吉田豪インタビュー企画:作詞家・及川眠子「エヴァンゲリオン主題歌は通りすがりでもらった仕事」(2) (3/3ページ)

デイリーニュースオンライン

カヴァーや替え歌も許諾さえとってくれればご自由にどうぞ

──朝早すぎて(笑)。自分の作品へのこだわりってそんなにないですか? 出したらそのあとは。

及川 世に出たものはこだわりないです。だからカヴァーさせてくれとか替え歌を作っていいかとか「あ、どうぞどうぞ」って、何に使われてもまったくこだわりないですね。

──川内康範先生的なこだわりはないわけですね。

及川 許諾さえ入れてくれれば。勝手に変えるなよっていうのはあるんですけど。ほら、こないだ『会いたい』の沢田知可子さんが。

──替え歌にして怒られてましたね。

及川 ああいうのもべつに、替え歌やりたいなら「あ、どうぞ」って。

──許諾のないケースも結構あるんじゃないですか?

及川 ありますね、それは怒ります。許諾がないことに対しては。

──Winkのさっちん取材のとき、ボクが持ってるWinkのCDを全部持ってったら、さっちんが「これ知らないです」みたいなのが結構あって。

及川 あれはボーッとしてるから(笑)。

──リミックスとかディスコカヴァーみたいなのが結構あるじゃないですか。「サンプルも何ももらってないです」みたいな。

及川 ああ、それは知らないでしょうね。来ないですよ、私のとこも。たとえば『残酷な天使のテーゼ』っていろんな人がカヴァーしてますけど、そういうサンプルは来てないですよ。

──基本、曲の権利を持ってる会社に許可を取ればいいというか……あれ、取らなくてもいいんでしたっけ?

及川 基本、取らなくてもいいらしいですね。そのまま使うんだったら言わなくてもいいっていう判断です、ジャスラックは。

──筋道論として許可は取ったほうがいいぐらいのものだと。

及川 そうなんですよ。で、たとえば訳すとか、歌詞を変えるとか、そういう場合はちゃんと許諾を取ってくださいっていう。

──洋楽を訳すのが結構引っかかるっていうのは聞きました。意外とそれで許可が下りなくなるっていう。

及川 なんでも許可が必要だからね。いちいち聞いてこなくてもいいのにっていうぐらい(笑)。でも、「いや、そういうわけにいきません」って言われて。

──サンプルくれればいいや、ぐらいなのに。

及川 そうそう。

ゴールデンボンバーの詞はプロには書けない

──そんな及川さんのTwitterを見ていると、最近はゴールデンボンバーを絶賛しまくってますよね。

及川 金爆はもう3年ぐらいファンですね。いきなり金爆ファンのフォロワーが増えたっていう。

──それは作詞家として評価しているわけですか?

及川 一番最初にゴールデンボンバーを好きになったのは、なんて一生懸命バカなことをやってる子たちなんだろうっていう愛おしさ。自分の息子ぐらいの歳の子が一生懸命やってるんだなっていうんで、愛おしいな、この子たちってYouTubeで観て思ったんですよ。そのあとちゃんと聴いたら、この子ものすごく才能あるわっていう。曲の才能はあんまり感じなかったんですけど、いろんなものを聴いてうまいとこ混ぜてるなっていう。詞はすごい才能あるなと思いました。

──どの辺りがですか?

及川 あの子の世界観って半径500メートルの世界観なんですけど、そのなかで言葉が剥き身なんですよ。ストレートにスコーンとくる。あれって職業作家は怖くてできないってところがありますよね。

──「セックスという言葉を使わないでいかにそういうことを表現しようとこっちは頑張ってるのに」とか及川さんは言ってましたね。。

及川 そうそうそう。こっちはそこで頑張ってるのに「セックスの歌とか歌いたい」なんて言われちゃもうおしまいよ、みたいな(笑)。だから『元カレ殺ス』なんかもそうで、「思い出に負けない」とか、こっちはいろんな言葉を使ってきたのに。

──詩的な表現を。

及川 そう、なのに『元カレ殺ス』って言われたら(笑)。あのストレートさっていうか。

──自分にはできない部分だった。人の詞でこれはすごいって思うこととかよくあるんですか?

及川 たまにありますよ。最初の頃の椎名林檎とか、すごいなっていうのはありましたし。山崎まさよしとか。

──たしかに椎名林檎はすごかったですよね。「え、そこでその人名を出す?」みたいなのとか。

及川 そう。山崎まさよしは、やられた。そうか、「桜木町」かって(笑)。それこそゴールデンボンバーの『また君に番号を聞けなかった』で、「080の方かな? ドコモかなエーユーかな?」ってフレーズがあるんですけど、それなんか考えもつかない。

──プロは使わないフレーズですね。

及川 プロは使わないですね。ああいうところは自作自演する子たちのおもしろさですよね。

──先輩だとどういう作詞家がすごいと思いました?

及川 すごいなと思ったのは青島幸男さんですね。

──あ、そっち!

及川 そっち(笑)。この人はすごいなと思った。

──もっと正統派な側じゃなかったんですね。

及川 正統派ではないですね。職業作家では阿久(悠)さんだったり、なかにし礼さんだったりっていうのが私たちの先輩ですけど、私がずっと聴いていたのは歌謡曲ではなかったんですよ。やっぱりフォークソングとかなんで。あと私ずっと好きなんですけどムーンライダースとか、あと下田逸郎とか、あとは関西系の加川良だったり友部正人だったり、そういう詞ですね、どっちかっていうと。

──ムーンライダースはずっと好きみたいですね。

及川 ずっとムーンライダース愛は続いてるんです。

──そのへんのお仕事ってそんなにやってませんよね?

及川 そんなにやってないです。ムーンライダースは、かしぶち(哲郎)さんと、岡田(徹)さんと白井良明さんは一緒に仕事したことあるんですよ。ほかの3人はないんですけど。でもどっちかっていうとあの系統の音楽っていうのは発注がこないですね。好きなのはあっちなんですけど、仕事がくるのはアイドルとか。

──ボクはムーンライダース本隊よりも、メンバー各自がやってるアイドル絡みの外部仕事のほうが好きなんですけど。鈴木慶一さんに会ったとき、あなたの渡辺美奈代さんの仕事がいかにいいかって話をずっとしてたら、なぜかキョトンとされて。

及川 ハハハハハ!

──渡辺美奈代さんに会ったときも、鈴木慶一さんとの仕事がいかに素晴らしいかって言ったら、やっぱりキョトンとされて。渡辺美奈代さんからしてみれば、私が売れなくなったあとの曲ぐらいの感覚なんだと思いました。

やりたいものと求められるものが違って悩んだことも

及川 そうでしょうね(笑)。大好きですけどね。仕事がくるものと好きなものが全然違うから一時、ものすごく苦しんだんですよ、Winkが売れたあと。アイドル、企画ものの仕事がわんさかきて、自分としてはアーティストをやりたかった。っていうのは、そっちのほうが好きだから。

──加川良とか友部正人の流れとは違いすぎますからね。

及川 そう。ロックもアメリカン・ロック、ザ・バンドとかリトル・フィートとかトム・ウェイツとかが好きだったから、ああいうのをやりたくて。でも、仕事がくるのはアイドル系ばっかりで。一時、そういうの全部断りたいって言ったことがあったんですよ。そのときにフジサンケイグループの音楽出版社にいたんで、『ポンキッキ』とか余計そういう仕事がきてしまう。で、もっとロック系をやってるところに事務所を替わりたいと思って、同じ業界の友達に相談したんです。「あそこの事務所はどうですか?」って言ったら、「いい事務所だと思うよ」「向こうから引きがきてるんで替わろうかなと思ってるんだけど、どう思う?」「うん、いいんじゃないかな。でもね眠子さん、いまWinkや早坂好恵を左手でペロペロペロッと書いて、私ホントこんなことやりたくないのよと思ってるかもしれないけど、それが世間の求める及川眠子なんだよ」って言われたときに、「あ、そうか!」って思ったんです。本人的にはべつに力も入れなくて書いてて、なんでこんなことやってんの?って思いながら、でもスマッシュヒットを出してる。それが世間が求める及川眠子だって言われたときに割り切れたんですよね。なるほどっていう。

──世間は加川良的なものを求めてるわけじゃなかった。

及川 そう思いましたね。っていうのは、そのときに彼が、「たとえばいい事務所で大人のいいアーティストの仕事をしてると、眠子さんすっごい地味な作家になるよ。あなたが持ってるものは派手だよ、言葉とか。それがせっかく売りにできてるのに、そういうの捨てていいところに行くと地味になるよ」と。そうだなと思った。

──それで私はこっちでいこうってなったわけですか?

及川 なんでもやろうって。

──いろいろやってるなかで、たまにそういう好きなものがくれば。

及川 それでいいかなって。Winkが売れたときは、Wink、CoCoってアイドルの仕事ばっかりバーッときて、やしきたかじんが売れたら、今度はムード歌謡ばっかりバーッときて、『エヴァンゲリオン』が売れたらアニメの仕事がやたらきたり、世間ってこうなんだなって。だから次また別のもの売ったら、また別の仕事がくるんだろうなって。そうやってるうちにロックとか当たるかもねって、当たってないですけど、なんも(笑)。

──ロックにこだわらなくなった結果、夢の印税生活者になって(笑)。

及川 まあ、『エヴァンゲリオン』だけですけどね、いまでもお金を生むのは。音楽業界が全然ダメだから。

──お金を生むレベルが違うでしょうからね。

及川 大きいのはパチンコとカラオケですね。

──最近、高速道路かなんかで使われたのはそんなにお金にならなかったんですか?

及川 あれそんなにならないはずですよ、イマイチよくわかってないですけど。

──パチンコはデカいでしょうね。

及川 パチンコはデカいですね。

──劇場版の新作もパチンコがないとできてないですもんね。

及川 うん。いまvol.9かな? ふつうはありえないんですって、そんなにパチンコのシリーズが継続されるのが。

──『少年ジャンプ』系ってイメージが悪いからってパチンコの話を全部断っちゃうらしいんですよ。それに本宮ひろ志先生がキレて、「なに勝手に断ってんだコノヤロー! 俺がちゃんと乗り込む」って言って、がっつりパチンコメーカーと組んでパチンコ台を作ろうとしてっていう話を取材したときに「当たれば億だぜ」とか熱く語ってくれたんですけど、取材に行った本宮プロが入ってるビルが某パチンコメーカーのビルで、これがっつり入り込んでる! と思って(笑)。

及川 そう、当たれば億なんですよ、そういうのは。特に漫画家の先生とかはその権利も全部持ってるから。

──それだけデカいビジネスだと、曲が使われるだけでもドーンと入るわけですね。

及川 うん。やっぱりすごいお金が動いてる業界ですよね。

<次回に続く>

プロフィール

作詞家

及川眠子

及川眠子(おいかわねこ):作詞家。1960年、和歌山県出身。1985年に三菱ミニカ・マスコットソングコンテストで最優秀賞を受賞し、応募作の『パッシング・スルー』(歌:和田加奈子)で作詞家デビュー。作詞した作品としてWink『愛が止まらない』『淋しい熱帯魚』、やしきたかじん『東京』、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』主題歌の『残酷な天使のテーゼ』などがある。また、アーティストのプロデュースも手がける他、ミュージカル、アニメ、CMなどにも詞を提供している。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。

(取材・文/吉田豪)

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