チュニジアテロで露呈した自衛官の“朝日新聞嫌い”

デイリーニュースオンライン

自衛官にも好き嫌いは当然あるのだ
自衛官にも好き嫌いは当然あるのだ

 3月18日に起きたチュニジアのテロ事件で負傷をした、自衛隊中央病院所属の35歳の女性医官(3等陸佐)が事件後、報道各社に発表した自身の手記で「(朝日新聞記者が)取材をさせて下さい。あなたに断る権利はない」と書いたことが自衛隊内でも話題になっている。

 陸自第一線部隊である第1空挺団に属する1等陸曹は、「よく書いた! 朝日は自衛隊の敵だ。インタビューになど応える必要はない」と3佐にエールを送る。

 だが、陸上幕僚監部関係者によると、「職務上のことを話したわけではないとはいえ、特定の新聞社を名指しする行為は幹部自衛官としてはどうかとの謗りは免れない」としながらも、「防衛相、陸幕長の記者会見でも触れたように無断での海外渡航については厳正に処分することになる」(陸幕関係者)と話す。

自衛隊の広報は最近まで朝日新聞を優遇していた

 そもそも朝日新聞と自衛隊は両者の間はもちろんのこと、世間でも“天敵”同士として知られている。一方で産経新聞は自衛官たちからの熱烈な支持を集めているのは言うまでもない。

 陸・海・空と制服の色を問わず、自衛隊批判や不祥事のすっぱ抜きが記事になれば、自衛官たちはその記事内容は同じでも、朝日なら「攻撃態勢」に入り、産経なら「真摯な批判と受け止める」のは常識だという。

 そうした自衛隊内の空気感を反映してか、この3佐もその手記で「フジテレビの方にも取材を申し込まれました。お断りしようと思いましたが、今の自分の気持ちを伝え、今後の取材をお断りするかわりにこの文章を書いています」(原文ママ)と、産経新聞と縁の深いフジテレビには気遣いを見せている。

「自衛隊で朝日を読むのは余程のインテリだけ。基本は産経ですよ。彼女の産経と同グループのフジテレビへの気遣いはいかにも“自衛官らしい”。いっそのこと内局(防衛省のこと)も陸幕も朝日の記者など締め出してしまえばいいのだ」(前出の第1空挺団1曹)

 しかし、自衛隊の広報活動に携わった経験もある幹部自衛官(3等空佐)によると、「マスコミ対応では朝日がもっとも優遇されていた」と防衛省・自衛隊の広報対応の実情を明かす。

「大勢の取材陣が押し寄せた際、その控え室の使用は朝日なら幹部室、稀に読売もここに入れていました。基本的には朝日以外の社は、下士官と同等の接遇です。週刊誌だと士、つまり兵隊の扱い。数段、軽くみる。著名な経済誌であっても雑誌なら“兵隊扱い”です」

 なぜマスコミ各社によってその対応に違いがあるのか。防衛省関係者によると、「影響力の違い」だという。

「朝日の記者さんに下手な対応をすると何を書かれるやわからない。だから少しでも好印象を持って頂くための策」(前出の3等空佐)。

ネトウヨに触発された若手幹部・下士官の暴発に警戒

 ところが最近では慰安婦に関する誤報問題もあり、保守論壇やネトウヨに触発された若手幹部や年配下士官の間で、「朝日記者や自衛隊に批判的な記者を追い出してもネット世論の支持は得られる」と考える者が増えてきているという。

 自衛隊上層部では、実のところ、こうした動きに警戒感を露にする。ネット上の声に触発されて自衛官がネトウヨまがいの発言をメディアの前でしたり、マスコミ記者にすげない対応をしたり、暴言を吐きやしないかというのがその理由だ。

 今回、チュニジアのテロ事件被害者である3佐のマスコミ対応で自衛隊内部における“マスコミへのランク付け”意識が明らかになった。上層部の心配をよそに、若手幹部と下士官たちは3佐のコメントに拍手喝采を送っている。上層部の頭痛の種がまたひとつ増えた格好だ。

(取材・文・写真/秋山謙一郎)

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