JASRACの包括徴収問題に音楽業界「テクノロジーの発達で公正な競争が可能に」

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音楽活動支援サービス「FREKUL」を運営する株式会社ワールドスケープの代表、海保けんたろー氏
音楽活動支援サービス「FREKUL」を運営する株式会社ワールドスケープの代表、海保けんたろー氏

 JASRACの「包括徴収」方式に対し、独占禁止法違反ではないかと争われている問題で、今年の4月末、最高裁により、JASRACにとってかなり旗色の悪い判決が出されました。

JASRACは「新規参入妨害」確定 著作権料徴収で最高裁が判決

 この問題では、そもそもJASRACのどのような点が問題視されているのか。そして、同業他社はその現状に対しどのような改善の取り組みを行っているのか。今回は音楽活動支援サービス「FREKUL」を運営する株式会社ワールドスケープの代表、海保けんたろー氏に話を聞いてきました。「FREKUL」はJASRACの事業内容と近しい部分を持つサービスです。

FREKUL

──そもそもJASRACとはどのような事業を行っている会社なのでしょうか? 一般的には「アーティストの著作権を守っている……??」というイメージですが……。

海保「例えば誰かが曲を作るとしますよね。……著作権自体は実は作った時点で著作者に自然発生的に発生しています。それはJASRACに登録する、しないという問題とは無関係なのです。原始的な話をしますと、その人の曲をテレビで使いたい、お店でBGMとして流したい、と考えた場合、本来はアーティスト一人一人と交渉して、値段を決めて、契約書をやり取りしなければなりません」

──それはお互いに面倒臭いですね。使う方も、アーティストも。

海保「そこでJASRACが生まれたわけです。私の曲はJASRACに著作権管理を委ねます、とアーティストが契約しますと、テレビ局とかお店の人はJASRACと話をするだけで良くなるわけです。話が簡単になりますよね」

──ここまでは双方にメリットのある良い話ですね。

海保「問題はここからです。JASRACは曲の内容などとは関係なく一律で使用料を公開しています。こういう使い方をしたら5000円ですよ、こういう使い方をしたらウン十万円ですよ、月額で契約もできますよ……と。それ自体は分かりやすくて良いのですが、一方で、アーティストに分配されるお金の方がよく分からないんです。もちろん楽曲ごとに利用の申請が来れば、きちんとした分配が行われるとは思うのですが、ライブハウスで演奏された曲などでは不透明です。これは後の「包括契約」方式の問題に関わってきます」

──アーティストにはJASRACからどういう報告が来るんですか?

海保「項目ごとにざっくりとした報告が来るだけですね。放送関係でウン円振り込んでおきました、みたいな感じです」

独自のサンプル収集方法がブラックボックス

──「包括契約」方式というのは?

海保「テレビ局での利用などが代表的なんですが、いちいち、何時何分のどの番組で何秒間あの曲のイントロを流しましたよ、ということを報告して、いちいち利用料を請求してもらうのは大変すぎますよね。そこで、売上の何%かをJASRACに払ってくれれば使いたい放題でいいですよ、という契約を結んだんです。お互い便利になるし支払いも安定するから一見良いのですが、厳密に誰の曲が何回使われたのかカウントを取りませんので、"JASRAC独自のサンプル収集方法"によって判定されることになります。これがブラックボックスでして……。俺の曲、もっとラジオで頻繁に流れてる気がするんだけど……ということが起こってきます」

──ライブハウスもJASRACとそういう契約を結んだりしているわけですよね。確かに僕のバンドもライブハウスで、あまり有名じゃないアーティストの曲をちょろっとカバーしたりすることはあります。JASRACのサンプル収集方法が、そういった「稀に演奏されるメジャーじゃない曲」の実際の利用状況を確実に拾い上げて適切にアーティストに分配できるとはとても思えないです。

海保「その状況は良くないだろうということで、15年前にイーライセンスやJRCが立ち上がりました。ここは利用楽曲は全部カウントするなどJASRACよりも明朗会計を目指しています。実際は色々と難しいところもあるのですが、思想的にはそういう団体です。これはいいじゃないかということで、アーティストも結構JASRACをやめてこれらの会社に流れました」

──当時、話題になりましたよね。

海保「ですが、そこで包括契約の問題が出てきます。JASRACは定額で使いたい放題なのに、イーライセンスの曲を使おうとすると別途で申請や費用が必要になります。使う方としては、じゃあJASRACの中から使えばいいか、となるわけです。するとアーティストとしてはイーライセンスやJRCに登録しててもテレビで使われなくなってしまう。納得はいかないけどJASRACに戻るしかない……。そういう状況に対して、こんなのじゃ新規参入ができないぞ、独占禁止法違反だ、ということで、イーライセンスがいまJASRACと戦っているわけです」

──今回の最高裁判決でJASRACの包括契約は無くなるのでしょうか?

海保「まだ全部にカタが付いたわけではないですが、今のところの話としては、面倒かもしれないけどテレビ局側もちゃんと数えて申告しましょうね、という話になっています。JASRACがどう"改善"するのかは分かりませんが……」

──しかし、いちいち報告するのが面倒だというのは事実なんですよね? 海保さんのFREKULではその点はどうしているんですか?

海保「例えば、弊社に登録して頂いたアーティストの楽曲を、いま提携先のシンガポールの店舗内BGMとして流しているのですが、これはオンライン経由のストリーミング配信形式ですので、データを何回呼び出されたかログが全て取られています。再生回数に応じた正確な分配が可能です」

──なるほど、ネット時代になったことで技術的な可能性がいろいろ出てきたわけですね。ネットと言えば、ニコニコ動画などでの「弾いてみた(※既存の楽曲を動画投稿者が自分で演奏した動画)」がありますが、あれはニコニコ動画とJASRACが包括契約を結んでいることで可能になっている形態ですよね? そういうのにもFREKULは対応できるんですか?

海保「あれは演奏権ですね。弊社は現在のところ演奏権には触れていないので、それはできないのですが、代わりにJASRACなどでは扱っていない原盤権を取り扱っています」

──原盤権?

海保「例えば、ニコニコ動画では「弾いてみた」をアップすることは可能ですが、その元となった楽曲をそのままアップしたり、BGMに使ったり、ということはできません。JASRACには原盤権がないため、それを許可する権限がないからです。原盤権は通常レコード会社が保持しています。avexなど一部のレコード会社はニコニコ動画に原盤の使用許諾を出していますが、あくまで一部です」

──えっ、でも、テレビやお店で曲をBGMに使いたい時はJASRACに話を通すだけで使えるんですよね? なぜネットでのBGM利用に関してはJASRACはOKを出せないんですか?

海保「そこは複雑なのですが、原盤権と著作権はまた別なんです。JASRACは著作権は管理してるけど原盤権にはノータッチ。それで、原盤権にはテレビや店頭でのBGM再生に関しては禁止する権利がないんですけど、逆にネットでのBGM再生などに関しては禁止する権利があるんです。送信可能化権というやつです。ざっくり言えば、テレビやお店で楽曲そのものを使いたい場合はJASRACだけでいいけど、ネットで楽曲そのものを使いたい場合はJASRACに加えて各レコード会社にも話を通さなければいけない……というわけです。「弾いてみた」のように演奏するだけなら著作権の方だから、JASRACだけでいいのですが……」

──テレビでのBGM再生はJASRACだけでOKで、ネットでのBGM再生はNGとか感覚的にはよく分からないですね。インターネット・テクノロジーの発達に伴い、著作権と原盤権の違いが浮き彫りになって、法的整備が追いつかず(?)不可解な状況になっている感じでしょうか。……それで、FREKULではその原盤権も登録アーティストから預かっている、と?

海保「そうですね。正確に言うと「原盤の使用権利」と、「原盤の使用権利を他者に与える権利」をアーティストから頂いている形です。これは去年からスタートさせた新しい試みなのですが、登録アーティストに対して、「あなたがアップしているあなたの曲を、弊社が『これはいいな』と思った企業などに弊社の一存で提供してもいいですか?」という、ざっくりとした許可を曲ごとに求めたんです。弊社を信頼して許諾のチェックボックスをオンにしてくれた曲が、現状4000~5000曲ほどあります。大体、六割ほどの曲がオッケーをしてくれています。『この会社はしっかりと利益を出してアーティストに分配できそうだ』とか、逆に『このサービスでは収益は得られないけどプロモーション効果が高そうだ』と思ったら僕がGOサインを出していく形です。アーティストはそれぞれの判断で自分の曲を自由に使ってくれて構わないのですが、それに加えて、弊社にも判断する権利を預けてもらう形です」

──それにはどういう強みがあるんですか?

海保「例えば、どこかの会社が音楽再生アプリを作ったとします。JASRACの一存では、このアプリに曲そのものの利用権利を与えることはできません。加えて個々のレコード会社との契約が必要になりますが、弊社であれば僕を口説き落とし(笑)さえすれば、FREKULのライブラリーにある4000~5000曲を一気に使えるようになるわけです。ネットやアプリ系の事業者にとってアクセスしやすいのに加え、中間業者が少なくなるためアーティストに対しても還元率を高めることができます」

──これまで事務所がやっていたような、「営業」の役割も海保さんの会社が担っている、ということでしょうか。

「そうですね。ただ、従来の事務所は自分たちが抱えるイチオシのアーティストを積極的に営業していましたが、弊社のサービスでは登録アーティスト全員をシステマティックに一律でアピールできるようなシステム作りを目指しています。JASRACやイーライセンスに登録している楽曲はFREKULには登録できないので、まだ事務所に入っていないインディーズアーティストの方などに積極的に利用して頂けると嬉しいですね」

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 このようにJASRACの同業他社では、JASRACの抱える問題点を克服しようとしたり、また、JASRACのカバーしていない分野に手を伸ばすなどの動きがあるようです。インターネットを始めとするテクノロジーの発達がそれらを後押ししています。なお、現状に問題意識を持っているのはJASRACも同様らしく、JASRACのホームページによると、JASRACもまたテレビ局に対して全曲報告(使用した全ての楽曲を報告する)を求めているようです。

これまでは放送局にCD・レコードによって放送した大量の曲目を全て報告いただくことは、物理的に困難でした。このため、CD・レコードによって放送した分に限ってサンプリング報告を実施してきました。しかし、最新の技術を利用することにより全曲報告が以前に比べ少ない労力で可能になりつつあります。すでにNHKや民放テレビキー局、FMラジオ局を中心とした放送局では全曲報告が開始されています。

放送(1 放送使用料が分配されるまで) JASRAC

 全曲報告が一般化すれば、アーティストに適切な分配が行われるようになります。そうなると包括契約すらも不要になり、イーライセンスやFREKULなどの後発事業も真っ当に渡り合えるようになって、公正な競争が行われるようになることでしょう。テクノロジーの発達により公正さが促進されるのは素晴らしいことなので、JASRACにはぜひ頑張って欲しいですね。

海保けんたろー氏公式Twitter

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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