一時所得を算出するにあたり控除される経費が、被告と原告で大きく食い違った。

 この例に冒頭の「外れ馬券裁判」をあてはめてみる。元会社員は2千万円を得るために使った経費=馬券購入に投じた全額で、1200万円と主張した。対して国税庁は「払戻金を得るのにかかった経費は当たり馬券に投じた金額のみ」として、的中馬券を購入した分のみの100万円であるとした。両者の差額は実に1100万円にもなるが、元会社員の収支が「800万円のプラス」である以上、国税庁の指摘通りとなったら馬券を買う意味はなくなる。馬券の大量購入者は競馬から離れてしまうだろう。

 被告である元会社員は、レースの買い目をコンピュータが決める「予想ソフト」を駆使して“おいしいオッズ(=オーバーレイ)”の馬券を機械的に購入しており、その手法は博打というより資産運用に近かった。この元会社員、一定の条件を満たした馬の馬券を機械的に購入するソフトを自前で作っていたという。「おいしいオッズ」を見抜いたソフトが、買い目を自動購入することで実現した必勝法である。

 元会社員の「1億4千万円を得るのにかけた経費は28億7千万円だ」という主張はもっともであり、これが認められなければ、ソフトまで作って大量の馬券を買っていた意味がなくなる。5億7千万円もの脱税を指摘されるなど、本末転倒な話なのである。

 こうした主張の違いが生じたのは、前述の「外れ馬券は経費か否か」に対する認識が大きく違ったからだ。

元会社員の情報はどうして漏れた?

 元会社員の作ったソフトは自動購入であり、それにはネット投票が不可欠。そしてネット投票には購入記録が残ってしまうため、買い目が“ガラス張り”となり、裁判沙汰となった現実がある。

「JRAにしてみれば、今回の決着に胸をなでおろしたはずです。なぜなら、馬券の売り上げを上げることはJRAの大命題であり、国税庁の指摘通りの判決となったら、馬券の存在そのものが否定されるでしょう。PAT(インターネット投票)の加入者は減りますし、国税庁や検察に対しては『余計なことをしてくれるな』との思いがあったはずです」(競馬関係者)

 ところで、気になることがある。元会社員の情報はどうやって漏れたのか、ということだ。前出の関係者は次のように推理する。

「少なくとも、インターネット投票を管理しているJRAが情報を開示することはありえず、恐らく銀行側からだと思われます。PATでは、馬券の購入や払い戻しなど、金の出し入れはすべて各ユーザーが登録している銀行口座上で行われる仕組みなのです。元会社員は元々、株式投資のためのソフト制作と自動購入もしており、その調査の過程で馬券についてもバレた、と言われています」

残ったままの「二重課税問題」問題

 的中馬券の配当からは、券種によるが25%前後のテラ銭(賭博客が出した金額に対して、主催者の懐に入る分の金)が引かれている。そしてこのうちの10%が「国庫納付金」だ。馬券を100円買えば10円は自動的に国庫納付金となるため「購入した時点で、すでに税金を払っている。払戻金への課税は二重課税だ」との指摘もある。

 考えてみれば、元会社員が投じた28億7千万円も、10%の2億8700万円は馬券を買った時点で国に納められているのだ。しかし、これは今回の訴訟では争点にならなかった。

 昨年(2014年)7月、政府内に「馬券を非課税にし、購入時に税金を納める課税案」が浮上した。この宝くじと同様の方式が実現すれば配当(オッズ)が悪くなり、馬券ファンの買い控えも進むだろう。

 現状、競馬場やウインズ(場外馬券売り場)で1千万円を超える払戻しを受けたとしても、高額払戻し窓口で現金を受け取って終わる。納税の義務は「生じるが、あえて申告せずとも済む」こととなる。払戻金は当たり馬券と引き換えであり、どこの誰かなど無関係だ。

 対してネット投票には記録が残るという現実がある。仮に、ネット投票のみでしか買えないWIN5(5つのレースの1着をすべて当てる馬券)で2億円を当てた場合には、およそ4分の1もの税金をもっていかれることとなる。

 もちろん、WIN5でなくとも高額的中には納税の義務がある。ある税理士はこのようにアドバイスする。

「高額が当たった場合、申告せざるを得ないので、馬券はなるべくネットではなく現地で買ったほうがいいですね」

 もっとも、納税せねばならないほどのお宝を当ててみたいものだが……。

(取材・文/後藤豊)

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