【新国立競技場】決断のキーパーソン森喜朗の発言録|プチ鹿島コラム

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http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/
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「新国立見直し、デザイン変更へ ラグビーW杯使用断念」というニュースがあった今週。安全保障関連法案の衆院通過直後というのもわかりやすかったが、視点を変えるともう一点わかりやすい点があった。首相が白紙を表明する直前、今週何があったか。この問題で注目されていた2人がマスコミの前に出てきたのである。安藤忠雄と森喜朗。素晴らしく奇遇ではないか。

新国立見直しで興味深い森喜朗の発言

 2人の言い分は結局「俺は悪くない」。本人たちに弁明の場を与え、さぁ「白紙」という段取りのようにも思えた。勘繰りすぎならすいません。それにしても興味深いのは森喜朗である。まず17日の産経新聞に《【単刀直言】森喜朗元首相「新国立競技場の経緯すべて語ろう」》というインタビューが出て、同日BS朝日「激論!クロスファイア」の収録に参加。

 新聞とテレビ。ここで話題になった発言が新国立デザインに関するもの。「僕はもともとあのスタイルは嫌でしたからね」「生カキをドロッとたれたみたいでね」という言葉。今さらそんなことを言うな、というツッコミの大合唱になった。でも、この「生カキ」発言は、実は1年前にもメディアで発言している。昨年4月22日のTBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」にゲスト出演したときも森氏は「生カキみたいな」と発言しているのだ。新国立のデザインはあまりお気に入りではないというニュアンスを漂わせていた。

 この「生カキ」発言は1年前と変わらず。では発言が変わった部分はあるのか。そこを探せばいい。照らし合わせばいい。1年前の「デイ・キャッチ!」では他に何と言っていたのか? 新国立競技場の建て替えについて問われた森氏は、

「オリンピックが決まる3年前からやってた 。なぜ?オリンピック決まってないのに。」

とパーソナリティに逆に質問した。続けて、

「簡単、簡単。ラグビーが決まったからでしょ。ラグビー(W杯)が決まったから、さぁ行こうと」。そして「ラグビーだけだったら、おそらくなかなかああいうもの(建て替え)にならなかった。」と発言している。建て直しのきっかけはラグビーW杯2019の招致決定。でもそれだけだったら「豪華絢爛な新国立競技場」にできなかった。2020年東京五輪が決まったことでド派手になった。勝手に翻訳するとこうなる。

 森氏は今週の産経インタビューでは「2019年にはプレ五輪がある。五輪と同じ競技場を使うわけです。それまでに新国立競技場を完成させなければならない。」と言っているが、1年前のメディア(「デイ・キャッチ!」)ではラグビーW杯に関する言及こそ多いものの「プレ五輪の重要性」については語っていなかった。

「生カキみたい…」ザハ案への嫌悪感は本音か?

 さて、産経で森氏は「ザハって人に頼んだというのは僕もさっぱりわからない」と言っている。ザハ案に不快を表明する点は1年前と同じだ。ここで安藤忠雄の今週の会見がポイントになってくる。氏はデザイン・コンクールの委員長としてザハ・ハディド案を選んだ(2012年11月)。

 会見で安藤氏は「(2020年の)招致に勝ってほしい。斬新、ダイナミックなものを選んだ」と言った。私は先週の当コラムで、《「有識者会議」で2012年に決定した方針が「8万人収容できること」「閉会式の屋根」「可動式観客席の導入」であった。つまり、このあとにデザインコンペがおこなわれるなら選考基準は誰でもわかる。ド派手なモノだ。》と書いた。当の安藤氏も同じことを会見で述べたことになる。昨年10月にはデザインコンペの委員をつとめた内藤廣東大名誉教授のこんな発言があったという。

「審査は拙速だったと言われても仕方がない」
「時間のない中で早急にと言われて、本来はこんなふうにやるべきではないと思いながら巻き込まれた」
(「週刊新潮」2015年6月18日号)

 なぜ時間がなかったのか? 時系列でみればわかる。コンペの時点では「2020年東京五輪」は決まっていない。いや、それどころか、IOC(国際オリンピック委員会)への五輪招致のための立候補ファイル提出期限(2013年1月)が迫っていたのである。斬新でド派手なデザインを早く決めて書類を出さなければ。なぜ? ラグビーW杯だけでは新国立競技場の「豪華な建て直し」に世論はついてこないからだ。

 18日に放送されたBS朝日の番組で森氏は、

「19年のラグビーのために急がなければいけないとか言われるが、イヤならやんなくていいんです私は。私はW杯を勝ち取ってきた立場ですが、このことと国立競技場を建て替えることは別。」

「国立競技場の建て替えは、国がやらなくてはいけない仕事。なのになかなか重い腰を上げない文科省、財務省。だから議員連盟ができて後押しをした」

と語ったあと、

「オリンピックがきた(招致決定)んでありがたいなと思ったんです、テコで(相乗効果で事態が動くから)。でも今となってはホントに迷惑もいいところ」

と言ってのけた。というのも、

「言いにくいのは、オリンピック組織委員長が私で 、ラグビー協会会長も私で。同じ森喜朗がけしからん、とケンカしなければならない。オリンピックのおかげで神宮の横のラグビー場をオリンピックのあいだ駐車場にしなければいけない。 けしからん。」

 やっぱりラグビー重視だった。もう、オリンピック組織委員長なんて辞めたら?

著者プロフィール

putikashima

お笑い芸人(オフィス北野所属)

プチ鹿島

時事ネタと見立てを得意とするお笑い芸人。「東京ポッド許可局」、「荒川強啓ディ・キャッチ!」(ともにTBSラジオ)、「キックス」(YBSラジオ)、「午後まり」(NHKラジオ第一)出演中。近著に「教養としてのプロレス」(双葉新書)。

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