軍事オタクが唸る幻の「九九式高等練習機」をタイ国立空軍博物館で発見

タイ王国空軍は1913年に創設され、約100年の歴史を誇る。戦前の大日本帝国陸軍が初めて航空機を入手したのが1910年なので、タイもアジア諸国の中ではかなり進んでいたと言える。
そんなタイ空軍の歴史がわかる「タイ国立空軍博物館」が実はおもしろい。バンコクの北側にあるドンムアン国際空港ターミナルから滑走路を挟んで反対側にある空軍基地内にある。入場料は外国人も無料だ。
この博物館は初期の航空機から2011年に配備された戦闘機サーブ39グリペンのモックまでが展示されている。かつての戦闘機などはタイ空軍カラーなど、ほかでは見られない仕様も見られる。
入り口の建物の裏にも展示物がたくさん並んでいた。旅客機や輸送機、ヘリコプターなどだ。ここに限らず、タイの博物館は展示物と見学客の距離がかなり近く、特にここは展示物との距離がゼロにまで迫れる。つまり、触ってもいいし、中に入れる場合はコックピットの中も弄り放題なのだ。

タイ空軍初期に使用されていた複葉機

グラマンF8F-1ベルキャットは戦後から1960年代初頭まで運用されていた

F16戦闘機のモック。タイ空軍では60機前後が運用されている

コックピットに自由に入ることもできる。しかし、その分壊れていたり、安全面への配慮はない

ヘリコプターの展示物も自由に触れることができる

展示用に修復中の航空機
この「タイ国立空軍博物館」は日本との関わりもいくつか見られる。実は、第2次世界大戦では終戦の1945年8月15日までタイは日本の同盟国であった。日本がポツダム宣言の受け入れることを通達した際に、当時のタイ政府がそれまでの同盟条約の無効を宣言し、日本も受諾した。
そして、連合国側もそれを受け入れ、タイは戦勝国になる。その同盟していた1941年から45年までの間、旧日本軍から当時のタイ軍に多くの兵器が供与されていた。航空機もそのひとつだった。
日本の貴重な航空機を展示
そんな日本との関係を示すもので、特に注目したいのが黄色く塗られた「立川 キ55」である。日本では九九式高等練習機と呼ばれるもので、九八式直接共同偵察機(キ36)を1939年に改造したタイプである。タイはキ36と55の両方を発注したが、納入されたのは1942年のキ55の方だけだったという。

唯一現存する立川キ55だが、タイ人にはあまり注目されていなかった
博物館内ではエアコンも効いていない、ほとんどオープンエアの館内に展示されているが、実はキ55は世界中で現存するのがここの機体のみで、ここでしか見られない貴重なものだ。
それから、敷地内にある売店もおもしろい。ここでは様々なグッズが販売されている。子ども向けのおもちゃのほか、制帽や階級章、ワッペンなどがあった。店主の女性に話を聞くと、
「こういった階級章などはすべて本当に空軍職員も使っているもので、レプリカではないんですよ」
と自慢げに答えた。博物館自体が空軍基地内にあるのだが、周囲も数キロに渡って空軍職員の居住地区になっている。そんな彼らも自費で制服を新調する際にはここに来るのだそうだ。しかも、それらのグッズは観光客も職員と同じ300円くらいから買えてしまうので、安い。
「タイ国内ではこれらを身につけても違法ではありません。ただ、それを使って身分詐称をすると逮捕されますけど」
店主は続けて棚から薄いシートの束を出して見せた。プラモデル用の装飾用デカール(シール)のようである。

零式水上偵察機のタイ王国海軍仕様のデカール
「現在のタイ空軍仕様のデカールはもちろんのこと、ゼロ戦のタイ軍仕様のものもあって、ほかでは手に入らないものも多いんです」
そのため、店主によれば、すでに多くの日本人マニアが買いに来ているのだとか。タイ王国空軍はまったくその気はないと思われるが、この空軍博物館は日本人にも非常に興味深い場所になっている。
(取材・文/髙田胤臣)