歴史の捏造『江戸しぐさ』に潜む危うさ|やまもといちろうコラム

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画像は「NPO法人江戸しぐさ」ホームページより
画像は「NPO法人江戸しぐさ」ホームページより

 やまもといちろうです。捏造ではなく本名です。

 ところで、以前から事実関係が怪しいということで盛んに検証の対象となっていた、『江戸しぐさ』という正体不明の江戸時代のしきたり集ですが、どうもさすがに酷評に堪えかねて検証する媒体側を「NPO法人江戸しぐさ」が法的措置を取るという話が流れてきているようです。

 この「NPO法人江戸しぐさ」にも直接事実関係を確認しに連絡したところ繋がらず、関係者に事情を聞くと「検討はしていると思います。さすがに“こんなはずではなかった”というような感じで参っているようなのと、“悪い話をしているつもりはない”と、少し開き直っている感じになっていて」という話でした。

続・江戸しぐさの正体

【著者インタビュー】虚偽で形づくられた「江戸しぐさ」の正体とは

捏造された「江戸しぐさ」(偽史・ウソ)

 ただし、現状で見て江戸しぐさの問題を眺めてみると、私のような限定的な知識しか持たない人間でさえ、江戸に生まれ育った曽祖父、祖父や父親から聞かされた江戸のしきたりとはあまりにも隔絶した内容が『江戸しぐさ』として流布されているのは違和感しか感じないんですよね。

講元制度はそもそも存在していない!?

 wikipediaには「華族の流れを引く小林和雄は江戸しぐさの教育組織である『江戸講』の長である江戸講元の子孫だったため、昭和に入ってから江戸しぐさを復興した」という記述があります。なんですか、これ。私の実家は八重洲で一族は江戸っ子ですので、かねてから「講」があったことは聞かされて育ちましたが、江戸講元があるという話は聞いたことがありません。というか、「講」はそもそも教育機関ではなく互助組織であって、よろず町内会のようなものがあり、多様な寄り合いの町内会でやるべきことのひとつが、子供に対する習い事にすぎなかったと思います。

 そして、講については講元という制度はそもそも存在していなかったはずで、なぜか秘密結社のように『江戸しぐさ』では語られていますが、単純にその地域で暮らす人たちは「講」に入るのは自由、中では諍い起こさないなどの最低限のしきたりしかなかったと聞いていました。この『江戸しぐさ』ではなんか不思議組織みたいな扱われ方をしているのには疑問しか感じません。

 むしろ、『江戸しぐさ』に見られる情緒的で道徳のある世界観よりは、江戸弁で争いを好み罵声の中で友情を育み、品がなくとも強く優しく生きていく的な価値観のほうが色濃く伝わっているように思います。津田沼で高潮が出たと聞けばあっちの奴らはたらふく海苔が食えて幸せだなと言い、療養所の多かった小石川で流行り病の病人が多数担ぎ込まれたと聞けば、坊主の百人も出してやれば成仏できるじゃねえかと煽りながら、実際にやっていることはひっそりと見舞金を出したり、自社仏閣前でやる炊き出し用の芋を差し入れたりするのが江戸っ子だったと思うんですよね。

 どうしても江戸というと「粋」の文化だと括られることも多いんでしょうが、むしろ道徳や人情を表に出して露骨に善良ぶる必要はないだろうというのが地場の江戸文化だったのかなあと個人的には感じて育ちました。

 私の言うことも所詮は口伝なので別にどうという話でもないのですが、ただ少なくともこの地に育った人間として知っているものと見比べると『江戸しぐさ』の捏造は明らかなものだと思いますので、関係者におかれましては思う存分戦っていただければと思う次第であります。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

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